第111話 半身
昨日は、確定申告に行ったら身も心も疲れ果てて(大げさ)、早くに寝てしまいました。
すみません。
でも、個人事業主になって初めての確定申告が終わって、随分気持ち的に楽になりました。
「お茶のお代わりをご用意いたしますが、いかがですか?」
屋敷の中に入るとセバスチャンが言った。
「そうだね。よろしく」
「私もなんだか緊張して喉が渇いちゃった。助かるわ」
そう言って3人で食事の間へ入っていくと、すぐにジェーンが二人分のお茶を持って現れた。
「え!もう用意できたの?」
トキオは驚いた。
「はい。そろそろ戻られる時間だと思いまして、ご用意させていただきました」
ジェーンが答えた。
「さすがだな~。しかも、その前の食器はすべて片付けられてるし。もう、優秀過ぎ!」
「ホントよね~。スゴいわ!」
クロアも感心した。
トキオとクロアは、テーブルの真ん中に向かい合って腰を下ろした。
「ところでさあ、あんた、昨日持ち出した本、読んでみた?」
「いや、昨日の夜は地下の棺を見つけたことで、これからどうなるか考えてたから、ほとんど読まないで寝ちゃったな」
「そうなの?セバスチャンは?」
「私も、後片付けもありましたので、まだ目を通しておりません」
「なんだ。読んだの私だけなのね」
「お!読んだのか!どうだった?」
「読んだと言っても、最初の方だけだけどね。でも、知らなかったことが色々と書いてあって参考になったわ。すごく貴重な本だと思う」
「そうか~。それじゃ、俺のも楽しみだな~」
「あんた、何の本を待ちだしたのよ」
「それがねえ・・・ドラゴンについて書かれた本なんだよ」
「え!?そんなものがあったの!」
「うん。どこまで書いてあるかはわからないけど、元々俺にはドラゴンの知識は無いに等しいから、何が書いてあっても参考になると思うよ」
「それ、私も見たいわ。読み終わったら貸してね」
「わかった。でも、いつになるかわからないぞ」
「なによそれ。とっとと読みなさいよ」
「はいはい」
トキオたちが、そんなほのぼのとした会話をしていたその時、地下の隠し部屋の棺の蓋がわずかに動いた。
そこで一旦動きを止めたが、しばらくすると上部がわずかに持ち上がった後にゆっくとり左にスライドしていき、20センチほど動いたところでいきなり大きくスライドして、大きな音を立てて床に落ちた。
「ん!」
その瞬間、セバスチャンが険しい顔になった。
その表情の変化をたまたま見ていたトキオが声をかけた。
「セバスチャン、どうしたの?」
その声で、クロアもセバスチャンの方を振り返った。
「今、下から何か音が聞こえませんでしたか?」
「下から?・・・何か落ちたかな?でも、地下室には前の持ち主の持ち物が入った箱があるだけだし、隠し部屋の本も全部持ち出したから、落ちるようなものは何もないはずだけど」
「そうですよね」
セバスチャンはそう返事をすると、しばらく床の方に耳を傾けていた。
「・・・しなくなりましたね。外から聞こえて来た音だったんでしょうか」
「そうなんじゃない?」
トキオがそう答えると、クロアは前に視線を戻した。
しかし、隠し部屋の奥では、蓋が外れた棺の中から魔人がゆっくりと上半身を起こしていた。
その姿勢のまましばらく周りを見回していたが、右の方が通路になっているのを確認すると、ゆっくりと棺の中で立ち上がり、軽やかに床に降り立った。
その瞬間、着ていた服は粉々になって崩れ落ちたたため全身が露わになった。
その下半身はすべて熊のような黒い毛に覆われており、背中にはしわくちゃになった分厚い扇のようなものが貼りついていた。
その時、王国の片隅にある大きな城の一室でつぶやく者があった。
「感じる・・・復活したぞ」
「復活?魔王様、なにが復活されたのでしょうか」
傍らに控えていた長身の魔人が言った。
「私の半身が復活したのだ。これは実に喜ばしい」
「なんと!それでは魔王様のお力が完全に蘇るのですね!」
「そうだ。あとは半身が戻ってくるのを待つのみだ」
「それでは、儀式の準備をととのえておきましょう」
「うむ・・・ふはははははは!」
魔王の笑い声は城の中に響き渡った。
棺から出た魔人は、隠し部屋の通路を先に進んで行った。真っ暗な中でも辺りが見えているかのようだった。
通路の先は行き止まりになっていたが、手で触れてそれが木製であるのを確認すると、両手を開いて胸の前に引いてから勢いよく前に突き出した。
ドーン!
