第109話 さらなる隠し部屋
「あっと。明日になったら隠し部屋の本を取りに来るかもしれないから、今日のうちに俺たちが読む分は持って来ないと。風呂はそのあとだな」
屋敷の中に入るとすぐ、トキオは足を止めてそう言った。
「ああ、そうね。そうしましょう」
「セバスチャンは隠し部屋に行ってみた?」
「いえ。無断で入るわけにはいきませんので行っておりません。入り口も伺っておりませんし」
「あ、そうか。じゃあ、一緒に来て」
「よろしいのですか?」
「今後のこともあるから、どこに何があるかは知っておいて欲しいしからね。特に、抜け道を知っておくのは大事でしょ」
「そうですね。わかりました」
「あ、そうだ。本を取り出すとき手前のホコリがはがれちゃうから、掃除しておいたということにしてホコリを全部拭き取っておきたいんだよね。手伝ってくれる?」
「了解しました。そういうことでしたら、あとでメアリーとジェーンにやらせましょう」
「あ、そう。それは助かるな。俺も手伝うよ」
「いえ、大丈夫です。彼女たちの方がそういった仕事に慣れておりますから、扱い方も心得ております」
「あ、そうかー。俺がやって下手に本を破損したらまずいからな~」
セバスチャンはにっこりと微笑んだ。
「ほう、こんなところに地下通路の入口があったのですね」
暖炉の奥に開いた隠し部屋への入口を見ると、セバスチャンは感心したように言った。
「じゃあ入るけど、そんな立派な服で大丈夫?汚れると思うよ」
セバスチャンはいつも通りの礼服姿だった。
「替えはございますから大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
トキオ、クロア、セバスチャンの順で穴をくぐったが、トキオが見ているとセバスチャンは服を気にすることもなく膝を付いてくぐって来た。
「ふうむ、確かに相当昔に作られた通路のようですね。非常に興味深いです」
歩き出すとセバスチャンは、通路の壁に手を触れながら言った。
「使われている石が古そうなのは俺でもわかるけど、なんか他にも古いと判断する要素がありそうだね」
「はい。石の大きさや組方が、百年以上前に建てられた上のお屋敷とはまったく違います。同様に、ここ百年以内に作られた建造物のどれとも違っております」
「確かにそのとおりね。お城の古い区画はこの上のお屋敷よりもっと古いと思うけど、それともまた違ってる気がするわ」
クロアも同意した。
「そうなんだー。城なんて、俺は、カタチばっかり見ていて、そういうところは気にしたことなかったからなあ。今度、そう言うところに注意して見てみよう」
「おお、こんなにも!これほどたくさんあるとは思っておりませんでした」
隠し部屋に入ると、セバスチャンはまた驚きの声を上げた。
それから、本棚に近寄ると手に持っていた燭台をかざし、興味深そうに本の背表紙を眺め始めた。
「・・・これは本当に貴重なもののようです。聞いたこともない家系の歴史が書かれた本や、古い魔法について書かれた本があるようです」
「あ!それよ!私が読みたかったのは!」
クロアはそう言うと、本棚に歩み寄って1冊の本を取り出した。
その途端に、その本と手前の板に付着してホコリが少し舞い上がった。
「ゲホッ!・・・スゴいホコリだわね。ちょっとキレイにしてから読まないと服がホコリだらけになりそう」
「ちょっとよろしいですか」
セバスチャンはそう言うと、左手でクロアから本を受け取り、右手で上着の内側からハンカチのようなものを取り出して、本に付着していたホコリを丁寧にぬぐった。
「これで大丈夫かと思います」
「あ、キレイになった!ありがとう!」
クロアは本の表紙を撫でてからそう言った。
「俺が読みたかった本は・・・これだ!」
トキオも、目的の本を取り出したがやはり少しホコリが舞ったので、同じようにセバスチャンが綺麗にしてくれた。
「悪いね。助かるよ。セバスチャンも一冊持ってていいよ」
「本当ですか?普段でしたらご辞退させていただくところですが、この聞いたこともない家系の歴史が書かれた本がどうしても気になります。もしかすると、王家ですら知らない、この国の古い歴史が書かれているかもしれません」
「おー、それは俺も興味深いなあ。読み終わったら俺に回してくれる」
「承知しました」
「あ、私も読みたい!」
「俺のあとね」
「えー!?・・・まあ、この魔法の本を読むのが先だからいいけど」
クロアはしぶしぶと言う感じでそう答えた。
「そんなところでいいかな?」
「私はいいわよ。あんまりたくさん持ち出すとばれちゃいそうだから、1冊ずつにしておいた方がいいんじゃない?」
「それもそうだな。じゃあ、戻ろうか」
トキオはそう言うと、回れ右をして入口の方に体を向けようとしたが、抜け道への扉が目に入って動きを止めた。
