第1話 殺人事件
子供の頃から夢中でアニメを観て育ってきた人間ですが、数年前から異世界もののアニメを観始めたらこれが大変に面白く、amazon primeで片っ端から見ると同時に、今年に入ってからはスマホのアプリでマンガも読み始めてしまいました。
そうなると、自分でも書きたくなるのが人の常(笑)
そんなわけで、二つほど考えみたものの、どうも今一つでそれらはお蔵入りにしたんですが、1カ月ほど前、仕事中に突然今回の作品がひらめきました。
そしたら、どんどん設定が沸いてくる沸いてくる(笑)
目の肥えたここの読者の方々のお眼鏡にかなうかはわかりませんが、基本的に明るいノリの作品となっていますので、ご笑覧いただければ幸いです。
なお、そのうちイラストも順次追加していく予定にはしていますが、まずは、ほぼ文章のみアップしますので、文章についての厳しい評価をいただけたらなと思います。
「よっしゃー!ラスボス撃破!このゲームもクリアだ!」
異世界関連のゲーム、漫画、アニメにどハマりしていて、異世界のことならあらゆる設定を知り尽くしているトキオは、今夜も異世界が舞台のオンライン・アクションゲームに夢中になっていた。
「よーし!来い来い来い来いーーー!」
トキオは、肘を両脇に付け緩く開いた両手を前に出して目を瞑り、祈るように力を込めた。
しかし、その姿勢を2分ほど続けたものの何も起こらなかった。
「・・・・・はあ~~~、今回もダメかぁ~!いつになったら俺を異世界に召喚してくれるんだよー!」
時計を見ると午前2時だった。
「あー、またこんな時間か~。明日も早いからそろそろ寝るかな」
トキオは、パソコンの電源を落とすとベッドに入った。
「あー!ゲームやアニメもいいけど、そろそろ本物の冒険者になってリアルで魔物討伐とかしたいぞー!それで、美人女性冒険者と恋仲になって・・・ぐふふ。・・・いつ異世界に召喚されてもいいように体を鍛えて格闘技の技も磨いたのに、なかなか異世界へ通じるゲームに巡り合えないなあ・・・もしかしたらゲームじゃダメなのか?確かに、本を読んでる時にとかってパターンもあったな。でも、死んで転生ってのはイヤだしなあ」
トキオは、仰向けになって天井を見つめながらつぶやいた。
小さい頃に初めてやった異世界RPGからすっかり異世界ものにありがちなファンタジー世界のとりこになっており、26歳になった今でも、いつか自分は異世界に召喚されるんだと信じて疑わなかったのだ。
次の日。東京都内の某警察署。
40歳代半ばと思われる強面と30歳前後のがっしりとした体格の二人の私服刑事がいる部屋の電話が鳴り、若い方の男が受話器を取った。
「はい、一課・・・・え!?はい・・・・・はい・・・・・わかりました!・・・・・主任、変死体が発見されて、どうやら殺しとのことです!」
慌てたような顔で受話器を置くと、となりの強面の男に向かって言った。。
「なに!?場所は?」
「千人町2丁目の古い洋館です」
「ああ、あれか。よし、行くぞ!」
「はい!」
そこで、主任と呼ばれた男は部屋の中をキョロキョロと見回した。
「おい関根、トキオはどうした?」
「・・・え?・・・さあ?」
「さては、あいつまた!」
主任刑事の河野が小走りで射撃練習場に行くと、トキオが大きなヘッドフォンをして射撃訓練をしていた。
「またここか」
河野は後ろからトキオに近づくと、ヘッドフォンを取って耳元で怒鳴った。
「おい!弾は無尽蔵にあるわけじゃないんだぞ!」
「うわっ!・・・あ、主任!」
「お前の射撃の腕は、都内じゃピカ一なんだから、それ以上練習しなくてもいいだろうが!」
「いえ、まだまだですから」
「ったく。・・・殺しで出動だ!」
「え!?・・・了解です!」
