第106話 王様との再会
確定申告書の作成がほぼ終わったので再開します。
・・・しかし、初めてのことがあって聞きたいことがいくつかあったので、役場に申告相談に行ったら、ここじゃわからんから税務署に行ってくれと言われてやり直しになり、ガッカリしました。
税務署、車で1時間ぐらいかかるからめんどくさいよー!
15分ぐらいで行けるところに別の税務署があるのに、どうして管轄がそっちじゃないんだー!
国税庁、もっと柔軟に選べるようにしろー!
「いったいどういうことなのよ!」
トキオに追いつくと、並んで速足で歩きながらクロアが聞いた。
「俺にもさっぱりわからないよ。セバスチャンたちが以前、誰の下で働いてたかなんて全然聞いてないからね」
トキオも不思議に思っていたが、(王様の前で変な顔をしているわけにもいかないな)と思い、今できる最大限のにこやかな顔で王様とセバスチャンたちがいる玄関先へ急いだ。
「国王陛下!」
王様が玄関先の階段を登り切ったところでトキオは声をかけた。
その声に振り返った王様は、トキオの姿を確認すると嬉しそうに微笑んだ。
今日の王様は、謁見の間で最初に会った時と違い、高そうな服ではあるが、わりと体にフィットしたものを着ていて、ガウンや王冠は着けていなかった。
(動きやすさを考えて来たのか。王様もこんな格好をするんだな)
トキオはそう思った。
「おお、トキオ。突然、おしかけてすまないな」
「とんでもございません。お越しいただき光栄です・・・それから、お礼を申し上げるのが遅くなりましたが、このような立派なお屋敷をいただきありがとうございました。私には分不相応で未だにとまどっておりますが、セバスチャンたちが身の回りのことをすべてこなしてくれますので、非常に助かっております」
「そうじゃろう?知ってる執事やメイドの中でも優秀な者をつけたからな」
「そうだったんですね。ありがとうございます」
トキオはそう言うと頭を下げた。
「気にするな。お前がこの国のためにしてくれたことに比べれば微々たるものじゃ・・・おや?そちらのお嬢さんは?」
「クロアと申します。お目にかかれて光栄です」
クロアはそう自己紹介をすると、深々と頭を下げた。
「クロア?・・・おお!ヒドラを一撃で倒したという魔女か!会いたかったぞ!」
王様はそう言うと、トキオと一緒に階段の上に到達したクロアをいきなり抱きしめた。
クロアは非常に驚いた顔をしたあと、ひどく狼狽した。
王様は、体を離すとクロアの両肩を掴んで言った。
「この若さで強力な魔法を使いこなすとは、将来が非常に楽しみじゃ。魔導士たちもお前が鍛えてやってくれぬか」
「え!・・・とんでもございません!私が魔導士様たちに教ていただいているところです!」
「いやいや、あの者たちは歳のせいか頭が固くなっておっていかん。お前の使った魔法は、火魔法と水魔法を融合させるという、今まで誰も思いつかなかった方法によるものだと聞いたぞ。そういう柔軟な発想こそが持っている技をさらに高めるのじゃ」
「陛下」
いつの間にか王様の後ろに来ていたゴットハルトが声をかけた。
王様が振り返ると、ゴットハルトは目で階段の下を見ろと合図した。
トキオがその方向を見ると、そこに魔導士たちが立っていた。
「あ・・・聞こえたか?わはははは!」
王は照れ隠しのように豪快に笑った。
そこでクロアが、王様に向かって言った。
「お恐れながら陛下、二つの魔法を融合させるという発想自体はトキオから聞いたもので、私はそれを実現させたに過ぎません」
クロアらしからぬ殊勝なことを言ったので、トキオは驚いて思わずクロアを見た。
「なんじゃと!トキオ、そのような貢献もしてくれていたのじゃな!本当に、そなたを異世界・・・」
「陛下!」
ゴットハルトが大きな声を出して王様の言葉を遮った。
「・・・あ、そうじゃった。すまん、すまん」
王様はゴットハルトの方を振り返ってバツが悪そうに笑った。
トキオがあわててクロアを見たら、クロアはきょとんとした顔をしていた。
(意味はわからなかったみたいだな。良かった~)
トキオは、それからセバスチャンとメイドたちを見たが、3人とも、王様の言葉が聞こえなかったのか、聞こえたうえでわざと気にしないようにしているのかはわからないながら、いつも通りのにこやかな優しい顔をしていた。
「それでは、隠し部屋とそこにあったという古い書物を見せてもらおうかな」
「はい」
トキオは、王様のやや前方に位置する場所に出て屋敷の中に誘導した。
しかし、王様は屋敷に入るとすぐに言った。
「おお、その前にお前に授けた剣じゃな。なにやら、強化魔法で軽くなって切れ味も良くなったとか勇者が言っておったぞ」
「はい。それでしたらお二階になりますので、どうぞ」
トキオはそう言って先に立って階段を上って行った。
トキオのあとについて寝室まで来たのは、王様、ゴットハルト、魔導士長、クロアにセバスチャンだけだった。
途中で魔導士長が他の魔導士に待つように指示していたので、あまり大所帯になってもいけなと配慮したのだろうとトキオは思った。
「こちらです」
トキオは、部屋に入ると、剣が掛けてある壁の前に王様を誘導して剣を手で示した。
「おお、見違えるように綺麗になったのお」
「・・・え?」
「・・・ああ、大したことではない。気にするな」
(今、「見違えるように」って言ったよな。俺に渡す前に光沢を出すために誰かが磨いたりしたのか?)