次の瞬間、本棚は粉々に砕けた。
新たな部屋が現れたので、魔人はその部屋の中へ踏み込んだ。
「あ!」
「確かに音がしたぞ!」
「私にも聞こえたわ!」
「侵入者ですね」
「もしかすると、抜け道から入って来たのか!?」
「その可能性が高いです。様子を見てきます」
セバスチャンはそう言うと部屋の入口に向かったので、トキオは後ろから言った。
「部屋に行って武器を取って来るから、俺が来るまで地下室の扉の前で待ってて!」
「わかりました」
そう返事をすると、セバスチャンは部屋から飛び出して行った。
そのあとを、厨房の方から出て来たメアリーとジェーンが追って行った。
「私も行くわ!」
クロアはそう言うと、メアリーとジェーンのあとに続いた。
トキオも部屋を出ると、正面の階段を駆けあがって自分の部屋に行き、棚に置いてあった拳銃とライキリのベルトを装着してクロアの部屋の向こうにある階段に走った。
トキオが階段を駆け下りて地下室の扉の前に着くと4人がそこで待っていたが、セバスチャンとメアリーは燭台を持っていた。
「それでは行きます!」
セバスチャンは地下室への扉を勢いよく開けると、階段を駆け下りて行き、メアリーとジェーンもそのあとに続いた。
トキオがクロアに続いて階段に足を踏み入れた瞬間、階段の下の地下室の扉が粉々に砕けて、破片が一番先頭にいたセバスチャンの方へ飛んできた。
セバスチャンは足を止めて、飛んできた破片を身をよじったり手で叩き落としたりして躱した。
すると、その直後、下半身が真っ黒い毛でおおわれた者が、地下室から出て来た。
「なんと!」
「あれは!」
「魔人よ!」
セバスチャン、メアリー、ジェーンは魔人に対して身構えた。
「ほう、人間か。久しぶりに見るな」
魔人が不敵な笑みを浮かべながら言い、先頭のセバスチャンから最後尾のトキオまで、舐めるように視線を送った。
「残念だが、今はお前たちの相手をしている暇はない」
そう言うと、セバスチャンに向かって突進して来た。
それに対して、セバスチャンがパンチを放ったが、前方に移動しながら避けると、続いて同じように殴りかかって来たメアリーとジェーンの攻撃もするりと躱した。
「ここじゃまずい!」
トキオはそう言うと、クロアの脇の下から腕を前に回し、クロアを抱えて後ろに飛び下がった。
魔人は、廊下に下がった二人の目の前に飛び出してきたが、クロアの顔を一瞬見てニヤリと微笑みを浮かべると右の方へ飛ぶように走って行った。
「外へ出る気だ!」
トキオは、そう言いながらクロアから手を離して横に立たせると魔人を追いかけた。
セバスチャン、メアリー、ジェーンもすぐ後ろからついて来たが、クロアは少し遅れた。
魔人は玄関から外へ出ると、しばらく走ってから上を見上げて一旦身をかがめジャンプするような姿勢を取ったが、すぐにスッと真っすぐ立ち上がると背中の方を振り返った。
「ふむ、まだ翼が戻っていないか」
魔人の背中に貼りついていた分厚い扇のようなものは、魔人が目覚めた時より、少し横に広がっているようだった。
「ファイデスト!」
セバスチャンがそう唱える声が聞こえたかと思うと、トキオの脇を太く青白い炎の帯が魔人目がけて飛んで行った。
その炎が魔人を直撃したと見えた瞬間、魔人がそれを左手で軽く弾き飛ばした。
トキオたちから見て右へ弾き飛ばされた炎は、50メートル先の植え込みを直撃したため、植え込み全体が炎に包まれた。
「ほう。なかなか良い魔法を使う者がいるな」
魔人はそう言ったが、余裕の表情だった。
「あんなに簡単に・・・ご主人様、同時に攻撃した方が良さそうです」
「そのようだな」
トキオたちはトキオを一番右にして、セバスチャン、メアリー、ジェーンの順で横へ並んだが、クロアだけは後ろに控えていた。
「どうした?」
トキオが振り返って聞いた。
「私が強力な魔法を使うのには少し時間がかかるから、あんたたちの陰で準備するわ」
「そうか。わかった」
トキオは、魔人に視線を戻すと腰から拳銃を抜いて狙いを付けた。
「ステータス!」
セバスチャンがステータス画面を表示させた。
「あの魔人の弱点は光と風です!」
ステータス画面を確認するとそう言った。
「ほう。その青白く四角いもので私の弱点がわかるのか。人間も少しは進歩しているようだな。だが、残念ながら私にはどのような魔法も効かぬぞ」
魔人はそう言うと、不敵な笑みを浮かべた。
「ガステスト!」
セバスチャンがそう呪文を唱えると、渦巻き状の突風が魔人目がけて飛んで行った。
しかし、それも魔人に左手で弾き飛ばされた。
「弱点属性の魔法も弾くとは!・・・あいつの言っていることは本当のようですね」
セバスチャンが厳しい顔で言った。
「無駄だと言っただろう。まあいい。せっかく復活させてもらったことだし、少し時間があるから遊んでやろう。私に血を与えてくれたことを感謝するぞ」
「血?」
「あ!」
そこで、クロアが声を上げた。
そのクロアの驚いた声で、トキオはそれがなんのことだか理解した。
「そうか!クロアが棺で手を切った時の血か!」
「それも特別な血を与えてくれたからより復活が早まったぞ」
「特別な血?・・・・・あ!定番の『処女の生き血』か!」
パカーン!
