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異世界マニアのおしかけ召喚者  作者: 伊部九郎
第2章 王都編
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第110話 棺の中身

「やっぱりやめませんか。何やらいやな予感がいたします」

 セバスチャンが言った。

「じゃあ、ちょっとだけね。中身を確認できるだけ蓋を開けたらすぐに閉じるから」

 トキオはそう言うと、手のひらを上にして両手の指を蓋の下に差し込んだ。

 セバスチャンも同じように手を差し込んだ。


「じゃあ、せーの!」


 そのトキオの掛け声で蓋の手前側を30度ぐらい持ち上げた。


「え・・・これは!?」

「まさか!」

 二人は目にしたものに愕然として、ふたを待ちあげたまま固まってしまった。


 後ろに控えていたメアリーとジェーンは、二人の動きが止まったのを不思議に思い二人の横に来た。


「キャー!」


 棺を覗き込んだ二人は同時に悲鳴を上げた。

「こ、これって・・・」


「ええ・・・どうやら魔人のようですね」

 セバスチャンが険しい顔で言った。


「ちょっと持ってて」

 トキオはそう言うと、棺の反対側に回って、老朽化している棺の蓋が破損しないように支えて、ゆっくりと下に降ろした。



 棺の中に納められていた魔人は、死に装束なのか、かなり立派な黒い礼服を着ていた。

 しかし、相当古い時代の物のようで、服の生地はカサカサに乾いており、触るとボロボロに崩れそうだった。


「水分が飛んで、体自体もかなり干からびていますね」

「そうだねえ・・・さすがに、これに触れるのはまずそうだ。しかし、なぜこんなところに魔人の遺体が収めてあったんだろう」

「不思議ですね。イーレフェルト様であれば何かご存知かもしれません」

「そうかなあ?隠し部屋のことも、本のことも知らなかったみたいだから、何も知らないんじゃないのかなあ」

「ああ、そうでした。とにかく、ここは蓋を戻して、明日の朝一番で教団本部の魔導士長様にご報告した方が良いと思います」

「うーん、そうだねえ。俺たちじゃ判断できないから相談してみよう。魔導士長様に伝えれば、お城にも連絡が行くんでしょ?」

「そうだと思います」


(こういうのがミイラっていうやつなのかな)