トキオは、そう答えると急いで射撃訓練用の機材を片付けて署の出口に向かった。河野は先に出口に向かっていた。
そう、トキオは刑事だった。
現場に到着し、運転席から降りて歩き出そうとしたトキオは、目的の建物である三階建ての洋館を見上げて、その異様なたたずまいに思わず足を止めた。
(この洋館、この辺じゃ有名だけど、敷地の中に入ったのは初めてだなあ。屋根や壁の一部がはがれているし、かなり古そうだ。それより、建物のかなりの部分を蔦が覆っているせいか、なんか不気味な感じがするなあ)
「ううん・・・なんですかね主任。ちょっと嫌な感じのする建物ですね」
「ああ、確かにな。なんか、見てるだけで背筋がちょっと薄ら寒くなるっていうか」
関根の問いかけに河野が答えた。どうやら彼らも同じことを感じたらしい。
「主任、俺、ホラーとか苦手なんですよね。お化けとか出たりしませんかね」
「くだらねえことを言ってるんじゃねえ。行くぞ!」
ビビり声の関根を叱責して、河野は建物の玄関に向かった。
河野が3段の階段を上り、手袋をした手で玄関のノブをひねって押すと「ギィィイイイ・・・・」と、ホラー映画で良く聞くような音がしたため、トキオと関根は一瞬足を止めたが、河野が意に介さずそのまま中に入ったのであわてて手袋をしながら後を追った。
入ってすぐのところに発見者と思われる制服警官が待っており、「こちらです」と言ってトキオたちを現場に案内した。昼間だったが照明が点いておらず、窓はあるものの少し広めの玄関とその先の廊下は薄暗かった。
「状況は?」
河野が制服の警官に聞いた。この制服警官はこの地域の交番に勤務する巡査だった。
「この界隈で最近空き巣が多発していまして、注意と見回りを兼ねてこの家に来て入り口で呼びかけたんですが、返事がなかったのでドアノブに手をかけたところ鍵が開いていたので一歩中に入りました。すると、強烈な血の臭いがしましたので、これは犯罪性があると考えて奥へ入り、この先の部屋で死体を発見したんです」
死体が発見された部屋は、書斎と思われる部屋の中にある木製の書棚が横にずらされて、その後ろの壁にあるドアを入った場所だった。
「まるで隠し部屋ですね、主任」
関根はそう言ったが、トキオは、
(まるでじゃなくて、隠し部屋そのものでしょ!)
と、心の中でツッこんでいた。
中に入ると、そこは板張りの床で、壁のほとんどが書棚で覆いつくされた書庫になっており、その書棚には、かなり古そうな分厚いハードカバーの本がたくさん収められていた。
書棚の一つに近寄り背表紙を読んだトキオは、驚いてその一つを手に取り、あわててページをめくった。
(やっぱりりそうだ!これって、悪魔召喚の方法が書かれた古文書だぞ!)
トキオは視線を書棚に戻したが、背表紙のタイトルを見る限り、他の本も同じ種類の本のようだった。
トキオは興奮して、手に持った本を机に置き、別の本を手に取ったが、その途端、
「トキオ!現場のものにむやみに触るんじゃねえ!何べん現場に来てんだ!それと、出したら元の場所にちゃんと戻せ!」
と、死体の傍らにしゃがんでいた河野に怒鳴られた。
「すみません!」
トキオは手に取った本をあわてて書棚に戻すと、机に置いた本も元の場所に戻した。
「おおっと!こいつはなんだ!」
その直後、背後で関根の声がした。
トキオと河野がそっちへ行くと、三人掛けのソファーの陰に熊と大差ないほど大きな焼け焦げた真っ黒い犬が倒れていた。どうやら、すでに絶命しているらしかった。
そして、その犬の右側の床の上には、ところどころに文字とも図形ともつかぬものが書き込まれている大きな三重の円が描かれていた。
(うおっ!これ魔法陣じゃん!被害者は、マジで召喚儀式でもやってたんじゃないの?)
