第17話 アウレラ最強伝説
「てめえ!なにしやがる!」
後ろにいた男が怒鳴った。
「いやいや、そっちが先に手を出してきたんでしょうが」
「もう勘弁ならねえ!裏庭に出ろ!」
「俺は別にあんたらとやりあう理由はないけど、まあ、その様子じゃ話しても無駄なようだね。確かにここじゃ他の人の迷惑になるから裏庭に行こうか」
トキオは、立ち上がって裏庭に向かった。4人もついてきたが、ヴァルターは腹を押さえてよろよろとした足取りだった。
「新参者のくせに俺たちをなめるとひどい目にあうぞ!」
男の一人が怒鳴った。
4人がギルドの建物を背に、トキオが建物に向かって立っていたが、すぐにギルド内にいた他の冒険者がばらばらと出てきた。
皆、これから楽しいことが始まるかのように、にやにやした顔をしていた。
最後にミレリアまで出てきたが、期待のこもったワクワクした顔をしてトキオを見つめていた。
「さあ、覚悟しな!」
ヴァルターは、まだ後ろで腹を押さえていたが、どうやら他の3人で同時にかかってくるようだった。
(しょうがないなあ。まあ、こいつらの実力もわからないからちょっと様子を見るか。構えからいって大したことなさそうだけど)
まず、男の一人が殴りかかって来た。
それを余裕でかわすと、次に女が前蹴りを飛ばしてきたのでそれをかわすと、間髪を入れずに最後の男が殴りかかってきたが、それも余裕でかわした。
ここまでトキオは、上体の動きだけで手足は使っていなかった。
「さすがだなあ」
観客の一人から声が漏れた。
(うーん、やっぱり大したことないや。もう終わらせよう)
次に男が殴りかかって来た時に、それをかわしながら後頭部に肘打ちを食らわせて地面に這いつくばらせると、次に殴り掛かって来た男には、かわしながら横っ腹に正拳突きを叩き込んだ。その男も地面に倒れ、横腹を押さえてうめいた。
最後に女が、壁に立ててあった長い棒をとって殴りかかってきたが、それもかわして手刀を手首に叩き込んで棒を落とさせると、後ろから首を締めあげて失神させた。
(さすがに女は殴れないからね)
「おおー!」
観客から歓声が上がった。
そこで、テリット、ブローム、アウレラが現れた。
すると、ヴァルターが腹の痛みが治まったのか、剣を抜いてトキオに向かってきた。
「おい!やり過ぎだぞ!」
誰かが怒鳴った。
「黙ってろ!もう容赦しねえ」
ヴァルターは、そう言うとトキオにじりじりと寄って来た。
「ヴァルター!何があった知らないけど、ホントにそれはやり過ぎよ!」
制止しようとしたのか、そう言ってアウレラがヴァルターに駆け寄ったが、ヴァルターは、
「うるさい!」
と、アウレラに向かって怒鳴るなり、左の裏拳で顔面を殴って吹っ飛ばした。
アウレラはブロームが受け止めたが、鼻血を出していた。
それを見たトキオは、怒りが爆発した。
「おまえ!女を殴るなんて最低だ!もう、手加減しないぞ!」
トキオはそう言うと、素早くヴァルターの懐に飛び込み、肘打ちをみぞおちに食らわせてから、豪快に背負い投げで地面に叩き付けた。
それから、飛び上がると、右手首に膝蹴りを上から叩き付けて剣を落とさせ、その手に取りつき腕拉ぎ十字固めをかけた。
肩のあたりから「ゴキッ!」という音がした。
ヴァルターは肩を押さえて大きくうめいた。
トキオは立ち上がると、最初に倒した男2人に向かって、
「おい!こいつの肩の関節を外したぞ!とっとと医療師のところにでも連れて行け!」
と、怒鳴った。
2人は、「ちくしょう」と言うと、それぞれ、女とヴァルターを肩に担いで建物の脇を通って消えていった。
その瞬間、観客全員から大拍手が起こった。
全員、トキオに向かってきたが、その先頭を切ってアウレラが走ってきて、トキオに抱きついた。
「トキオ!すごいすごい!」
そう言うと、トキオの唇に思いっきりキスをした。
(ええーーー!しかも、おっぱいの柔らかい感触がーーー)
そう思った瞬間、トキオはその場にひっくり返っていた。
「あれ?大丈夫!?しっかりして!」
アウレラは心配そうにトキオの体をゆすりながら言ったが、他の人間は一人を除いて大爆笑していた。
「ヴァルターは瞬殺するがアウレラには瞬殺されるか。トキオに一番強いのはアウレラだな」
テリットがそう言うと、また、一同は爆笑した。
一人だけ笑っていなかったミレリアは、キラキラとした目でトキオを見つめていた。
トキオが目を覚ますと、上からアウレラが覗き込んでいた。
しばらくは頭がぼーっとしていたが、アウレラの胸の谷間で目が覚めた。
「あれ?俺、どうしたんだっけ」
上体を起こすと、見たこともない部屋の簡素なベッドで寝ていた。
「ここは、ギルドの仮眠室よ。ヴァルターたちをやっつけたあと、私がキスをしたら、なぜか急にひっくり返っちゃって」
