第104話 秘密の書庫と抜け道
穴をくぐるとすぐに天井が高くなっていて、立って歩けるようになった。
石造りの通路だったが、幅は1メールほどとかなり狭かった。
「ところで、隠し部屋があったとして、何を期待してるわけ?」
歩きながらクロアが聞いた。
「あの剣についての情報だよ。魔導士長や勇者様も知らなかったけど、昨日のうちに王様にも報告したと思うんだけど魔導士長がさっき何も言わなかったところを見ると王様も知らなかったみたいだから、あの剣について書かれた古い本があるんじゃないかと思ってさ」
「じゃあ、王様が生まれるより前の古い本を捜しに行くってことね」
「そういうこと」
「でも、王様が知らないってことは先王からも伝えられてないってことじゃないのかしら。先王はかなり長生きしたって聞いたから、知ってれば伝えてるはずよ。ということは何百年も前に失われた知識じゃないの?」
「俺は、その何百年も前の本が残ってるかもしれないって思ってるのさ」
「えー?それじゃあ、この建物が建てられた時期と合わないじゃない」
「それなんだけどさ、なんかさっきの地下室って、上のお屋敷よりもっと古い感じがしなかったか?最初に来た時にもそう思ったんだけど、今日見て、やっぱりそんな気がしたんだよね」
「ああ・・・言われて見れば確かにそうかも。この通路の壁も相当古い気がする」
「だろ?」
「でも、そうだとするとどういうことになるわけ?」
「たぶん、今の屋敷の前に別の屋敷が建っていて、その時か、もっと前に建ってた屋敷の時かはわからないけど、地下室はもっと古い時期に作られて、前の屋敷を取り壊す時にはそれに気づかなかったんじゃないかな。きっと、今の屋敷を建ててる途中で気づいて、倉庫にでもしようと階段だけ作って繋げたんだよ」
「なるほどね。そう言えば、階段へのドアだけ他のよりかなり小さかったわね。なんだか、取って付けられたように」
「そうなんだよ」
そこで、前方に木製の頑丈そうな扉が見えて来た。
「おい、扉があるぞ」
「え?」
クロアは、少し背伸びをしてトキオの肩越しに前方を見た。
「ホントだ。隠し部屋、あったわね」
「開くかな」
近寄ってみると、扉はかなりしっかりとした硬い木材で作られているようだったが、表面に掘られた細工に厚いホコリが付着しており、かなり古そうだった。
トキオは、L字型のドアノブのホコリを払うと、ひねって手前に引いた。
ギイィィィ
ドアは少し軋みながら開いた。
「入るぞ」
トキオがそう言うと、クロアはトキオの背後に密着してきた。
「なんだよ」
「なんかちょっと怖いじゃないの」
「しょうがないなあ。じゅあ、腹に手でも回してろよ」
「うん」
クロアは両手でトキオのお腹に手を回し、しがみついてきた。
この時、当然のことながらクロアの胸もトキオの背中に密着していたので、いつもならトキオは大喜びするところだったが、この時は部屋の中に注意がいっていて気づかなかった。
トキオは中に入ると、持っていた燭台を高くかざして部屋の中を照らしてみた。
すると、まず、正面が本棚になっていて、かなりの数の本が並んでいるのが目に入った。
「おおー、本があったよ!でも、思ってたより多いな」
「ホント?」
クロアは、トキオの左側から顔を出して前方を見た。
「すごーい!たくさんある!」
そう言うと、トキオから離れて本棚の方へ歩いて行った。
トキオは、部屋全体を確認するために、燭台で左右を照らした。
すると、左側は同じように本棚になっていたが、右側には入って来た扉と同じようなデザインの扉があった。
「おい、この先にも部屋がありそうだぞ」
「え?・・・ホントだ」
「じゃあ、先にこっちに行こう」
「え?行くの?」
「ここまで来て何言ってんだよ」
「だってえ、今度こそ何か出てきそうじゃないの」
「王都のど真ん中に魔物なんか出るかよ」
「魔物なんかいつも倒してるんだから怖くないわよ!」
「そりゃそうだな・・・あ、お前、こっちがダメな系?」
トキオはそう言いながら、両手を前にだらんと垂らして見せた。
「やめてよ!」
「わかったよ・・・じゃあ、さっきみたいに後ろにくっついてろ」
クロアは、少し怒ったような顔をしながらも、トキオの後ろからしがみついた。
トキオはそのままドアの方に移動してゆっくり開けると、燭台を持ち上げて先の方を照らしてみた。
「あれ?部屋じゃなくて、まっすぐな通路だな」
「そうなの?じゃあ、抜け道じゃないの?」
クロアは、しがみついたまま言った。
「そうか・・・進むぞ」
クロアは、返事をする代わりにトキオにしがみついている手に力を込めた。
そのまましばらく進んだが、通路はかなり先まで真っすぐ伸びているようだった。
「うーん、燭台の火じゃ遠くが見えないなあ」
トキオはそう言うと、燭台を左手に持ち替えて、右手の人差し指を前に向けた。
「フライシャ」
静かにトキオがそう呪文を唱えると、人差し指の先から直径10センチほどの火球出て前方へ飛んで行った。
50メートルほど飛ぶと、壁にぶち当たって少し明るく燃え上がった。
「うん?あそこで行き止まりか?」
トキオは、クロアにしがみつかれたまま火炎が止まったところまで歩いて行った。
すると、行き止まりではなく通路が左へ直角に折れていたのでそっちに曲がってみたが、そこからさらに真っすぐ通路が伸びているようだった。