トキオは驚くと同時に、ワクワクしてくるのを感じた。
死体は首の前側を激しく損傷していたので、どうやらこの犬に喉笛を噛み切られて死亡したようだった。
「この犬の焼けただれ方、何か硫酸のような劇薬をかけられたんですかね」
「被害者が小さな瓶を持ったまま倒れているから、その中身がそうかもしれんな」
トキオが被害者に目をやると、確かに右手には少しだけ中に液体の残った小さい丸底フラスコのような瓶が握られていた。
「その瓶を鑑識に回せ」
「はっ!・・・しかし、恐ろしくでかい犬ですね。こんな犬見たことない。狼ってこんな感じですかね?」
「ばか!とっくに日本に狼なんかいねえよ。しかも、ここは東京都心だぞ。・・・しかし、どっかの動物園から逃げ出してきた可能性はあるな。都内の動物園をあたってくれ。それと、この犬も鑑識に回せ」
「はい!」
主任が今度はトキオの方を向いてそう言ったので、トキオは返事をして手帳を取り出し、死体を見ながら言われたことを書き込もうとしたが、
(いやいや、狼にしちゃデカ過ぎるでしょ!絶対、ヘルハウンドかなんかの魔物だよこれ!被害者は、悪魔でも召喚しようとして間違ってこの魔物を召喚して襲われたんで間近いないな。被害者が手に持ってるのは聖水で、それで反撃してこの魔物を倒したんだよ絶対)とか考えていたら、手帳には、
「悪魔召喚の古文書と魔法陣
被害者は召喚した魔物に襲われて死亡
こと切れる前に聖水で魔物に反撃
魔物死亡」
と、書いてしまっていた。
「うわっ!」
犬の頭のところにしゃがんでいた関根が素っ頓狂な声を上げて後ろにのけぞった。
「どうした!」
「いや、確実に死んでるか確認しようと思って瞼を開いたら目が真っ赤だったもんで」
「目が真っ赤?どれ」
河野も頭の方に移動してしゃがみこんだ。トキオもそれを聞いてすごく気になったので後ろから覗き込んだ。
「ホントだな。目の赤い犬なんているんだ」
「俺は聞いたこともないですね」
「そうだよなあ」
(ほらー、目が赤いから間違いなくヘルハウンドだよー)
トキオは確信した。
そこで、三人は魔法陣の方へ移動した。
「この床に描いてある文字だか絵だかの入った円はなんですかね?」
「さあな」
「被害者はなにかへんな宗教にハマっていたらしくて、聞いたこともないお祈りのような言葉がしょっちゅう聞こえると近所の人が言ってたので、お祈りのためのものじゃないでしょうか」
関根の質問には、制服警官が答えた。
「ほう、なるほどなあ」
河野が言った。
(いやいや、お祈りじゃなくて召喚の呪文でしょ!もう、被害者は、黒魔術師か黒魔術に凝ってた人ってことで決定だね!)
そう考えて、トキオは一人で数回頷いた。
「なんだトキオ。何か気づいたことでもあるのか?」
その様子を見た河野が聞いて来たので、トキオはあわてて返答した。
「えーとですねえ・・・この獣ですが、こんなに大きな体なんで誰かに見られたら大騒ぎになると思うんですが、そんな通報はなかったんで、よく誰にも見られずにこの家までたどり着いたなあ、と。それと、被害者はどうして襲われたんですかね。しかも、他に大きな外傷はないから、いきなり喉笛に食いつかれたみたいですよ。これじゃまるで、獲物を襲う肉食動物と同じですよね」
「ふーむ・・・確かにそうだな。てことは、被害者がこのデカい犬を飼ってて、何かの理由で怒らせて襲われたって線も考えられるな」
河野はそう答えると難しい顔になった。
一通りの現場検証が終わって、全員一旦、署に引き上げた。
被害者を殺害したと思われる犬のような動物が死亡していて緊急性もないため、詳細な現場検証と聞き込みは明日行われることになった。
トキオは、この日の報告書をまとめてから帰宅した。
風呂から出て、夕飯の支度をしようと台所に行ったが、古文書のことを思い出したらもっと読みたくなってきた。
「いや~、あんな古文書初めて見たなあ。実際に魔物が召喚されてたことからして本物ってことだよなあ。読みたいなあ」
しばらく台所に立って悩んでいたが、
