第107話 闖入者
イーレフェルトの年齢描写を書き忘れていましたので、隠し部屋に入って来て王様に近寄った個所に追記しました(2021/2/28 11:25記)
「こちらが地下室への入口となります」
地下室へ降りる階段へのドアの鍵を開けると、セバスチャンが王様に向かって言った。
「なるほど、ここか」
「よく鍵を持ってたね」
トキオが聞いた。
「はい。教団本部やお城で隠し部屋のことをお話しされればどなたかが見にいらっしゃると思いましたので、用意しておきました」
「おー、さすがだね~」
トキオは、真面目に感心していた。
「では、ご主人様こちらを」
セバスチャンはそう言うと、手に持っていた燭台をトキオに差し出した。
「あれ?セバスチャンは行かないの?」
「お客様がいらっしゃるといけませんので、私は1階に控えております」
「あ、そうか。よろしくね」
「はい」
セバスチャンはそう言うと、一礼して下がって行った。
「ほう、この屋敷にこんな地下室があったのか」
地下室に入ると王様が言った。
「もしかして、この屋敷には何度かいらしてますか?」
王様がこの屋敷のことをかなり知っている風だったので、トキオは思わず聞いた。
「ああ、元はオスヴァルトの屋敷じゃからな。何度も来たぞ」
「あ、そうでしたね。つまらないことを聞きました」
「まあ、お前には何も伝えていないからな。気にするな・・・それより、隠し部屋への通路の入口はどこじゃ?」
隠し部屋がかなり気になるらしく、少しじれている感じで聞いて来た。
「こちらです」
トキオはそう言うと、暖炉の前に背を向けて立ち、両手を横に出して暖炉の中を示した。
「うん?それは暖炉だろうが・・・まさか、煙突を上った先にあるのか?」
「違います・・・・良くご覧ください」
トキオは、もったいぶってわざと間をあけてから答えた。
それから、腰をかがめて暖炉の内側に手を入れて、扉のスイッチになっている石を手前に引いた。
ゴゴゴゴゴ・・・
その途端、暖炉の奥の壁がせり上がって穴が現れた。
「おおおおお!こんなところに!」
王様は驚くと言うより嬉しそうに暖炉に近寄ると、しゃがんで穴の奥を覗き見た。
「ここからでは暗くて先が見えんな・・・しかし、よくこんな仕掛けに気付いたな」
トキオはしゃがんでいる王様の耳元に口を近づけて小声で囁いた。
「私の世界では、隠し部屋というと、こういう場所に入口があるのが相場なんですよ」
「ふ、そういうことか」
王様はそう言って笑った。
「それでは参ります。入口は狭いですが、中に入れば立って歩けるようになります。ただ、穴に入る時に服にご注意ください」
「心得ておる」
王様がそう答えたのでトキオは少し不思議に思ったが、先に立って穴の中へ入った。
入ってすぐ立ち上がると少し先に行ってから振り返り、皆が入って来るのを待った。
「おお、確かに歩けるな」
王様は通路に入って来て立ち上がると言った。
「この狭くて暗い通路、昔、城の中の色々な場所を探して歩き回った時のことを思い出すのう」
全員が入って来たところでトキオが歩き始めたので、王様は、その後について行きながら言った。
すると、王様の直後にいたゴットハルトが聞いて来た。
「え?陛下、もしや城の中の抜け道をご存知なのですか?」
「もちろんじゃ。特に小さい頃は城から1歩も出してもらえずに退屈しておったからの。そんなことを言うところを見ると、お前も色々と知っておるのじゃろう?」
「ええ・・・まあ」
「まあ、近衛師団長のお前なら逆に知っておかなくてはいかんじゃろうからな。しかし、多分、ワシの方がたくさん知っておるぞ」
「本当ですか?じゃあ・・・・の・・・は?」
ゴットハルトは王様に近寄って小声でささやき始めたので、トキオには会話があまり聞き取れなくなった。
「そんなものは当たり前・・・の・・・はどうじゃ?」
「もち・・・おります。しかし・・・の・・・はご存じない・・・と」
「知っておるわ!それより、・・・の・・・は・・・も知るまい」
「え!?・・・ところに!・・・・・かと・・・・でした!」
「ふっふっふ、ほうれ・・・方が知って・・・が」
「恐れ入り・・・」
断片しか耳に入ってこないその会話を聞きながら
(王様、楽しそうだな~)
と、トキオは思った。
「ここが隠し部屋です」
「お!着いたか!早く開けて見せよ」
王様はワクワクしたような顔でそう言った。
「はい」
ギィィィィィ
トキオは、ドアを開けると皆を入れるために奥に進み、本棚に向かって手に持った燭台をかざした。
「おお、おお、これほどたくさんあったのか!」
王様はそう言うと、急いで本棚の前まで行った。
「ふうむ、かなり本にホコリが積もっておるな。しかも・・・」
そう言うと、本の手前の板の上に積もっているホコリを右手の人差し指で拭った。
「・・・ここまで硬い頑固なホコリが積もってるところを見ると、本当に数百年経っておるかもしれんな」
それから、右から左へと本の背表紙に目を走らせ、さらには左側の本棚の前にも行って、そこの本の背表紙も眺めまわした。
