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異世界マニアのおしかけ召喚者  作者: 伊部九郎
第2章 王都編
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第121話 勇者からのお誘い

 柔道訓練場に戻ると、クロアが来ていた。


「トキオ・・・あ!勇者様!お久しぶりです!」

 クロアはトキオの顔を見ると恥ずかしそうに視線を逸らしたが、そこに勇者がいたため、途端に嬉しそうな顔になった。


「おお、クロアか。前に会ったのは久しぶりというほど前でもなかろう」

「いえ!わたし的には随分前だったと思います!」

「そうか」

「今日も柔道の訓練をされるのですか?」

「ああ、寝技というのを教えて貰おうと思ってな」

「じゃあ、ここで見学してます!頑張ってください!」

「ああ」


 勇者はそう答えると、訓練場の前の方に進んで行った。

 トキオは、一瞬、クロアに「体調はいいのか?」と聞こう思ったが、恥ずかしくて朝食を一緒にしなかったのなら聞かない方がいいなと思い、そのまま勇者のあとについて前に行った。



「では、寝技です。寝技は、絞め技や関節技とも連携して使用されることがあるんですが、それは次回にして、今日は固め技だけ教えます」

 トキオは勇者に向かってそう言った。

「よろしく頼む」


 それから、袈裟固めや横四方固めなどの色々な固め技を教えたが、1時間ほどで昼になってしまったので、続きは後日ということになった。


「うむ。これも魔人を取り押さえる時には使えそうだな。ためになったぞ」

 別れ際に勇者が言った。


「はい。連携技だともっと有効ですので、それは、次回来られた時にお教えいたします」

「頼んだぞ」


「勇者様!お疲れさまでした」

 そこでクロアが寄って来て勇者に頭を下げた。


「ああ、クロア・・・そう言えば、お前とはちゃんと話をしたことがなかったな。お前がヒドラを討伐した時のことや、今までの魔物討伐のことなどを聞きたいと思っていたんだ。今日の昼食は私とどうだ?」

「え!ホントですか!ぜひお願いします!」

「そうか、では行こう」

 勇者はそう言うと、自然な仕草でクロアの右から左肩を抱くように手を乗せて、兵士用の食堂とは違う方に歩いて行った。


 トキオがあっけにとられて見ていると、クロアは緊張したように体を固くしていたが、目はしっかり勇者の顔を見ていた。


「おやおや、あれじゃあクロアは舞い上がっちまうな」

フラビアがトキオの横に来て言った。

「そうだろうなあ・・・ああ、午後に魔法訓練をやるようなら、また活を入れなきゃダメかな」

「なんだそれ?」

「最初に勇者様に会った直後って、クロアはボーっとしてたでしょ?」

「ああ~、そう言えばそうだったな」

「魔法訓練が始まってもそのままだったから、危ないと思って俺が顔に一発平手打ちを食らわせたんだよ」

「え?お前、女の子の顔を殴ったのか?」


「トキオさん、それひどいです!」

 後ろにいたジョッシュが横に来て言った。

「そうですよ!」

「あんなか弱そうな子に!」

「最低です!」

 他の兵士たちも口々に言った。


「え、ええ~?」

 トキオは、そんな反応をされるとは思ってなかったのでタジタジになった。


「見損ないましたよ!」

 レッジがそう言うと、兵士たちはトキオを追い越して先に食堂の方へ行ってしまった。


「あら~、まいったなあ・・・」

「まあ、あいつらはクロアのファンだからな。それと、昨日は会えなかったから今日は一緒に食事をするのを楽しみにしてたと思うが、勇者にさらわれちまったからな。その腹いせもあるんだろうよ。でも、女の子の顔を殴るのは感心しないな」