 トキオはそんなことを思った。



 その場は、元のように蓋をしてから、全員、部屋の外に出た。

 本棚は、スイッチになっていた本を手前に引っ張ったら元の位置に戻った。


 そして、素早く手入れが残っていた本と本棚のホコリを掃うと1階に戻り、そこで解散した。




「先程、教団本部には使いを出しておきました」

 次の日の朝、トキオが食事の間に来るとセバスチャンがそう言った。


「ああ、ありがとう。さすがに仕事が早いね。馭者さんに行ってもらったの?」

「はい、そうです」


「うん?なーに?何の話?」

 クロアが聞いた。

「驚くなよ。実は隠し部屋の本棚の後ろにもう一つ部屋があってね」

「え!ホント?」

「うん。それでそこに棺があったんだよ」

「棺?なんでこんなところに・・・中は見たの?」

「ああ。そしたらねえ、そこには魔人の干からびた遺体が入っててね。そのことを教団本部に報告しに行ってもらったってわけ」

「え!魔人!?ウソでしょ?」

「残念ながら本当なんだよ。もちろん、なんでここにそんなものがあったかはわからない」

「それはかなり驚きね。それと、なんかちょっと怖いわね」

「うーん、そうだよねえ。ここにある理由が全然わからないからなあ」

「もしかしたら、隠し部屋にあった本のどれかにそのことが書いてあるんじゃないのかしら?」

「ああ、そうか。その可能性はあるな」

「といっても、あの中のどれに書いてあるかを調べるのは大変ね。引き取り先での調査結果を待つしかないわね」

「そうだな。でも、その前に教団本部から来る人たちが棺も持ち出すんじゃないかな」


「そのことなんですが」

 そこで、セバスチャンが口を挟んだ。


「ん?なに?」

「あとで思ったんですが、あの棺の横幅が通路の幅より大きい気がしました。もしかすると外に出せないのではないでしょうか」

「あー、確かにそうかも・・・となると、どうやってあそこに入れたのかな」

「これは想像ですが、地面を掘って先にあそこに納めてからあの部屋を作ったのではないでしょうか」

「なるほど~。それだったら説明がつくね」

「そうなりますと、本同様、数百年以上前からあそこにあったことになりますね」

「当然そういうことだよねえ・・・あ!もしかして、封印してあったってこと?」

「その可能性がありますね。そうなると、あの部屋を開放したのはまずかったかもしれません」

「そうか・・・しまったなあ」

「まだ、そうと決まったわけではありませんから、とりあえず、教団本部の方がお見えになってから判断を仰げばよろしいのではないでしょうか」

「そうだねえ。これは、俺も立ち会った方が良さそうだから、今日はお城には行ってられないなあ」

「はい。そうなると思いましたので、お城の方にも報告を兼ねて使いを出しておきました」

「さすが!ホント頼りになるねえ」

「恐れ入ります」


「えー?でも、ホントに封印を解いたとなると、魔人が蘇ったりするんじゃないの?大丈夫かなあ」

 クロアが言った。


「いや、完全に干からびてたからそれはないと思うよ」

「そうだといいんだけど・・・とにかく、私も一緒に立ち会うことにするわ」

「まあ、それはいいけど」




 その後、朝食が終わってお茶をのんでいたら、玄関の方から馬車が入って来る音が聞こえて来た。

 その音を聞くと、セバスチャンがすぐに出て行ったので、トキオとクロアも玄関に向かった。


 外に出てみると馬車が4両も来ており、一番後ろの馬車は、荷物運搬用と思われる幌馬車だった。


 先頭の馬車からは魔導士全員が降りて来た。

 2番目と3番目の馬車からは、キロウ司教、ミヒール司祭のほかに、数人の教団本部の職員だと思われる人たちが降りて来た。


「トキオ、話は聞いたぞ」

 トキオの近くまで来ると、魔導士長が言った。


「はい、まさかこんなところに魔人の遺体があるとは思いませんでしたので驚きました」

「我々も驚いている。とにかく、教団本部に持ち帰って調査することになった。構わないか?」

「それがですね、どうやら棺が大きすぎて外に出せないようなんですよ」

「なに!?本当か?」

「まだ正確に測ったわけではないんですが、俺もセバスチャンもそう感じました」

「それは困ったな・・・とりあえず、現物が見たい。案内してくれ」

「わかりました」



 トキオは、全員を引き連れて隠し部屋に行った。


 まず、教団本部の職員たちが、本棚に収めてあった本をすべて取り出し、持って来た木箱に詰めた。

 それから、トキオがスイッチになっていた本を押して本棚をずらし、本を運んで行った人たちを除いた全員を棺のところへ案内した。

 セバスチャンとクロアも一緒に来ていた。


 教団本部の職員が二人で棺の蓋を外して中を露わにすると、魔導士たちから驚きの声が漏れた。

 職員たちは、蓋を少し離れた場所に置いた。


「まさしく魔人だ。なぜこのようなところに収められていたのだ」

 魔導士長が棺の中を覗き込みながらそう言うと、残りの魔導士たちと、キロウ司教、ミヒール司祭も棺のそばに寄って中を覗き込んだ。

 クロアも反対側に回ると、棺に手をかけて覗き込んだ。


「完全に干からびていますから、相当な年月が経っていると思われますね」

 キロウ司教が言った。


「そうだな。一体、いつからここにあったのだろう。遺体とはいえ、王都の中に魔人がいるということはかなり問題だな」

「そうですね」

 魔導士長の言葉に、他の魔導士たちも同意した。


「それにしても、トキオが言った通り、棺ごとここから持ち出すのは無理そうだな。遺体だけ運び出すしかなさそうだから、そのための装備を用意して出直しだな」

「そうですね」

「とりあえず、今はこのままにしておこう・・・蓋を戻してくれ」

 魔導士長は、蓋を外した二人にそう言った。


「痛っ!」

 そこでクロアがそう言って手を押さえた。


「どうしたの?」

 トキオが聞いた。

「棺から手を放そうとしたら、ささくれてたところにひっかけて切っちゃったみたい」

「おい、血が出てるじゃないか」

「あ、ホントだ」

 クロアはそう言うと、あわててハンカチを取り出して押さえようとしたが、間に合わずに血の一滴が棺の中に落ちた。


「あ、ごめんなさい」

「まあ、その程度なら構わんよ。蓋を閉めるから下がって」

 魔導士長にそう言われてクロアが下がると、蓋は元通りに閉められた。



 それから、全員は部屋から出て本棚を元に戻すと、食事の間に行った。

 職員たちはまっすぐ外に出て行った。


 食事の間には、お茶と簡単な茶菓子が用意してあった。


(また、セバスチャンが指示してくれてたんだな。なんだかいつも申し訳ないなあ)

 トキオは思った。



「本はすぐに調査を始める。棺と魔人については、城とも相談してどうするか決めることになるだろう」

 魔導士長が言った。


「決まるまではあのままですか?」

「そういうことになるな」

「ところで、あの部屋は魔物を封印していた部屋だったという可能性はありませんか」

「ああ、それはあり得るな。次に来た時にその点も知らべよう」

「ありがとうございます」

「そこも含めて方針が決まったらまた連絡する。とりあえず、今日のところは引き上げる」


 魔導士長がそう言うと、全員、立ち上がって玄関に向かった。



「それでは邪魔したな」

「お気をつけて」


 トキオ、クロア、セバスチャンは、玄関先で見送った。



「でも、あんなのがしばらくここにあるのって、何か気持ち悪いわね」

 帰って行く馬車を見送りながらクロアが言った。


「確かにそうだな。でも、今までもあったんだから気にしなきゃいいんじゃないか」

「そうだけど、知っちゃったらやっぱり気になるじゃない」

「その気持ちはわかる。実は俺もなんだよ」

「でしょう?」

「でも、考えてもしょうがないな。教団本部やお城から人が来るかもしれないから、今日は、このままお城に行かずに待機していた方が良さそうだな」

「私もそうするわ」


 そう言うと、3人は屋敷の中へ入って行った。

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