第118話 召喚者の条件
コンコン!
屋敷に戻り、風呂に入った後にトキオが自室のソファーでドラゴンの本を読んでいると、誰かが部屋のドアをノックした。
「どうぞー!」
トキオがそう答えると、ドアを開けて入って来たのはクロアだった。
「風呂から出たからよろしくね!」
「は?よろしくって何をだよ」
「馬車の中で約束したでしょ!あんたの世界のことを教えてくれるって!」
「ああ、そのことか・・・まあ、とりあえず座れよ」
クロアは、部屋に入ってくるとトキオの正面に座った。
「で、何を聞きたい・・・うーん、この位置はあんまりよくないな。隣に来てくれる?メアリーとジェーンに聞かれたら困るから、あまり大きな声で話したくないな」
「あ、そうね」
クロアはそう言うと、トキオの右隣に来て座った。
「・・・で、何を聞きたいんだ?」
「そうやって聞かれると難しいわねえ。何がどう違うのかが全然わからないし・・・あ、じゃあ、一番の違いってなに?」
「それ、ミヒールさんにも聞かれた気がするなあ。やっぱり、魔法がないことかな?」
「え!トキオの世界には魔法ってないの?それじゃ、剣とか弓矢だけで魔物をやっつけるの?」
「あー、そこから話さないとダメか・・・俺の世界には魔物っていないんだよ。言葉をしゃべれる生命体は人間だけだな」
「え!・・・じゃあ、日々魔物におびえて暮らすこともないの?」
「ないねえ。でも、人間が犯罪を犯すから、そういう恐怖はあるな」
「ああ・・・でも、それはこの世界でも同じじゃない」
「確かにそうだな。他に、戦争もあるけど、これもこの世界にもあることだな」
「そうね。今はどこの国も魔物への対応で暗黙の了解的に対外戦争はしてないけど、私の子供のころは時々国境付近で小さな戦闘が発生したりしてたわ」
「やっぱりそうなんだ」
「魔物のいない世界かあ・・・いいなあ・・・」
クロアはしみじみと言った。
「で、次は?」
「・・・そうねえ・・・儀式で召喚されたって魔導士長様は言ってたけど、それってトキオとしてはどんな感じだったの?その時、何をしてたの?」
「それがねえ、俺の感覚的には自分からこの世界にやって来たって感じだったんだよな」
「え?どういうこと?」
「ちょっと待ってて」
トキオはそう言うと、部屋の隅にある戸棚に行き、その一番下からアティムから来るときに背負って来たリュックを取り出すと、ソファーのところに戻って来た。
それから、そのリュックをテーブルの上に置くと、手を突っ込んで一番底から分厚い本を取り出した。
「ミヒールさんが言うには、この世界に召喚されるためには最終的に召喚される人がその呪文を唱えて召喚される必要があったってことで、実際、俺は、えーと・・・」
そう言いながらトキオは本のページをめくっていった。
「あ、ここだ。ここに書かれている召喚される呪文を自分で唱えてこの世界にやって来たんだよ。だから、何の心の準備もなく突然召喚されたってわけじゃないんだ。で、この呪文を唱えたら体が光り出して、気づいたらこの世界の野っ原に寝てたってわけさ」
「そうだったの・・・それ、見せてもらっていい?」
「いいよ」
トキオはそう言ってクロアに本を渡した。
「・・・ああ、確かに召喚される方法が書いてあるわね」
クロアはそのページをざっと読むと、一旦閉じて表紙を見た。
「『破滅から救う光とならんことを』か。なんだかご大層なタイトルね」
クロアは、それから最初のページを開いて読み始めた。
そのまま、3ページ目まで読んでから顔を上げた。
「なるほど。確かに誰かがこの世界に召喚されるための本だわ。あんたが異世界から召喚された人間だというのはホントだったのね」
「まだ信じてなかったのかよ!」
「半信半疑ってとこだったわね」
そう言ってから、クロアは本を閉じてトキオに返した。
「あ!そう言えば、あんたは何もしないで魔法を覚えてたって言ってたけど、もしかして、この世界に召喚されたときにはもう覚えてたの?」
「そうなんだよ。その野っ原で目覚めてからすぐステータス画面を確認したけど、そのときにはすでに、火、水、風、光の魔法スキルは備わっていたんだよね。他のはレベル1だったけど、光はそのときからすでに5だったな」
「ということは、光魔法の習得に必要な教団の加護は、その時からすでに備わってたってことよね」
「ああ、そうらしい」
「あんただけ特別扱いされて、なんか、やっぱり腹立つわね!」
「そう言われてもなあ。俺から頼んでそうして貰ったわけじゃないし」
「それはそうなんだけどさあ、不公平じゃない?」
クロアは少しふくれていた。
「・・・それで、他には?」
トキオは、クロアの気をそらせるために言った。
「そうねえ・・・あんたがどういう人間だったのかってのも気になるわね。あんたが選ばれてわざわざ召喚されたってことは、向こうの世界では名のある戦士だったりしたの?」
「いや、俺の仕事は警察官だったよ」
「警察官?」