「ああ、セバスチャン。あのドアの先が抜け道だよ。それが東屋の下まで続いてるからね。途中で直角に左に折れてるけど、1本道だから迷うことはないよ」
「わかりました。一応、明日にでも確認させていただいてよろしいでしょうか」
「いいよー。みんなにちゃんと把握しといて欲しいから、メアリーとジェーンも連れて行ってくれる?料理長さんや庭師さんたちにも教えといてね」
「わかりました」
それから3人は1階へ戻った。
夕飯が終わったあと、トキオは自室に戻って、隠し部屋から持って来た本を読もうとソファーに座ったが、暖炉の入口を閉じなかったような気がしてきたので、地下室に行ってみることにした。
地下室に着いてみると、やはり、暖炉の入口は開いていたままだった。
閉じるためのスイッチになってる暖炉の内側左隅にある石を押そうとかがんだら、通路の奥に灯りが見えた。
燭台でも置き忘れたかと思い、本が燃えてしまってはいけないなと通路に入って行った。
隠し部屋に着いてみると、3つの燭台で中は明るく照らされており、開け放たれたドアからその光が漏れていたことがわかったが、そこには、セバスチャン、メアリー、ジェーンがいて、本と本棚を綺麗にしているところだった。
「ありゃ、こんな遅くに申し訳ないね」
トキオがそう声をかけると、3人は驚いてビクッと体を震わせるとトキオの方を見た。
「ご主人様でしたか。こんな時間に来られるとは、物音がうるさかったでしょうか」
セバスチャンが言った。
「いや、そうじゃなくて、暖炉の入口を閉め忘れた気がしたんで地下室まで来てみたら、通路の奥に灯りが見えたもんでね」
「ああ、そういうことでしたか。入口はちゃんと閉まっておりましたよ」
「そう。ならいいんだけど・・・大変そうだね。俺も手伝うよ」
「とんでもございません。それに、もう少しで終わりますから大丈夫です」
「そう?じゃあ、ちょっと見てていい?」
「もちろんです」
トキオはそのまましばらく作業を見ていたが、本当にもう少しで終わりそうだった。
しかしそこで、本棚から本を取り出そうとしていたジェーンがトキオの方を振り返ると言った。
「ご主人様、この本だけなぜか取り出せないのです」
「え?どういうこと?」
「引っ張っても、横に倒そうとしてもびくともしません。まるで、本棚に貼りついているかのようです」
「なにそれ。どれどれ・・・」
トキオはそう言うと、ジェーンのそばに行き、その本を掴んで引っ張ってみたが、言われた通りまったく動かなかった。横にずらそうとしてもびくともせず、本当に本棚に貼りついているようだった。
「えー?なんだろこれ?・・・・・あ!もしや!」
トキオはそう言うと、少し力を入れてその本を向こう側に押してみた。
ゴクッ!
何かに当たる手ごたえとともに、その本は奥へ引っ込んだ。
すると、その途端に本棚全体がゆっくりと左へスライドしていったが、本棚の後ろだった右側の部分に壁がなく、幅80センチほどの入口のようなものが現れた。
「まさかとは思ったけど・・・」
トキオは驚きながら、燭台の一つを手に取りその入口から中へ入って行った。
セバスチャン、メアリー、ジェーンも、同様に驚いた顔をしてその後に続いた。
中は抜け道と同じような高さの通路になっており、そのまま10メートルほど進むと、少し広い部屋に出た。
部屋の広さはトキオの書斎の半分程度だったが、驚いたことに、その部屋の中央には1メートルほどの直方体の台があり、その台の上には大きめの棺のようなものが乗っていた。
「なんだこれは・・・セバスチャン、何か思い当たるものがある?」
「いえ、まさか地下のこんな場所に棺があるとは思いませんでした。オスヴァルト侯爵家のご先祖様が収められた棺でしょうか」
「うーん・・・状況的にその可能性が高いよなあ。どうする?開けてみる?」
「どうでしょうか。このままにしておいてお城にご報告した方が良いように思いますが、先ほどのご様子からして、イーレフェルト様や国王陛下がこのことご存知とは思えませんので、迷うところではあります」
「そうだよねえ」
トキオは、燭台を棺にかざしながら一回りしてみたが、特に変わったところはなかった。
ただ、棺は木製のようだったが、本と同様に相当に古い時代の物のようで、表面がかなり劣化していた。
「うーん、少し怖いけど、やっぱり中身が気になるなあ。ちょっと開けてみようよ。少し蓋をずらすだけだからさ。見たらすぐ元に戻すから」
「そうですか・・・私はあまり気が進みませんが・・・」
セバスチャンはそう言って、棺から少し離れた場所から動こうとしなかった。
メアリーとジェーンは、肩を寄せ合ってセバスチャンのすぐ右に立っていたが、顔はかなりこわばっていた。
「いいからちょっと手伝って」
トキオがそう言いながら手招きをすると、渋々という感じながら、セバスチャンはトキオの横に移動して、トキオと一緒に棺の蓋に手をかけた。