「そう言われればそうだけど、学生の時は、練習に気合の入ってないヤツには鉄拳制裁が当たり前だったからねえ」

「兵士には私もやるけど、女にはやらないぞ」

「あー、確かにそうだけど、男と女が一緒に練習することはなかったから、そういう場面にならなかっただけだな」

「じゃあ、女と一緒に練習してて、たるんでるヤツがいたら殴ってたのか?」

「う~ん・・・たぶん。俺だけじゃなくて、他の上級生もそうだったと思うよ。あ、やっても平手打ちだけどね」

「そうなのか?なんだか怖い学校だな」

「そうかなあ、俺のいたせか・・・・村じゃ普通だったけどな」

「ん?今、なんか言おうとしてやめたな」

「え?・・・いや、ちょっと言い間違いそうになっただけだよ」

「そうか?」

「そうそう。それより、腹減ったから早く食堂に行こうよ」

「あ、ああ。そうだな」

 トキオはそう言ってごまかすと、フラビアの手を引っ張って速足で食堂に向かった。


 この日、柔道教室にいた兵士たちは一つのテーブルの席をすべて占領していて、トキオは同じテーブルに座らせてもらえなかった。

 仕方なく別のテーブルに座ったが、誰も近くに座ってくれず、フラビアと二人で寂しく昼ご飯を食べた。



 魔法訓練は休みだったが、帰りの馬車にクロアを乗せて行く必要があったので、昼食が終わると、トキオは魔法訓練場に行った。



 クロアは、いつも魔法訓練が開始される時間を少し過ぎてから現れた。


「ああ、来たか。遅かったな」

「あ、トキオ。いやもう、話がはずんじゃって!」

 クロアはすごく嬉しそうな顔で言った。


「ああ、そうかい」

「もっと近寄り難い人かと思ったら、すごく気さくで色々と気を遣ってもらっちゃった!話も上手で、しかも上品で、見た目以上にステキな人だったわ~」

「そりゃ良かったね」

 トキオは気持ちの入っていない口調で言った。


「しかも、今度、家に遊びに来いなんて言われちゃったのよ~。ねえトキオ、私どうしたらいい?」

 クロアは、初めて勇者に会った時以上に舞い上がっていた。

「行って来ればいいんじゃないの」

 トキオは完全に無表情になっていた。

「やっぱり~?そうよね、お誘いをお断りしたら失礼だものね」


「・・・それで、このあとどうすんだ?魔法の個人訓練をするのか?そのために城まで来たんだろ?」

「ああ・・・午前中に少しやったから帰るわ。今日はもうそんな気分じゃないし~」

「ああそうですか。じゃあ、行くぞ」

「あ?うん」

 クロアは勇者との昼食を思い出しているのか、にやけた顔をしていて反応が悪かった。


 トキオは構わず城の入口の方へ歩き出したが、クロアは後からついて来たものの、心ここにあらずといった体で焦点の合わない目で少し上をみながら歩いていたので、すごく歩くのが遅く、トキオはイライラしながら時々立ち止まってクロアを待つ羽目になった。



 入口に着くと、いつもより早い時間だったにもかかわらず、トキオの馬車はちゃんと待っていた。

「あれ?いつもより早い時間なのにどうして?」

 トキオはキビルに聞いた。

「はい。本日の魔法訓練はお休みとお伺いしましたので、昼食が終わったら帰られると思い、お迎えに上がりました」

「サスガだね~」

 トキオは感心しながら馬車に乗り込んだ。」

 クロアはぼーっとして馬車の横に突っ立ったままだった。


「おい!乗らないのか!置いてくぞ!」

「え?・・・あ、待って」

 クロアはあわてて馬車に乗り込んで来た。

 クロアが座るとすぐ、馬車は発車した。



 クロアは相変わらずにやけた顔のままぼーっとしていたので、トキオは何も言わずに窓の外を見ていた。



「ねえ?勇者様のお宅にはどんな服を着て行ったらいいと思う?」

 数分経ってからクロアが聞いた。


「はあ?俺にわかるわけないじゃない。聞くなよ。メアリーかジェーンが教えてくれるんじゃないか?」

「あ、そうね。帰ったら聞いてみるわ」

「勇者様も貴族だからな。恥ずかしくない格好をして行くんだぞ。ああそうだ。セバスチャンは前は勇者様の家の執事だったみたいだから、彼に聞けば勇者様の好みとかわかるんじゃないか?」

「え!?そうなの!」

 クロアは驚いた声を出して、ここでやっとしゃっきりした顔になった。


「さっき勇者様から聞いたんだよ」

「そうだったんだ~。じゃあ、まずセバスチャンに聞いてからメアリーとジェーンね」

「ああ、それがいいだろうな」


 クロアは、今度は自分が素敵な服を着ているところでも想像したのか、また、ぼーっとした顔になって、そのまま屋敷まで口をきかなかった。


(やれやれ。正式に招待されたわけでもないのに、困ったもんだ)




 屋敷に着くと、いつものようにセバスチャン、メアリー、ジェーンが玄関先に迎えに出て来ていたが、クロアは、馬車が止まるとすぐに飛び出して、セバスチャンに向かって駆けて行った。


「ねえねえセバスチャン!前は勇者様の屋敷に勤めてたって本当?」

 クロアは少し上気した顔で聞いた。

「はい。その通りです」

 セバスチャンは冷静に答えた。

「そうなんだ~。今日、勇者様とお昼ご飯を食べたんだけど、今度、遊びに来いって言われちゃったのよ!」

「おや、そうでしたか。それは、よろしゅうございました」

「それで、どんな服が勇者様の好みなのかなあ?」

「そうですね・・・あまり露出の多い服はお好きではないので、クロア様がいつも着られているような服でよろしいかと思います」

「そうなんだ!」

 クロアはそう言うと、今度はメアリーとジェーンの前に行った。


「あとで、勇者様のお屋敷にお邪魔しても失礼にならないような服を教えてくれる?」

「はい、わかりました。後ほど、お部屋にお伺いします」

 メアリーが答えた。

「よろしくね!」


 クロアはそう言うと、軽やかな足取りで屋敷の中へ入って行った。



「お帰りなさいませご主人様」

 トキオが近くまで来ると、3人はそう言って頭を下げた。


「勇者様とお昼を食べてからずっとあんな調子で舞い上がっちゃってんるんだよ」

 トキオはがっかりしたような顔でセバスチャンたちに言った。


「勇者様との昼食は、ご主人様もご一緒されたんでしょうか?」

「いや、二人きりで食べに行ったよ」

「それでは仕方ありませんね。今までも、数多くのご婦人があのような様子をされておりましたので」

「あー、やっぱりそうなんだー。男の俺から見ても勇者様はカッコイイからねえ」

「はい。それでいてずば抜けた実力をお持ちですから、ご婦人方が熱を上げるのも無理はないかと思います」

「そうか~、そうだよね~」


 トキオは、あきらめたような顔で屋敷の中へ入って行った。

またお仕事になりましたので、しばらく更新のペースが落ちるかと思います。

ご了承ください。

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