第122話 自転と公転
その日の夜。
「今日もありがとね。ホントに体がスッキリして助かるよ」
「いえ、いつも喜んでいただけるので私としても嬉しいです。それでは、失礼いたします」
メアリーは、にっこりとほほ笑むと一例をしてトキオの部屋を出て行った。
「いや~、ホントにメアリーはマッサージうまいよな~・・・さて、ドラゴンの本の続きを読もう」
トキオはそう言うと、ドラゴンの本を取ってソファーに座った。
テーブルの上には、メアリーが持ってきてくれた果実酒があった。
コンコン!
そこで、部屋のドアをノックする者があった。
(ん?メアリーがまた何か持ってきてくれたか?)
そう思いながら、トキオはドアに向かって言った。
「どうぞ~」
「ちょっといいかしら?」
ドアが開いて顔を出したのはクロアだった。
「おや?どうしたんだ、こんな時間に?」
クロアはにっこり微笑むと、ピョンと跳ねるように部屋の中に入って来た。
すると、今まで見たこともないような豪華で大人っぽいドレスを着ていたので、トキオは面食らった。
「な、なんだその恰好!?」
「なんだ、はないでしょ!・・・勇者様のお屋敷に来て行けそうな服をジェーンに選んでもらったのよ。どう?」
「・・・え?・・・ああ、そういうことか。でも、気が早くないか?」
「早めに準備しといたほうがいいでしょ?いつお誘いが来るかわからないんだから・・・で、どうなのよ?」
そう言うと、クロアはトキオの目の前でくるりと一回りした。
「あ、ああ・・・いいんじゃないか」
「なによそれ!もっと何かないの?色使いがいいとか、デザインがしゃれてるとか!」
「うーん、そんなこと言われても、俺は元々ただの平民だから上流階級のお屋敷に着ていく服がどんなのがいいかなんてわからないよ。自分自身も礼服なんてお葬式の時以外に着たことないぐらいだから、女の子のものなんてもっとわかんないよ」
「あー、張り合いがないわねえ。あとでセバスチャンに見てもらうからいいわ!」
「あ、それがいいな!そうしてくれ」
「なにそれ・・・じゃあ、昨日の続きね」
「え?」
「え?じゃないわよ!あんたの世界の話が途中だったでしょ!」
「そうだっけ?酒飲んでたから、最後の方は記憶が曖昧で」
「そうなの?それじゃ・・・ベッドの上でのことは覚えてないの?」
クロアは恥ずかしそうに言った。
「ベッドの上?ここにずっと座って話をしてたんじゃないのか?」
トキオはすべて覚えていたが、わざとそういう風に答えた。
「あ、そこから覚えてないのね。ならいいわ?」
クロアはそう言うと、トキオの隣に座った。
「で、何を聞きたいんだ?」
「考えてみたら、あんたの世界にどんな国があって、国と国はどういう関係になってるのかってのを聞いてなかったわ」
「そんなことに興味があるんだ」
「そりゃそうでしょ。国によって生き物が違ってて、なにかこっちの世界にはいない生物が治めてる国とかあるんじゃないの?」
「あー、そう言う興味かー。そんなの全然ないよ」
「ないって?」
「言ったじゃない。俺の世界で言葉をしゃべれる生き物は人間だけだって」
「え?それって、同じ言葉をしゃべってるのが人間だけって意味じゃなかったの?」
「違う違う。どんな言葉であれ、言葉をしゃべるのが人間だけってこと。そういう意味で言うと、俺の世界じゃ国ごとに人間が違う言葉をしゃべってるよ」
「え?そうなの!?お隣の国でも?」
「俺のいた国は島国だったから隣接してる国はなかったけど、すぐ隣にある大陸の国が大雑把に言えば3つあるけど、その3国とも全部違う言葉をしゃべってるよ」
「えー!それってすごく不便じゃない?」
「まあ、不便と言えばそうだな。通訳っていういくつかの国の言葉を覚えて他の国の言葉を自分の国の言葉に訳してくれる人がいるから、困ったときはそう言う人に頼むな」
「そうなんだ。めんどくさいわねえ」
「そうかあ。この世界じゃどの国に行っても同じ言葉を話すんだ」
「そうよ。そうじゃないと口のきけない動物と同じように、言いたいことを伝えることができなくなっちゃうじゃないの」
「確かにそうだけどな。俺の世界もそうだったら随分良かったのにな。隣だけじゃなくて、もっと離れた場所、俺がいた星は地球って言うだけど、その地球の反対側にも別の国がいくつもあって、それらの国でも、また別々の言葉をしゃべってるんだよ」