「だめだ!気になってしょうがない!明日の現場検証が終わったら証拠物件として持ち出されるかもしれないから、今日見に行かないと一生後悔するぞ!」
そう考えたら、いてもたってもいられなくなり、黒のスエットの上下に着替えて濃紺のスニーカーを履きマンションを出た。夜の8時を過ぎていた。
洋館に着くと、一般人が侵入しないように建物の外側にはテープが貼られていたが、入り口の鍵は開いたままだったのでテープをかいくぐってそのまま中に入った。
恰好からいって、見つかったら泥棒に間違われることは確実だったが、古文書のことしか頭になかったトキオは、そのことには思い至らなかった。
書庫に入ると入り口に近い棚から次々と古文書を読み始めた。
ヘルハウンドに殺されたここの住人は、やはり黒魔術に凝っていたらしく、多くの古文書にいくつもの書き込みがしてあり、悪魔を召喚するために色々やっていたようだった。
「すごいなあ。半分ぐらいは悪魔の召喚方法が書かれた本だし、残りも悪魔や魔物についての情報の本だ。よくこれだけ集めたもんだ。それと、7割ぐらいは日本語の本だな。日本にもこういう本を書いている人がたくさんいるってのは驚きだよ」
さらにトキオは次々と読み進んでいったが、そのうち、一番背の高い書棚の一番上の段に一冊だけポツンとひどくホコリをかぶって置かれている本があるのに気がついた。
「ん?なんであの本だけ離して置いてあるんだろう。しかも、長い間読まれてないみたいだな」
背を伸ばしてその本を手に取り、ホコリをはたいて表紙を見たが、見たこともない文字で書かれていた。
「中東の文字でもないし、アフリカのどこかの国か、どこかの離島で使われている文字なのかなあ。ふーん、『破滅から救う光とならんことを』か」
最初のページを開いて読もうとしたところで、あることに気づき、あわてて再び表紙を見た。
「あれ!?俺、この文字読めてるよ!見たこともない文字なのは間違いないのになぜだ?」
余計に気になったので中を再び開いて読んでみたが、中に書かれている文字もすらすらと読めた。また、丁寧に図解がされており、非常に内容が把握しやすいものだった。
数ページ読み進んで、トキオは、これが何の本であるか理解した。
異世界へ召喚される方法が書かれた本だった。
「おおおおお!なんってこったい!」
それがわかった瞬間、トキオの目は、嬉しさでキラキラと輝きだした。
「被害者は悪魔を召喚するための古文書を集めてたようだから、これは逆なんで放置してたんだな。それとも、文字が読めなかったのか?」
トキオは内容を理解しようと、最初のページに戻ってからじっくりと読んでいった。
そして、あるページで手を止めた。
「おお!このページのこの部分が召喚される呪文みたいだな!・・・でも、なんか暗号化されてるみたいだぞ。きっと、この暗号を解いたら異世界に召喚されるに違いないぞ!」
その手前に準備作業のようなことも書かれてあった。
「まず、魔法陣が必要なんだな。そうだ!ここの床に描かれてるのを描き変えれば手っ取り早いか!・・・こことここをこう直して・・・と」
床に描かれてあった魔法陣の修正が終わると、今までの人生の中で最高の集中力を発揮して暗号を解きはじめた。その前に書かれている文章がヒントになっているようだった。
それから文字と格闘すること2時間。
「わかった!この言葉がキーになってるから、文字をこう入れ替えて・・・・」
トキオは、本を抱えて魔法陣の中央まで移動した。
「・・・アイラ・ハレ・スメルタ!」
そう唱えた途端、体が光だした。
「うおおおーーーー!キターーーーーー!」
トキオは、光っている自分の体をキョロキョロと見下ろしながら喜びの声をあげたが、すぐに意識をなくした。
第180話の後書きに、それまでの登場人物の紹介を入れました。
ただ、一部ネタバレになっていますので、少なくとも155話まで読まれていない方は、それをご了承の上、ご覧ください(2021/7/4 14:10)
冒頭部分を少し変更しました(2024/8/13 1:56)