アウレラが心配そうに言った。
「そうだった」
トキオは、キスされたことを思い出して思わず顔が緩み、また、頭がぼーっとしてきた。
「も一回いい?」
思わずそう言っていた。
「ばか!・・・・・でも、いいわよ」
そう言うと、アウレラはまたトキオの唇にキスをした。今度は軽いキスだった。
トキオは、まさかホントにキスしてくれるとは思わなかったので、驚いて、またベッドに倒れ込んだ。
「あ!大丈夫?」
「ああ、大丈夫だよ。ちょっとめまいがしただけ」
そう言うとトキオは、目をつぶってキスの感触をかみしめた。
(こんな美人にキスされたの初めてだなー)
アウレラは、トキオがめまいで目をつぶったんだと思って心配そうに見つめた。
トキオはしばらくすると目を開け、ゆっくりと立ち上がった。
「まだ無理しない方がいいわよ。ヴァルターたちとやりあってるときに頭を打ったんじゃないの?」
「いや、あいつらの攻撃はかすりもしてないよ」
「そうなの。じゃあ疲れたのかな」
「うーん、昨日の二日酔いのせいじゃないかなあ」
「ああ、なるほどね。みんなですごく飲んだからねー。あたしも、まだちょっと頭痛がするわ」
「そうそう」
トキオは、そう言ってごまかした。倒れたのが、キスとおっぱいのせいだとはとても言えなかった。
「じゃあ、みんなが待ってるから行きましょう」
アウレラと一緒にギルドの飲食コーナーに出ると、皆が一斉にこっちを見て拍手した。
「いやー、トキオってやっぱり強いなー!対人間なら、今やトキオが一番だな」
誰かがそう言うと、皆が「そうだそうだ」と同意した。
しかし、その顔は、アウレラと交互に見ながらニヤニヤしていた。
(あーもう、みんなにはバレバレだな)
恥ずかしいので、うつむきながらテリットとブロームが座っているテーブルについた。
「トキオ、ご苦労さん。話は最初から見てたヤツに聞いたが、食い道楽の一件を根に持ってヴァルターが殴りかかってきたんだって?」
「そうそう。もう、いい迷惑だったよ」
「まあ、あいつらはそういうヤツらだからな。ところで、これも聞いたんだが、トキオは打撃系の格闘技もいけるのか?」
「ああ、空手も習ってたからね」
「カラテ?」
「うん、うちの村でやってた突きと蹴りを主体にした格闘技だよ」
「そうなのか。それも、長いことやってるのか?」
「うーん、これは剣や柔道より後から始めたからそうでもないよ。15年ぐらいかな」
「十分長いじゃねえか!」
そう言って、テリットは笑った。
「しかし、剣もできて、投げに締めに関節技に打撃技か。お前、近接格闘じゃ無敵だな」
「そんなことないでしょ。世の中にはもっとすごい人いるって。実際、うちの村には、どの格闘技でも俺より強いのたくさんいたからね」
「ホントかよ!一体、どんな村なんだお前の村は!」
「それ、びっくり!」
「マジか!」
アウレラとブロームも驚いていた。
「それに、魔物には人間よりはるかに敏捷で力の強いのがたくさんいるでしょ?」
「確かにそうだな」
一瞬、皆は黙り込んだが、すぐテリットが明るい表情で顔を上げた。
「まあ、どっちにしても、そのトキオを瞬殺したアウレラが最強ってことだ」
「違いない」
そう言って、テリットとブロームは大笑いした。
「ちょっと、どういうこと?」
アウレラが困惑した顔で言ったが、トキオは顔を真っ赤にして下を向いていた。
結局、4人とも昨日の酒が残っていて体調が万全ではなかったので、その日は討伐は休みにして、昨日の宴会に参加していた他のパーティーのメンバーも含めてギルドで他愛もないおしゃべりをしてから夕方解散した。
トキオは、夕飯を食べてからアパートに戻ろうとしたが、アウレラが付き合うと言うので一緒に食い道楽に行った。
アウレラに勧められるまま注文した料理は五目野菜炒めみたいなものだったが、これはなかなかおいしかった。
食べながら、アウレラは真剣な顔で各格闘技のポイントやコツを聞いて来た。
トキオは、
(少しでも魔物を討伐して、親御さんと妹さんの無念を晴らしたいんだな)
と、思ったので、時には実際に手を取ったり、さらには立ち上がって足の踏み込み位置などをレクチャーした。
当然、周りの客の注目を浴びたが、二人が街を守ってくれている冒険者なのはわかったので、笑ったり文句を言ったりする者はいなかった。
食事が終わり、アウレラと別れてアパートに戻ったトキオは、シャワーを浴びると寝巻を着てベッドに寝っ転がった。
(ああ、今日は大立ち回りをして疲れたなー)
と思ったものの、すぐにアウレラのキスとおっぱいの感触を思い出して「ぐふふふ」と言いながらベットの中でのたうち回った。
しかし、疲れていたせいか、二日酔いのせいか、すぐに寝てしまった。




