第103話 王様の家族
「トキオ、話は聞いたぞ」
次の日の朝、柔道の訓練場に行くと、フラビアからそう話しかけられた。
「どの話?」
「お前が王から貰った剣は実は聖剣だったって話だよ」
「そうそう!俺もビックリしちゃってね・・・て、もう伝わってるのか。早いなあ」
「私は昨日の夕方、師団長から聞いたんだよ。お城の宝物庫の武器も調べるって言ってたな」
「そうなんだよね。どうだったのかなあ?」
「私も結果はまだ聞いてないな。しかし、聖剣かあ。そんなの見たことないから私も見てみたいな」
「俺のなら見せてもいいけど、さすがに王様から貰ったものだから、黙って屋敷から持ち出すのは気が引けるなあ。今度、うちに遊びに来れば?大きなお風呂もあるし」
「大きなお風呂?なんだそれ?」
「いや、ホントの意味での大浴場だよ。女性用は少し小さいけど、俺とクロアが入ってる男用の風呂ならすごく広いよ」
「え?お前、クロアと一緒に風呂に入ってるのか?」
「ば・・・そんなわけないでしょ!別々の時間に同じ風呂場を使ってるって意味だよ!」
「ああ、そうか」
フラビアはホッとした顔をした。
「え!?トキオさん、クロアと一緒に住んでるんですか!」
横にいた兵士のレッジが話に割り込んで来た。
「そうだけど、なんかヘンな想像してない?ただ、一緒の屋敷に住んでるだけだから。しかも、屋敷がやたらと広いから部屋はかなり遠いし。街の中なら4、5軒先の家ぐらいの距離だよ」
「あー、ビックリした。確かに、トキオさんのお屋敷、めちゃくちゃデカいですからねえ」
「あれ?知ってるの?」
「何言ってるんですか。あんなデカい屋敷なんだからみんな知ってますよ。前に住んでたオスヴァルト侯爵が、国王陛下の右腕と言われた有名人ですしね」
「え?そんなスゴい人が住んでたの?」
「知らなかったんですか?」
「前に貴族の住んでた屋敷としか聞いてなかったよ」
「そうなんですね」
「トキオは王都からかなり離れたところにいたんだから、王の関係者なんて知らないだろうよ・・・あの屋敷に前に住んでいたオスヴァルト侯爵は、この国で最も古い家系の人間で王家との付き合いも数百年に及んでいる。間違いなくこの国一の名家だな。あの屋敷も、百年以上前に建てられたものらしいぞ」
フラビアが言った。
「そんなにスゴい人のお屋敷だったんだ!しかも、百年以上前からあるとは!・・・俺、王様の側近とかに誰がいるかも、家族のことも何も知らないからなあ」
「さすがに、そりゃ知らなすぎだろ。これから会うこともあるだろうから、王の家族のことぐらいは知っといた方がいいぞ」
「確かにそうだねえ」
「じゃあ、昼飯の時に教えてやるよ」
「あ、助かる。お願い」
「じゃあ、今日は隣に座るぞ」
食堂のテーブルにつくと、フラビアがそう言ってトキオの隣に座った。
「は?どうしたの?」
「王の家族の話をするのに、あんまり大きな声で言えないことも入ってるからだよ」
フラビアが、トキオの耳元に顔を近づけて小声で言った。
「ああ・・・・なるほどね」
(王様の家族に問題のある人物が含まれてるってのは、異世界話じゃよくあることだからな)
トキオはそう思った。
「まず、女王陛下だが、この人はすごくいい人で、会ったら私らにも声をかけてくれる気さくな人だ」
「へえ、そうなんだ」
「ただ、ちょっと天然だ」
「ええっ?」
トキオは思わず笑ってしまった。
「元は王家の血筋の貴族のお嬢様なんだが、末っ子で子供の頃から相当甘やかされて育ったらしく、着替えるのも侍女にやらせて、自分では何もやらないぐらいだから、嫁いできたときには物を買うのにお金というものが必要なことも知らなかったらしい」
「うわ!出た!」
「あ?出たって何が?」
「あ、いや。そういう世間知らずのお嬢様って時々聞くけど、ホントにいるんだなあと思って」
「そうなんだよ。もう60歳を超えてるが、今でも時々理解不能な行動をとるらしいからな」
「あー、大体想像がつく」
トキオは、また笑った。
「次は子供のことなんだが、まず、先に次男のアロイス殿下だが、この人は勇猛果敢で頭も切れる、みんなから一目置かれている人物だ」
「ほほう」
「王と今まで戦場で戦って来た古株の将軍が言うには、若い頃の王もそんな感じだったそうで、王の再来と言ってる人も多い」
「へえ~」
「問題は、長男のアンドレス殿下だ」
ここで、フラビアはトキオに体を近づけてさらに小声になった。
「はいはい」
その様子に、トキオは変な期待感が沸いて来た。
「これがとんでないぼんくらでな。なまじ勇者と同い年なもんだから、実力もないのに勇者と張り合って最前線に出ようとするから、コイツを守るために何人もの兵士が命を落としてる」
「ええーー!?・・・そこまでヒドいの」
「ああ。8年前の他国との戦争の時が一番ひどかったが、1年前の魔人との戦闘の時も同じことをして全然成長してないのがみんなに知れ渡ってしまっている」
「うわー」
「しかも、かなり頭が悪くて、作戦を立てても理解できずに一人で予定外の行動をするから、今じゃ、コイツと戦闘に行くのをみんなイヤがってる」