「フライシャ」
トキオは、再び、同じように火球を放った。
すると、今度は、距離が分からないほど先で壁にぶち当たったようだった。
「今度こそ行き止まりかな?それとも・・・」
「まだ先に行くの?」
「最後まで見届けないと来た意味がないだろ」
そう言って行き止まりの方へ歩き出した。クロアは、一旦緩めた手に再び力を込めた。
トキオは、途中に横道がないか注意して歩いて行ったが、そんなものはなく、長い1本道だった。
クロアは終始無言だった。
結構な時間を歩いてたどりついてみると、正面の壁に鉄製の梯子がかかっていたのでトキオは強く引っ張ってみた。
かなり頑丈で登れそうだった。
「どうやら、上が出口みたいだな」
「そうなの?じゃあ、早く出ましょうよ」
クロアはそう言ってトキオから離れた。
「そうしよう。ついて来て」
トキオはそう言って、先に階段を上った。
クロアも、続いて登って来た。
4メールほど登ったところで、行き止まりになったが、上はしっかりした木製の扉のようになっていたので、トキオは右手で押してみた。
すると、少し上に動いた感じがあったが、重くて右手一本ではそれ以上持ち上がらなかったので、さらに上って肩を当て、体全体で押し上げた。
すると、トキオの背中側をヒンジにして持ち上がり、隙間から光が差し込んで来た。
「ああ、やっぱり出口みたいだな」
トキオは燭台の火を吹き消すと、右手で扉を全開にして外に出た。
出てみると、そこは敷地の北西の角にある円形の東屋の中で、中央にあるテーブルの下が出口になっていたようで、扉の上には円形のテーブルが乗った状態になっており、全開にした扉と一緒に横倒しになっていた。
東屋は周りを1メールほどの高さの生垣で囲まれていたので、椅子とテーブルは外から見えないようになっていたが、すぐ目の前は敷地の外周の柵だった。
そしてやや右に、外に出られる小さな扉があったが、頑丈な錠前で開かないようにされていた。
「へえ~、こんなところに出るんだな。緊急時に外部に脱出するための、本当の意味での抜け道ってことか」
「あら~、ホントねえ。面白いわねえ」
続いて出て来たクロアがそう言ったが、外に出たせいかすっかり元気になっていた。
「よし。抜け道は分かったから、さっきの部屋へ戻ろう」
「え?戻るの?」
「だって、あそこにあった本が気になるじゃないか」
「それはそうだけど、あんなにあったんじゃ二人で今日中に調べるのは無理じゃないの?」
「ああ・・・確かにそうだな。今日は時間も遅いしな」
西の空を見ると、すっかり夕焼けになっていた。
「じゃあ、屋敷に戻ろう」
トキオがそう言うと、クロアはホッとした顔になった。
トキオがテーブルを元の状態に戻すと、二人同時に屋敷の方に振り返ったが、驚いた顔になって動きが止まった。
「・・・遠い」
「なんでここはバカみたいに敷地が広いのよ!」
クロアは不機嫌な顔になっていたが、トキオが歩き出すと仕方なくその横に並んで歩き出した。
「ふー、やっと着いた」
「抜け道もかなりの距離だったから、すっかり疲れちゃったわよ」
玄関のドアを開けて中に入ると、足音を聞きつけたのか、セバスチャンがすぐに現れた。
「おや?ご主人様、いつの間に外に出られました?」
「実はね・・・」
トキオはそう言いながらセバスチャンのそばに行き、耳元で囁いた。
「地下に抜け道があって、そこから外に出たんだよ」
「そうなんですか!それは驚きです!」
セバスチャンは本当に驚いているようだった。
「案内するからちょっと来て」
「ありがとうございます」
そう言うと二人は奥へ向かって歩き出したが、その後ろからクロアが不機嫌そうに言った。
「えー?また行くの~?私、疲れちゃったわよ」
「ああ、クロアは来なくても大丈夫だよ」
トキオは振り返って言った。
「そう!?じゃあ、先にお風呂に入ってるわね」
クロアはそう言うと、元気に階段を駆けあがって行った。
(全然疲れてねーじゃねーか!)
トキオはそう思った。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
セバスチャンは、地下室の暖炉の奥に穴が開いているのを見て驚いたが、隠し部屋に行くともっと驚いた顔になった。
「これは、いったい・・・」
「ちょっと背表紙を見て、何かわかるようだったら教えてくれる?」
「わかりました」
セバスチャンは本棚のところに行くと、棚の手前を指で拭った。
「ふうむ・・・部屋が密閉されていたせいか、ホコリはあまり厚くなっていませんが、かなり頑固にこびりついているところを見ると、この書物は、数百年はここから取り出されていないと思われます」
「・・・やっぱりそうか」
トキオは予想が的中したと思った。
「そしてこの本ですが、どうやら、大部分は魔法や歴史に関する本のようです」
「ああ、ますます可能性が高くなって来たな」
「と、申しますと?」
「俺が貰った剣について、本来の力に関することが書かれてるんじゃないかと思ってね」
「そういうことでしたか・・・その可能性はありますね」
「だよね・・・でも、屋敷の人間だけで調べるのは大変だし、乱暴に扱って破損してもいけないから、明日、お城に行ったときに相談してみるよ」
「それがよろしいかと思います」
そう話すと、その日はそのままにして屋敷の1階へ戻った。