「ふうむ、興味深いタイトルのものばかりじゃなあ。特にこれなど・・・」
そう言いながら本の1つに手を伸ばした。
「陛下!侯爵家の返事があるまで待った方がよろしかと」
ゴットハルトがそう声をかけた。
「なあに、この国の財産のようなものじゃ。構わんじゃろ」
そう言って1冊の本に手をかけた。
「ああ!・・・では、かなり古い本のようですから、紙ももろくなっていると思われます。破損しないようにご注意ください」
「おお、確かにそうじゃな。それでは慎重に」
そう言って1冊の本を取り出すと、ゆっくりと表紙をめくった。
「ほほう、なるほど」
それから、1ページずつめくっていった。
「ほう」
「ふむふむ」
「なるほど」
王様は1ページめくるたびに、そんな風に呟いた。
「おお!なんと!」
何ページがめくったところで、少し大きな声を出した。
「何か貴重なことが書かれていたんですか!?」
ゴットハルトも少し大きな声で聞いた。
「なんじゃ。お前も気になるのではないか」
王様はゴットハルトの方を見ると、ニヤリとして言った。
「え?・・・ああ、それはまあ、失われた情報が書かれているかもしれませんから」
「そう思うじゃろ?それならば、お前も読んでみれば良いのじゃ・・・トキオ、クロア、遠慮はいらんぞ。お前たちも読んでみるがいい」
「え?いいんですか!?」
トキオが返事をする前にクロアが答えた。
「もちろんじゃ。この家にあったものじゃからな。ここの住人は特に読む権利があるじゃろう」
「わかりました!それでは・・・」
クロアはそう言うと、正面の本棚に歩み寄り左手の人差し指を立てると、その指先に火を灯して本の背表紙を確認し始めた。
トキオは、王様の横に立って、王様が読んでいる本に燭台の火をかざしていたので動けずにいた。
「あ!これは!」
クロアがそう声を上げて1冊の本に手を伸ばした瞬間、
「勝手に取り出されては困りますな」
という、聞きなれない男の声が入口の方から聞こえてきた。
トキオが燭台の火をそちらへかざすと、いかにも「貴族です!」といった立派な身なりをした知らない男が魔導士たちの前に立っていた。
クロアも手を止めてそちらの方を振り返って驚いた顔をしていた。
「おお、来たか。早かったな」
王様はそう言った。
その男は王のそばまで近寄ってさらに言った。
「ここは、元々は我が家の敷地だった場所。上の建物は王に譲渡しましたが、ここにある物は我が家の所有物でありましょう」
その男は、少しきつい顔で王様を睨みながら言った。
暗い燭台の灯ではっきりとわからなかったが、少なくとも40歳以上の年齢に見えた。
「なんじゃその理屈は。敷地ごとくれたんじゃから地下の物も含まれておるじゃろうが」
「確か、契約書には土地と家屋と明記されていたはず。これは家屋ではございますまい?」
「勝手なことを言いおって。だいたい、お前もこんな部屋があるということは知らなかったんじゃろうが」
「それはそうですが、知ってしまったからには正当な権利は主張させていただかないと」
「何を言うておるのかのお。少し読んでみたが、かなり貴重なものじゃぞ。それならば、国のちゃんとした機関で調べた方が良いじゃろうが。それとも、お前の家にこの古い書物を調べられる者がおるのか?」
「・・・それは」
そう言って沈黙が流れたので、トキオは王様に聞いた。
「あのう・・・この方は?・・・」
「おお、そうか。お前は会ったことなかったのお。この男は、この屋敷の持ち主だった男の兄でイーレフェルトじゃ」
「あ、そうなんですね!では、オスヴァルト侯爵家の当主の方ですね。初めまして、現在、ここに住まわせていただいてるトキオと申します」
トキオはそう言うと、イーレフェルトに向かって頭を下げた。
「なに?・・・ステータス!・・・ということは、お前がこれを皆に広めた男か」
イーレフェルトはステータス画面を指さしながら言った。
「はい、そうです」
「おお、会いたかったぞ!」
イーレフェルトは、そう言うとトキオに抱きついて来た。
トキオはびっくりして固まった。
「お前には色々と聞いてみたいことがあるのだ。今度、うちにきてじっくり話さぬか」
イーレフェルトはすぐに体を離したが、肩を掴んだままそう言った。
「あ、はい。お邪魔してよろしければお伺いします」
「そうかそうか!では、近いうちに迎えを寄越そう・・・ところで、この可愛いご婦人はどなたかな?」
イーレフェルトは会話について行けずに呆然としているクロアを見ながら聞いた。
「その娘こそ、ヒドラを一撃で倒した魔女のクロアじゃ」
トキオが答えるより早く、王様が言った。
「おお!おお!会いたかったぞ!」
トキオに言ったのと同じセリフを言って、同じようにクロアに抱きついた。
クロアはさらに呆然となった。
「これこれ、ご婦人にいきなり抱きつくやつがあるか」
王様はそう言ったが、それを聞いたトキオは、
(あんたもさっきいきなり抱きついたでしょ!)
と、心の中でツッコミを入れていた。