「犯罪を取り締まる仕事さ。俺は警察官の中でも、殺人事件を多く扱う部署で刑事ってのをやってたんだよ」
「ああ、それって、この国じゃ一部の兵士が受け持ってる仕事ね」
「そうらしいね。俺の世界じゃ、犯罪を取り締まる組織は軍隊とは別の独立した組織だったんだよ」
「そうなんだ・・・でも、戦士じゃなかったとなると、なぜあんたを召喚者として選んだのかしらね」
「それについては、ミヒールさんに会って、俺の意思だけでこの世界に来られたんじゃないということが分かった時に考えたよ。なぜ俺だったのかな?ってね。すると、いくつか思い当たることがあった・・・・一つ目は、俺が異世界オタクだったってことだな」
トキオは、ニヤリとしながら言った。
「オタク?・・・それなに?」
「あー、説明が難しいけど、自分の好きなことに没頭し過ぎてる人間のことだな」
「じゃあ、あんたは異世界に没頭し過ぎてる人間ってこと?意味がわかんないわ」
「俺の世界では、ものすごい量の異世界を舞台にした架空のお話があって、俺がそれらを大好きでいつも読んだり見てたりしてたったことなんだよ」
「それがどう関係あるのよ」
「ステータス!・・・例えばこれだ」
トキオはステータス画面を表示させて、それを指さしながら続けた。
「このステータス画面ていうのは、俺の世界に実際に存在するものではなくて、その架空の異世界の話のいくつかに出て来るものなんだ。ドロップアイテムもそうだし、武器を魔法で強化できるってのもそうだ。もっと言うと、お前に教えた2つの魔法を融合させるっていうのもそうだ。これらは、俺の世界では広く知られているけど、異世界の物語を全く読んだことのない人には沸いてこない発想だからね」
「なるほどねえ・・・でも、広く知られているんだったら、他にも候補はたくさんいたんじゃないの?」
「うん。異世界オタクってだけだと、確かにたくさんいるよ。でも、俺には他にもこの世界で活動する際に重要になる要素がいくつかあって、だぶん、そのすべてを備えている者はそんなに多くなかったと思う」
「なによそれ」
「いくつかの格闘技を結構高いレベルで習得してたのもそうだけど、一番重要なのは俺が刑事だったってことだ。さっきも言った通り、刑事って仕事、特に、俺のいた部署だと殺人事件を多く扱うから、人間の死体を見慣れてるってことなんだよ」
「それが?」
「人間の死体を見慣れていないと、人が目の前で殺された時に激しく動揺するし、下手するとパニックに陥ったりする。戦闘中にそうなったら致命的だ。俺のいた国だと、人が殺される瞬間なんかほとんどの人がお目にかかることはないけど、俺は死体はいくつも見て来てるし、凶悪犯が目の前で射殺されるのだって見てる。こんな体験をしてる人間は、俺の国ではすごく少ないんだよ」
「ああ・・・確かに、私も最初に人が魔物に殺されたのを目撃した時には、恐ろしくて体が震えたわ」
「そうだろう?だから、それも大事な要素だったと思うんだ。それともう一つ」
「まだあるの?」
「殺人事件を扱うってことは、人殺しを平気でする凶悪犯を追いかけることもよくあるから、拳銃を所持していることが多かったし、それとは別に、俺が射撃が大好きで他の人以上にしょっちゅう射撃訓練をしてたから、拳銃の手入れはマメにしてた。だから、拳銃の構造を良く知ってて、この世界で作らせることができたんだ。この世界に拳銃を広めてみると、思った以上に魔物に対して有効だったから、これも重大な要素だと思うんだ」
「それは確かにそうね。私も、パーシーなんかが拳銃を使うのを何回か見たけど、弓や剣で討伐するより随分楽になってたものね。特に、金貨が採れるグリベラーがあんなに簡単に討伐できるようになったのはすごく大きいと思うわ」
「そうだろう?それらの要素がすべて備わってた人間なんて、俺の世界じゃそう多くはなかったのさ」
「なるほどねねえ・・・納得したわ」
「でも、前から言ってる通り、みんなに教えたことで俺自身が考案したものは何もないからね。全部、俺のいた世界の情報と技術なんだよ」
「柔道もそうだってことね」
「そうそう。まあ、この世界じゃみんな覚えてから数か月しか経ってないから、今のところ俺がすごく強いように見えるけど、向こうの世界じゃ俺より強い奴はいっぱいいたからね」
「えー!そうなの?」
「俺は、大学生の時に1度だけ全国大会に出たことあるけど、ベスト16どまりだったからね。その程度じゃ、一般の人にはほぼ無名だよ。オリンピックに出て金メダルを取った人、つまり、世界一になった人だと国中の人が知ってる超有名人になるからね」
「え?国同士で柔道の試合をするの?」
「そうだよ。各国から代表選手を出して、それで誰が一番になるか競い合うんだ。世界大会っては他にもあるけど、一番権威があって注目されるのがオリンピックっていう大会なんだよ」
「へえ~、それいいわねえ。盛り上がりそうね」
「すごく盛り上がるよ!一度見せたいぐらいだな」
「確かに見たいわねえ」
クロアは、すごくほのぼのとした顔になっていた。