「そんなんじゃそうだろうねえ」
「今後、お前もコイツと一緒に戦うことがあると思うから気を付けた方がいいぞ」
「うへ~。イヤだなあ」
「最後は、末っ子のセシル王女だ」
「お!お姫様もいるんだね」
「そうだ。この子は少し歳が離れていて、確か26歳なんだが・・・」
「え!俺と同い年じゃん」
「そうかなのか・・・すごくしっかりした子だ。たぶん、女王が反面教師になったんだろうな」
「ああ、なるほど」
「この子は、年の離れた次男のアロイス殿下に心酔しててな」
「アロイス殿下はいくつなの?」
「35歳だな」
「へえ、9歳も離れてるんだね」
「そうだ。そのせいか、子供の頃からアロイス殿下の真似をして剣や弓の訓練をしていたらしい」
「え?そういうしっかりさん?」
「魔人の討伐にも参加してるぞ」
「おおー!」
「女王はすごく心配していて、やめろと言ってるらしいんだが、本人が行くと言ってきかないらしい。どうも、アロイス殿下と同じ戦場で戦いたいみたいだな」
「なるほどねえ・・・見た目は?」
「・・・なんか、ヘンな期待してるか?」
「え?・・・いや、別にそんなわけじゃ」
トキオは図星を指されて少し焦った。
「ははは・・・見た目はなかなかの美人だが、性格がきついからやめといた方がいいぞ」
「そうなの?」
「なまじ自分の戦闘能力が高いから、戦場でミスをしたヤツをめちゃくちゃに罵倒したりするんだよ」
「うわー・・・」
「それと完璧主義者だな。人間、完璧に物事をこなせるなんてことはなかなかできないもんだが・・・あ、勇者は別だぞ・・・なんでも完璧にやろうとするから、周りにいる者が疲れてしょうがない」
「ああ、わかるなあ、それ」
「そういうことだから、まあ、あまり近寄らない方がいいな」
「そうかあ。じゃあ、遠くからお姿を拝見するにとどめておこう」
「それがいい」
そう言って、フラビアは笑った。
「魔導士長様、宝物庫を調べた結果はどうだったんですか?」
魔法訓練が始まる時、トキオは聞いた。
「昨日は、まずは宝物庫にどういった武器が収められているかを調べるということになった。この訓練が終わる頃には結果が出てると思うから、今日中には調べられるのではないかな」
「そうですか。わかりました」
トキオは、少し残念な気分になったが、これは待つしかないことだった。
魔法訓練も終わって帰りの馬車の中で、トキオはクロアに昨日から考えていたことを話してみた。
「今日、フラビアに聞いたんだけど、俺の屋敷の前の住人って、この国一の名家だったらしくて、あの屋敷も百年以上前からあるんだってさ」
「え!そうなの?」
「うん。だから、昨日から『もしや?』と考えてたことが確信に変わったんだよね」
「なにそれ」
「あのお屋敷って、絶対、隠し部屋とか抜け道があると思うんだよ」
「ええ?・・・ああ、でも百年以上前からあるなら可能性あるわね」
「だろ?だから、屋敷に着いたらちょっとそれを捜してみようと思うんだよ。クロアも付き合ってくれる?」
「いいわよ。面白そうじゃない!」
「絶対あると思うよ」
「・・・でも、探す場所のあてはあるの?あの広さだから、やみくもに探したら何日もかかっちゃうわよ」
「一つあるんだよね。まあ、着いたらそこに連れてくよ」
「そう?期待してるわ」
「セバスチャン、俺が貰った剣が収められてた地下室の鍵って持ってる?」
屋敷に着くとトキオは聞いた。
「少々お待ちください」
セバスチャンはそう言うと、玄関わきの小部屋に入ってすぐに出て来た。
「こちらでございます」
そう言ってトキオに鍵を二つ手渡した。
「ありがとう」
トキオはそう言うと、クロアを連れて地下室に向かった。
途中で、以前にミヒール司祭がそうしたように廊下にかかっている燭台の一つを手に取った。
「ここだよ」
「こんなところにこんな小さなドアがあったのね。どこに続いてるの?」
「この先が階段になってて、地下室に降りて行くようになってるんだよ」
「へえ」
トキオは鍵を開けると先に立って階段を降りて行った。
「この部屋だ」
そう言うと、二つ目の鍵でドアを開けクロアと中に入った。
それから、壁にかかっている照明用の蝋燭のいくつかに火をつけた。
「怪しいのはこれだよ」
そう言って、使われていない石造りの暖炉の前に立った。
「こんな地下に暖炉があるのが不自然だなあって思ってたんだよね。屋敷の中は全体的に暖かいから余計にね」
「なるほどね」
それから、少し身をかがめて暖炉の中に手を突っ込んだ。
「こういうのは、大体こういうところに・・・」
そう言いながら、暖炉の内側にある上の部分の石を右側から順に手前に押してみた。
すると、左から3分の1ぐらいの場所にあった石が「ゴクッ!」という音とともに、手前側に引っ込んだ。
「お!」
ゴゴゴゴゴ・・・
トキオが(やった!)と思った瞬間、暖炉の奥の壁が上に上がり、1メートル四方ほどの穴が現れた。
「あ!」
クロアも驚きの声を上げた。
「じゃあ、入ってみるぞ。いいか?」
「うん。ちょっとドキドキするけどね」
そうして二人は、トキオ、クロアの順で、身をかがめてその穴の中へ入って行った。