「反対側ってどういう意味よ?」
「え?だから星の反対側。地球がこうで、俺の国にがここだったら、こっちね」
トキオはそう言いながら、両手で球体をなぞるしぐさをして、その手前の上の方と向こう側の下の方を指さした。
「え?意味が分かんない」
「え?どうして・・・・って、まさか!この世界は天動説か!」
「天動説?」
「えーと・・・ちょっと聞くけど、太陽ってこの世界の周りをまわってるってことになってる?」
「そうよ。当たり前じゃない。あんたも毎日見てるでしょ?」
「おっとお、そうだったのかー!・・・そういえば、この世界に来てから見たことないけど、海ってあるんだよね?」
「あるわよ。ただ、この国で海に面している土地は南東部にほんの少しあるだけね。私も子供の時に1回行っただけだわ。他の土地は他の国に隣接してるわ」
「ああ、やっぱりあるんだ。川があるんだから当たり前か・・・ということは、海は延々と平べったいと思われてるんだな」
「そうよ」
「じゃあ、海の果てはどうなってる?」
「ずっと先に行くと急に水が落ち込んでて、それを見た人は吸い込まれて戻って来られないのよ。だから、海の果てを見て帰って来た人はいないわ」
「うわー、そいうレベルかー。まあ、象の上に乗ってないだけましか」
「象?なにそれ?」
「あ、そこは気にしなくて大丈夫・・・でも、それだと海の水がなくなるって思わないか?」
「雨が降るじゃない。それが世界中で降って、川になって海に注がれてるから大丈夫でしょ?」
「ああ、そういう風につじつまを合わせてるわけね」
「つじつまって・・・あんたの世界は違うの?」
「俺の世界はっていうか、この世界も同じなんだけどね。つまり、太陽が動いてるって考えが間違いなんだよ」
「え?どういうこと?」
「太陽は同じ場所から動いてないの。動いてるのは、俺たちがいるこの星の方」
そう言いながら、トキオは下を指さした。
「なにバカなこと言ってんのよ!動いてたらわかるし、みんな転んじゃうじゃないの!」
「空気も含めて一緒に動いてるし、動きがゆっくり過ぎて体感できないのと、重力があるからだな」
「重力ってなに?」
「あー、そこから説明しないとダメか~・・・わかった。今からこの世界の本当の姿を教えるけど、お前が理解できるかはわかんないし、相当時間がかかると思うけどいいか?」
「そんな変な話を聞いたらすごく気になるじゃない。いいわよ」
「わかった・・・まず、動いてるのはこっちの地面だって話だけど、ちょっとあっちに行こう」
トキオはそう言うと、立ち上がって部屋の一番広い所へ行った。
「なに?」
そう言いながらも、クロアも立ち上がってトキオのそばに来た。
「ちょっとそこで止まって。俺がクロアの左に立って・・・」
トキオは、クロアの真左に立った。
「あ、こっち見ないで前を見てて」
「こう?」
「そうそう。今の状態だと、俺の姿は左目の端っこにかすかに見えてる感じだろ?」
「そうね」
「顔は体の正面に向けたまま、体ごとゆっくり左に回ってくれる」
「わかったわ」
クロアはそう言うと、小刻みに足を動かしてゆっくりと左に回った。
「俺が太陽で、徐々に上ってくる感じね」
「え?」
「はいストップ!」
トキオは、自分がクロアの正面に来た位置でそう言ってクロアを止めた。
「これが正午だ」
「なにそれ?」
「俺が太陽だとしたら、回転してたのはクロアの方だけど、クロアが寝っ転がってる状態だったら、俺はクロアの左から登って来て真上に来たように見えるだろ?」
「ええ?・・・ああ、そういうことか!確かにそうね!」
「つまり、太陽が止まっていて俺たちの地面が回転してても、太陽の方が俺たちの上を周っているように見えるってことだよ」
「なるほど~!・・・でも、それがホントだったらスゴいショックだわ」
「理解できたか?」
「大体はわかったけど、ホントにそうだなんてちょっと信じるのが難しいわね」
「まあ、そうだろうな。でも、これが真実なんだよ」
「でも、どうやってそんなことわかったのよ」
