第16話 宴会とお知らせ
「なんか、昇級したのは俺だけだったみたいだけど」
「ああ、俺とブロームがH級で、アウレラがJ級だからな。ここまでくると、そうそうは昇級しないんだよ」
「そうなんだ」
「そう、もっともっと魔物を討伐しないとね。人型の魔物とか討伐すると昇級も早いけど、この近辺にはめったに出没しないわ。まあ、これはいいことだけどね」
「そうだな。人型の魔物は色々と厄介だからな」
「やっぱりそうなのか・・・。俺、大丈夫かな?」
「トキオの実力ならゴブリン程度はまず大丈夫だが、あいつらは大勢で固まってるし、親玉みたいのがいて頭使ってくるから、その行動パターンを把握してないとなかなか厳しいな」
「ゴブリンかぁ・・・」
ゴブリンは、いろいろなアニメに登場してくるので、トキオはその習性や群れの構成については熟知していたが、この世界も同じという保証はなかったのでその点が不安だった。
「まあ、そんな不安な顔するな。その時になったら俺たちが指示するから大丈夫だ」
「そうよ。これでも、何回かゴブリン討伐の経験はあるんだから」
「そうなんだ。それは心強いなあ」
そうは言ったものの、ゴブリンの習性は多岐にわたるので、数回の討伐だけで3人がそれをすべて把握しているかは疑問だった。
「おお、トキオ先生、ここにいたか!」
パーシーがグラスを持って現れた。かなり酔っているようだった。
「ええ!?先生ってなに!?」
トキオは驚いて言った。
「格闘技をこれからみんなに教えてくれるんだから先生じゃないかー」
「確かにそうだ」
ブロームも同意した。
「ええー?そんな風に呼ばれたことないから困るよ」
「いやいや、どーん構えて、威厳を持ってみんなに教えてくれないとー、ヒック」
「そうだそうだー」
パーシーの言葉にテリットたち3人も同調した。
トキオは、困った顔をしたが、
(まあ、かなり酔ってるみたいだから明日になったら忘れてるかもな。とりあえず、今日はいいか)
そう考えて、それ以上は何も言わなかった。
「あ、そうだ!みんなにもステータス画面のこと教えないと!」
テリットは、そう言うと椅子の上に立ち上がり、
「冒険者諸君!ちゅーもーく!」
と、ものすごく大きな声で周りのテーブルに向かって叫んだ。
冒険者じゃない人も含めて、皆、一瞬、静まり返ってテリットに注目した。
「みんなー、『ステータス!』って言ってみろよ」
「はあ、なんだそれ?」
「いいから、いいから、やってみ」
皆は、ざわざわしながらも口々に「ステータス!」と言った。
すると、当然のことながら、各自の眼前にステータス画面が現れた。
「わ!」
「なんだこれ!」
「どうなってる!」
その声が収まったところで、別の声が聞こえてきた。
「え?この数字は・・・」
「あれ?これって私が使える魔法だなあ」
「まさか!」
ほとんどの冒険者がその意味に気づき始めたところで、テリットがまた大きな声をで言った。
「そう!それは、自分の能力値が見られる画面だ。手で触れるから、触ったまま上にずらすと他の能力値も見られるぞ!」
それを聞いた皆は、その通りに手でスクロールし始めた。
「え?魔法!?」
「なに?こんなにか!」
「ええー!」
すでに知っていた冒険者以外のほぼ全員から驚きの声が上がった。
「それ、魔物の方に手を向けて唱えると、魔物の弱点属性まで見られるからな。役に立つぞ!」
「ホントかよ!」
「それスゲーじゃねーか」
場内は騒然となった。
「その画面のことを教えてくたれたのは、ここにいるトキオだー!」
テリットがトキオを両手で指しながらそう言った。
トキオは驚いてテリットを見たが、その直後、
「おおー!またトキオかー!」
「素晴らしいぞー!」
「愛してるわー!」
皆がトキオに向かってそう言ったので、トキオはたじたじになったが、そうなりながらも「愛してるわ」と言った女性が誰なのか探した。
しかし、3人女性がいて誰だかわからなかったので、ちょっと残念な気分になった。
その後、みんながトキオのところに寄ってきて乾杯を求めてきたり、酒を注いだりして場内は大宴会状態になった。
そのうち、パーティー対抗腕相撲大会が始まって、さらに盛り上がった。
それは日付が変わるころまで続き、皆は楽しく笑いあった。
トキオは、(異世界に来てよかったー!)と改めて思った。
次の日の朝、トキオが、少し遅い時間に二日酔いで痛い頭を抱えながらギルドに入ると、右の掲示板になにやら大きな文字で貼り紙がしてあったので、近くに寄って読んでみた。