その直後、トキオは後頭部に殴られたような衝撃を受けた。
その部分を左手で押さえて振りえると、すぐ後ろにクロアが立っていた。
「あんた!なに人の恥ずかしいことを大声でバラしてんのよ!みんなに聞こえちゃったわよ!それに、定番って何よ!」
「・・・あ」
そう言われてトキオがセバスチャンたちの方を見たら、3人とも慌てて目をそらした。
「しかも、ただの処女の生き血ではない。陰月の日の生き血だったからな。言葉で感謝するだけでは足りないかもな。ははははは!」
魔人は、そう言うと高らかに笑った。
「陰月の日?・・・あ!生理の日ってことか!」
パカーン!
トキオは、再び後頭部に衝撃を受けた。
「あんた、ホントにいいかげんにしなさいよ!どこまで私に恥をかかせたら気が済むの!」
クロアはすっかり怒っていた。
トキオがセバスチャンたちの方を見たら、また、3人とも慌てて目をそらした。
100話のあとがきで宣言した「ここに来るまでの経緯」というのを書いてみたいと思います。
まあ、経緯というかコンセプトみたいなものです。
とは言っても、突然閃いて書き始めた小説ですから、最初からそれほど明確なコンセプトがあったわけではありません。
ただ、以前から漠然と以下のことは考えていました。
・今までに、日本でアニメ化や書籍化されてきた異世界転移/転生のお話はかなりの数があるので、主人公が「異世界ってなに?」とか「変な世界に迷い込んだのか?」とかって考えるのは不自然。あるとすれば「異世界って本当にあったんだ」とか「俺も異世界に来ちゃったんだ」と考えること。
・元の世界より文明が遅れているのなら、元の世界にあった技術を教えないのは不自然。
・魔族が人間を滅ぼそうとしているといった種族対種族の戦闘の話であれば、個人対個人の戦闘しか生起しないというのはあり得ない。集団対集団の戦闘になるのが当たり前。
・集団対集団の戦闘でも、一番上に立つ者同士が1対1で戦闘するというのもあり得ない。指揮官を失ったらその集団の戦闘力がガタ落ちになるのは必定なので、一番安全な後方に控えているのが自然。
そこで、このお話の主人公トキオには、圧倒的に高い能力を持った人間として大活躍をさせるというのではなく、集団の戦闘力を高める、という役割を担わせました。
そのため、重要な局面では、彼一人で戦局を左右するような活躍をするという話にはしていません。
ただ、個人対個人の戦闘がまったく生起しないのはお話として面白みに欠けるのも事実なので、指揮官ではなく元から個人として戦闘を行う超人的な能力を持った者として「勇者」や「魔導士」を登場させ、それに、集団対集団の戦闘が失敗したたため、その尻拭いとして魔人やその幹部を現場に登場させて戦いに巻き込ませる、という設定は考えています。
他にも、トップではない者同士の個人対個人の戦闘が生起するのはある得ることなので、その描写は盛り込んでいます(「第62話 2体目の魔獣」におけるトキオ対魔人)。
クロアにヒドラの完全体を倒させたのは、あくまで、クロアを王都に住まわせて、その後の話の展開に幅を持たせるためですので、何度もこんなことをさせるつもりはありません。
それと、最初が思いつきだっただけに、深慮ができていませんでしたから、書いているうちに「あれ?こういう話にしないとつじつまが合わないよな」とか「不自然だな」とかって気づくことが多々ありました。
書き始めた時は、トキオは元の世界から持ち込んだ情報や格闘技を駆使して一目置かれる存在になって皆の人気者になるが、ドロップアイテムと強化魔法で武器の威力が上がったことと格闘技を皆が自分のものにしていったことでその差がなくなり、ちやほやされなくなって腐り、拳銃を登場させて失地回復を図る。そのため、拳銃は自分しか持っていなくて、そのせいで子供が魔物に襲われて死亡し、そこで改心して皆に拳銃を広める。
・・・と、いう設定を考えていました。
しかし、トキオを気さくで物事にこだわらない単純な性格という設定にしてしまったので、上に書いた展開では不自然になると思い、今の設定に変更しました。
具体的に言うと、
・皆の柔道のスキルが上がることを喜んでいる。
・銃は最初の段階から皆に持ってもらうことを前提としていること。
と、いった部分ですね。
それと、トキオは異世界にあこがれてやって来た人だから、異世界のいろんなものを見るたびに感動し嬉しがる人間にしようと考えていたんですが、どんな場合や場所であれ、感動するのは最初の頃だけで、そのうち慣れてしまうというのが人間の常なので、そこらへんはほどほどにしました。
書き始めた時から長い話になることは予想できたんですが、色んな予定外のエピソード(柔道大会、等)を盛り込んだため予想以上に長くなってしまいました。
110話を超えたのに、たぶん、まだ3分の1も行ってません。
オチとラストはすでに決めてあるんですが、途中の展開はほんの一部しか考えていないので、どういう展開になるか自分でも予想できません(笑)。書いてる最中にふと思いついて話を盛り込んだりするので余計です。
まだまだ続きますが、飽きずにお付き合いいただければ幸いです。