「夜空に見えている星の動きを見ているとわかるんだよ。長い時間をかけて観測する必要があるけどね。それと、昨日、俺の世界じゃ月に行ったことがあるって言っただろ?」
「ああ、そう言ってたわね」
「そうやって宇宙船で俺たちが住んでる星の外に飛び出したときに、俺たちが立ってる星が丸いってのを実際に確認してるんだよ」
「ああ、そういうことか!じゃあ、やっぱり本当なんだ」
「そういうこと。お前だって、海に行ったことがあるなら、地平線がまっすぐじゃなくて曲線的になってるのを確認してるはずだよ」
「・・・・確かにそうだったわ!でもそれは、世界が円形をしていて、私たちはその中心にいるから、端っこは丸く見えるんだって学校の先生が言ってたわね」
「あー、そう言う説明をするのか・・・ていうか、地平線が曲線的だからそういう発想が生まれたんだろうな」
「ふーん・・・」
クロアはかなりショックを受けたようで、難しい顔になって少し下を向いた。
トキオは、クロアの横に来ると背中を軽く押してソファーの方へ移動させ、先ほどと同じように並んで座った。
「で、続きだけど・・・」
「え?まだなんかあるの?」
「今のはこの星の自転の話だ。次は公転の話で、太陽を中心にこの星を含めたいくつかの惑星があって・・・」
「・・・なにそれ!信じられない!」
「それで、各惑星には衛星ってのがあって、月も・・・」
「・・・じゃあ、月は動いてるの?」
「そうだよ。それで、月が太陽とこの星の間に・・・」
「・・・ああ~、昼間に太陽が暗くなるのってそういうことだったんだ!」
「そうそう。逆に、この星が太陽と月の間に・・・」
「・・・なるほどね!」
「ほうき星って見たことあるだろ?」
「あるわよ。何年かに1回見られるわね」
「あれは彗星って言って、この太陽系の・・・」
「・・・そんな星もあるんだ!」
「それで、その彗星の尻尾は・・・」
「・・・ごめん、それちょっとよくわかんない」
「ああ、そうか。まあ、これは大事なことじゃないからいいか。それで、この構成を太陽系って言って、太陽系は渦巻銀河の・・・」
「・・・えー!ウソでしょ?」
「天の川・・・夜空に星が横長に密集してて川のようになった部分があるだろ?」
「ああ、星流河のことね」
「あ、この世界じゃ星流河って言うんだ。で、その星流河が渦巻き銀河を横から・・・」
「・・・あ、なるほど~」
「そういうこと」
そこで、トキオは途中から飲み始めた酒のグラスを取って一口飲んだが、その時に壁時計が目に入った。
「ブッ!」
トキオは、思わず酒を吹きだした。
「なによ!汚いわね!」
「ゲホッゲホッ・・・おい!もう3時だよ!」
「え!?・・・ホントだ!」
クロアも壁時計を見て驚いた。
「また寝不足になっちゃうよ~。今日は終わり!」
「え~?まだ聞きたい~」
「ダメダメ!今日は何されても言うこと聞かないからな!」
「別に昨日だって・・・・・って、それどういう意味?」
「え?・・・あ゛・・・いや、昨日ももっとって言われた気がして・・・」
「言ったけど、その時のことは覚えてないんじゃなかったの?」
「あ、いや~、何してたかは覚えてないけど、そう言われたのだけはかすかに記憶が・・・」
「ホントなんでしょうね?」
「そうだよ。それとも、俺に何かしたのか?」
「え!?・・・いや、別に何もしてないわよ」
「じゃあ、いいじゃないか。はい!終わり!」
「ええ~?・・・まあ、しょうがないわね。じゃあ、続きは明日ね」
「うへ~、また明日もかよ~」
「だって、面白いんだもの。しょうがないじゃない」
「俺はしょうがなくないよ~。じゃあ、毎日12時までね!」
「ええ~?・・・まあ、魔法訓練もあるからしょうがないわね。わかったわ」
「よろしく。じゃあ、おやすみ!」
「おやすみ。長い時間ありがとね。面白かったわよ!」
クロアはそう言うとトキオの頬にキスをした。
「え?」
「じゃあね」
クロアはいたずらっ子ぽく笑うと部屋を出て行った。
「うー、予想してなかったらちょっとドキッとしたなあ・・・さあ、寝るか」
トキオはそう言ってベッドに入ったが、今のキスのドキドキが残っていて、またしばらく寝付けなかった。
また、数日お休みすると思いますが、今回はちょっと長めにしましたのでご容赦ください(笑)




