第12話 冒険者の現実
トキオは、テリットの上半身を起こすと膝で背中に活を入れた。
「う、うーん・・・はっ!俺どうしたんだ?」
「ごめんごめん。説明に夢中になって力を入れたままだったよ」
「もしかして、ヴァルターと同じように失神させられたのか?なんか、頭がスーっとしていく感じはあったけど」
「そう。頸動脈を圧迫すると気持ちよく意識がなくなるんだよ。でも、あまり長いことやると死んじゃうから注意しないと。皆は、その加減がわからないと思うので悪いけどこれはやらないでね。だから、これ以上の説明はしないよ」
「えー?面白そうだけどなあ」
マルケルが言った。
「そんなこと言わない。でも、魔物になら使ってもいいよ。魔物にも有効なはずだからね」
「わかった。それで我慢するか」
「何よそれ」
アウレラがマルケルを睨んで言った。
また、全員から笑いが起こった。
「でも、一番先に覚えて欲しいのは受け身なんだよね」
「ほう、それはどんな技だ?」
「これは、攻撃する技じゃなくて倒れた時に体を保護する技だね。特に頭をね。基本でもいいから、これを覚えとくと、魔物に吹っ飛ばされたときとかにダメージが軽減できるんだよ」
「へえ~、それはぜひ教えて欲しいな」
「じゃあ、やってみせようか。テリット、また、協力してくれる?」
「え?」
テリットが警戒したような顔をした。
「いやいや、今度はテリットにはダメージはないから大丈夫」
「そうか」
テリットはほっとした顔をした。
「じゃあ、俺を後ろに転倒させるつもりで思いっきり胸を突いて」
「わかった」
テリットは、トキオの正面に立つと言われた通りトキオの胸を思いっきり両手で突いた。
トキオは、後方に倒れながら両手で地面を叩いた。「バン!」という大きな音がした。
見ていた冒険者たちは、よくわからず無言だった。
「これは後ろ受け身ね」
トキオが立ち上がりながら言った。
「背中が地面につく寸前に頭を持ち上げると同時に両手で地面を強く叩いて背中と頭へのショックを軽減するんだ。足の反動も使うとより効果が高いね。頭の持ち上げ方は、おへそを見るって意識するといいね」
「ほほお~」
「ゆっくりやってみるね」
そう言うとトキオは、左足だけ地面につけたままの姿勢でゆっくりと後方に倒れ、わかりやいようにわざと極端に頭を持ち上げながら地面を叩いた。
「なるほど~」
冒険者たちは、また感心した声を上げた。
「次に、前回り受け身をやってみるよ。これは、頭から投げ飛ばされたときに、前転をしながら地面を叩いてショックを和らげる方法ね。前転の終わりに頭を持ち上げて左手で地面を叩くから、そこをよく見てて。あ、その時、足が重なってると足を痛めるから足は開いてね。そこも見てて」
トキオは、地面に飛び込むようにやや斜めに前転して、体が一回転して地面に転がったところで左手で激しく地面を叩いて体を止めた。また、「バン!」という大きな音がした。
「ほほお~」
全員から、また感心した声が上がった。
「それ、いいな。さっきの技も含めて、かなり役立ちそうだからちゃんと教えてくれよ」
「俺も教わりたい」
「俺もー」
「あたしもー」
全員が強い興味を示した。
「そうだねえ。魔物討伐に行ってない時間だったらいいよ。皆から授業料取ろうかね」
トキオは、にやりと笑った。
「俺、払うぜ」
「俺もだー」
「当然だよー」
皆は口々に了解の意思を示した。
「ええっ!冗談だったのに」
「いや、お金を払ってもらった方が、皆も真剣に覚えてくれると思うぞ。もちろん、俺も払う」
テリットが言った。
「その通りだ」
ブロームも同意した。
「そう?じゃあ、すごく安くしておこう」
「まあ、その方がありがたいな」
テリットはそう言って笑った。
次の日、1階の飲食コーナーに降りていくと、テリットとブロームを含む何人かの冒険者はいたが、アウレラの姿がなかった。
「おはよう。ここいい?」
トキオは、テリットとブロームのテーブルに行くと聞いた。
「ああ、もちろんだ。おはよう」
「おはよう」
トキオは座った。
「アウレラは用事ができたから今日は俺たちが付き合うよ」
テリットが言った。
「ありがとう」
トキオは、そう答えたが、かなりガッカリした。
「あ、お前、今、すごくガッカリしただろう」
「え!?そ、そんなことないよ」
「隠すな隠すな。まあ、アウレラは美人だからその気持ちはわかる。それに、巨乳だしな。お前、巨乳好きだろ?」
「え!ええっ!?」
「図星か。大丈夫、俺も好きだから」
そう言って、テリットは笑った。ブロームも笑った。