トキオはそう思ったが、渡す前はそんなレベルのひどさではなかったということは、この先もずっとトキオに明かされることはなかった。
「少しお待ちください」
トキオはそう言うと、スツールを持って来てその上に乗り、剣を壁から下ろした。
「持ってみてください。ただし、かなり重いので注意してくださいね」
トキオはそう言いながら剣を王様に渡した。
「・・・うおっ!何だこの重さは!こんなに重かったのか!今まで壁にかかっているのしか見ていなかったから知らなかったぞ!」
「はい。私も最初に持った時はびっくりしました」
「ふうむ・・・ちょっと持っていろ」
王様はそう言うと剣を抜いて鞘をゴットハルトに渡した。
それから、両手で持って上段に振りかぶろうとしたが、途中でやめた。
「こんなもので戦おうとしたら振り上げる前にやられるな」
そう言って、両手で持ったまま手を下に降ろした。
「陛下、そのままお持ちください」
シュミュード魔導士長はそう言うと、王様に近寄って持っている剣に右手を当てた。
5秒ほどする、剣全体が薄く青白い光に包まれた。
「なに!?」
王様が驚きの声を上げた。
魔導士長が下がると、今度は剣を最上段に振り上げて踏み込みながら前後左右に振り回すことをしばらく続けた。
トキオはそれを見て、
(この歳でこんなに動けるなんてスゲー!この人もただもんじゃないな!)
と、思った。
「ここまで軽くなるとは思っていなかったぞ!強度も増した感じがするな」
「はい。お伝えしたように切れ味が本当に抜群になっておりまして、勇者とトキオが庭にある石を切りました」
「ああ、そう言っていたな・・・どれ」
王様はそう言うと、ソファーの真後ろに立った。
(え!?まさか!)
トキオがそう思った途端、王様は剣を振り上げてから、ソファーに向かって切りつけた。
シュン!
トキオがやった時と同じように、またも剣が空気を裂く音しかしなかった。
しかし、剣は床まで達してソファーを真っ二つにしていた。
トキオは思わずセバスチャンを見た。
しかし、セバスチャンはまったく表情を変えていなかった。
(おおー、予想してたのか?それとも、王様がしたことだからか?)
トキオはそう思って少し自分がガッカリしているのを感じたが、その瞬間、セバスチャンのこめかみから汗が一筋流れ落ちるのを見た。
(ふふふ、やっぱり動揺してるんだな)
そう思ったら、ガッカリ感が消えて満足感が沸いて来た。
「切れ味も素晴らしいな。手ごたえが全くなかったぞ」
王様はそう言うと、ゴットハルトが持っている鞘に剣を刺し、トキオに返すようにゴットハルトにアゴで示した。
トキオはゴットハルトから受け取りながら、王様に聞いた。
「このような特別な性質を持った剣であるのがわかったんですが、私が持っていてもよろしいのでしょうか」
「もちろんじゃ。これはお前に授けたものじゃからな。ずっとお前の物じゃ」
「ありがとうございます」
「もちろん、戦闘に使っても構わんぞ。いや、むしろ、使った結果が知りたいのお。次にお前が討伐に行くときに、それを使った結果を教えてくれ」
「承知しました」
トキオはそう答えたが、内心、
(これってきっと聖剣だよ。折れたりでもしたらイヤだから使いたくないなあ)
と、思った。
「それで、宝物庫の物で同じように変化した物はあったのか?」
王様がゴットハルトに聞いた。
(あ、そうだった!俺も知りたい!)
「はい。剣と槍と盾に一つずつございました」
「おお!あったか!」
「ただ、変化の仕方か少し違っておりまして、すべて重さはほとんど変化しませんでした。もっとも、元々、この剣のように実用性がないと思われるほど重いものはなかったのですが」
「で、どのように変化したのだ」
「はい。剣と盾は強化魔法の光とは違う、薄赤い光に包まれまして、強度が格段に増したようでした。また、その光にも何か触れるものを弾くような感じがありました。もしかしたら、魔法防御力が備わったのかもしれないと思いましたが、これからさらに調べる予定です」
「ほほう。それは面白いな。それで、槍はどうなったのだ」
「はい。槍は、何か魔力を宿したようだと魔導士長が申しております」
ゴットハルトのその言葉で、王様は魔導士長を見た。トキオとクロアも見た。
「まことか?」
「はい」
魔導士長は、そう返事をすると1歩前に出た。
「と言いましても、まだ、その感じを持ったというだけで、どのような魔力が宿ったのかまでは確認できておりません。ただ、間違いなくそうであると思われます」
「ほう~、それも興味深いな。わかったら知らせよ」
「かしこまりました」
魔導士長はそう答えて元の位置に下がった。
「それではトキオ」
王様はトキオの方を向くとニヤリとした笑みを浮かべた。
「はい」
トキオは思わず背筋を伸ばした。
「そろそろ隠し部屋探検といこうではないか」
「はい。まいりましょう」
トキオも笑みを返しながらそう答えた。
この時の王様の表情に無邪気さを感じて、トキオは少し親近感を覚えた。