*** ギルドからのお知らせ ***
1.「ステータス」と唱えることで、自分の能力値を表示する画面が出現し、いつでも自分の能力値が見られることが判明しました。魔法を使えない方でも可能です。また、その画面は、手で触って指を上下に移動させることで、多くの情報が見られます。
2.少なくとも、ウルゴン、フォドラ、ボアドン、グリズラーの頭部には毒がないことが判明しました。
この魔物たちについては、頭部を破壊しても問題ありません。他の魔物については確認中です。
3,上記の魔物の頭蓋骨内から、硬貨や強化素材がとれることが判明しました。魔物の種類と大きさでとれるものの種類が変化し、グリズラーからは金貨がとれるとのことです。
他の魔物については未確認です。
4.ウルゴン、フォドラ、ボアドンの肉は食用になることが判明しました。
3種とも相当に美味だとのことです。ただ、生食については確認中ですので、食する場合は火を通してください。
他の魔物については未確認です。
以上です。
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そう書かれてあった。
(ふーん、やっぱり誰も知らなかったんだなあ。もったいないなあ)
すでに、このギルド内のほとんどの人間には伝わっていたので、特にこのことで騒いでいる冒険者はいなかった。
飲食コーナーに行って見渡したが、テリット、ブローム、アウレラの姿はなかった。
(彼らは俺より飲んでたからなあ。もっとひどい二日酔いだな、きっと)
そこで、朝食がまだだったなと思ったものの、気持ち悪くて食べる気がしないので、飲み物だけを頼もうとカウンターに行った。
「そういえば、果実系のジュースはないの?」
「3種類あるよ。これね」
エレザベスが後ろを刺したので見たら、ミキサーみたいな縦長で透明の入れ物に入った液体が3つあった。
それは、紫色とオレンジ色と緑色をしていた。
(緑色は青汁かもな。紫ならぶどうジュースかな。オレンジジュースだと気持ち悪くなりそうだな)
「じゃあ、その紫色のを1杯ちょうだい」
「ベリルジュースね、あいよ」
エレザベスが大きめのコップについでくれたので、お金を払い空いてるテーブルに行って座った。
一口飲んでみたが、味はほとんど、ぶどうジュースだった。
(あー、これは飲めるな。水とアルコール以外に飲めるものがあって良かった)
トキオはホッとした。
その時、大きな声で話しながら入ってくる、男3人、女1人の一団があった。
(うん?見たことないなあ)
トキオはそう思った。少なくとも、裏庭で皆に柔道の技を教えた時や、昨日の宴会の時には見なかった顔だった。
その4人は、入ってくるとすぐ、さっきトキオが読んだ貼り紙に気づいて読み始めた。
そして、
「なに!」
「ホントかよ!」
という驚きの声を上げると、ミレリアのところに行った。
「おい!あそこに書いてあるのは冗談じゃないのか!?」
「あんなの信じられない!」
そうやって、ミレリアに食って掛かった。
それに対しミレリアは、
「すべて多数の冒険者の方が確認されていることです。試しに『ステータス』と唱えてみてください」
と冷静に答えた。
「なに!?・・・ステータス!」
一番の巨漢がそう唱えると、眼前にステータス画面が表示された。
「うわっ!ホントに出たぞ!」
それを見た他の3人も「ステータス」と唱えて驚きの声を上げた。
「貼り紙に書かれていることは、すべてあちらに座っているトキオさんからの情報です」
ミレリアがそう言いながらトキオを指したので、4人はトキオの方を見た。
トキオは、いきなり指さされて驚いたが、4人はトキオの顔を見ると、
「あ!てめえは!」
と、怒鳴って巨漢を先頭に、小走りでトキオに向かってきた。
トキオは、わけがわからずキョトンとした顔になった。
「てめえ!食い道楽ではよくもやってくれたな!長期の討伐でしばらく留守にしてたが、ここで会ったことを後悔するんだな!」
そこでトキオは、その4人が誰だかようやく思い出した。
「あーあ、あんた、俺に投げ飛ばされて失神した人か。確か、ヴァルターだったな」
「て、てめえ!」
ヴァルターは、怒りで顔を真っ赤にしてトキオの顔面を殴ってきたが、余裕でかわすとみぞおちに正拳突きをお見舞いした。
「ううっ!」
ヴァルターはそう唸ると、腹を押さえてうずくまった。