「まあ、頑張れ。俺とブロームは妻子持ちでアウレラには手を出さないから大丈夫だ」
「いや、別にそんなんじゃ」
「いいって、いいって。で、今日は住むアパートを探すんだろ?なあに、俺の方がアウレラよりこの街は長いから、俺の方がよく知ってるよ。というか、俺は生まれた時からこの街に住んでるからな」
「あ、そうなんだ。じゃあ、よろしくお願いします」
「まかせろ。じゃあ、飯を食おうか」
テリットは手を挙げてエレザベスを呼んだ。トキオがテーブルを見ると飲み物のカップしかなかったので、どうやら起きてくるまで待ってくれていたみたいだった。
エレザベスが来たので、テリットに昨日と別のメニューを聞いてみたらパン付きのハムエッグのようなものがあるらしかったので、トキオはそれを注文した。テリットとブロームはメルコットを注文した。
朝食を食べながら色々と話をした。
「そういえば、昨日は色々と悪かったね。失神させたりしちゃって」
「なに言ってんだ。俺の方から頼んだことなんだから気にするな。しかし、人間をあんなに簡単に失神させられるってのは正直驚きだよ」
「そうだな」
ブロームも同意した。
「柔道って色々な技があってね、あれは、絞め技って言うんだけど、昨日やった投げ技、関節技の他にも寝技ってのがあるんだよ」
「寝技?どういうときに使うんだ」
「倒れてる相手を抑え込む技だね。でも、動きを止められるだけだから、魔物退治に応用しようと思ったら誰か別にとどめを刺す人が必要になるね」
「ほう~」
「この国には、人を集めて格闘技を教えるところとかないの?」
「どうだろうなあ。少なくともこの街にはないな。パーティーを組んだメンバーに個別に教えてくれる人はいるけどな。でも、大体は冒険者をやりながら人の戦い方を見て覚えるって感じだな」
「そうなんだ~。それはちょっと残念だねえ」
「そうだな。昨日、トキオが見せてくれた技を覚えられれば、冒険者たちの戦闘力が上がるのは間違いないしな」
「その通りだな」
ブロームも同じ考えのようだった。
「じゃあ、ちゃんと時間をとって皆に教えなくちゃだね。ところで、この街にいる冒険者って、皆仲がいいよね。手柄や報酬を取り合ったり、自分より成績のいいヤツを妬んで意地悪するヤツがもっといてもいいと思うんだけど」
「それにはちゃんと理由があるんだよ」
「どんな?」
「冒険者になるヤツの多くは、家族や友達を魔物に殺された人間なんだよ。だから、皆少しでも多くの魔物をこの世から消し去ることを目的としてて、協力こそすれ、魔物の討伐に支障が出るような足の引っ張り合いはしないんだ。ヴァルターのパーティーのように意地悪なヤツらは、知り合いが魔物に殺された経験がなく、ただ、金と名声のために冒険者になったヤツらだ。だから、ああいうのはホントに少数だ」
「そうだったんだ・・・」
「特にアウレラは、母親とお姉さんを殺されてるからな。あいつの決意は相当にすごいぞ。あいつって、女だてらにそこいらの男より勇敢なところがあるだろ?」
「うん。それは俺も感じてた。そうか、皆そういう想いをしてるんだな。じゃあ、俺もなるべく役に立たないとだね」
「ああ、よろしく頼む。でも、お前が教えてくれた色々な事だけでもここの冒険者たちの戦力がかなり上がったから、すでに随分役には立ってくれてるよ」
「そう?そう言われると素直に嬉しいね」
トキオはにっこりとほほ笑んだ。
「ところで、アウレラっていくつなの?」
「21だ」
「えー!そんなに若かったんだ!俺はてっきり同じぐらいの歳かと思ってたよ」
「確かに大人びた雰囲気はあるな。それも、あいつの決意の表れなんだよ」
「そうか・・・」
トキオは、魔物が人を襲うことはアニメなどで観てわかっていたはずだったが、現実として突き付けられたことに軽いショックを覚た。
「まあ、そこのところをお前が気にする必要はないよ。お前は俺たちと一緒に魔物討伐をしてくれればいいんだから」
「・・・うん、頑張るよ」
その日は、それからテリットとブロームに案内されてアパートを探しに行った。
何件か見て、日当たりもよく、街もよく見える気に入った部屋があったので、トキオはそこに住むことにした。
アパートが決まると、街の名所に色々と案内してくれた。出城や噴水のある広場や景色の良い高台などだった。
どこもファンタージーの世界そのものだったので、トキオはどこに行ってもワクワクして感動しっぱなしだった。
そして、
(今度、アウレラと二人で来られたらいいなあ)
と、思った。
夕方になって、夕日が美しく見える塔に上ってから、明日は魔物討伐に行く約束をして別れた。




