お付き合い編
「ところであんた、家はどの辺なんだ?第4中学の校区なんだろうが。」
「うむ。さして遠くはない。なあに、すぐそこさ。君は?」
「俺は第3中学の校区だから……あんたんちよりは向こうにあるんじゃねえかな。方向自体はそう変わらねえと思うが。」
「それは僥倖だ。流石に家が反対方向にあるのに送って言ってもらうのも気が引けるというものだしね。」
俺の肩より少し下辺りにある顔はにこにことご機嫌だ。俺の人差し指を必要以上にしっかりと掴んでいるあたり転けないように必死なのだろうが。途中犬が飛び出してきて過剰に驚いた相生が死ぬというトラブルがあったものの、それ以外にはたいした出来事もなく相生家の前にたどり着くことが出来た。……果たして死んでおいて「何も無かった」と言えるかどうかは分からないが……。ともかく、中々立派な家構えである。白い箱のような形をした外観で、洒脱な印象を受けた。
「どうもありがとう。君がいなければどれだけ死んでいたことか……いつもなら帰り道に7回くらい死んでしまうんだ……。」
「ななか……あんたの同窓生からは、一日平均4回って聞いたんだが。」
「うん?ああ、まあ学校ではね。流石に室内で座っているだけではそうそう死なないとも。まあ君、上がっていきたまえよ。お茶くらいはご馳走するから。紹介したい人もいる。」
断る間もなくすたすたと家に入っていく相生。いかめしい表札の真横にはひらがなで「あいおい なお みやこ」と貼っつけた可愛らしいコルクボードが引っ下がっており、ちょっと入るのを躊躇ってしまう。誰かと二人暮らしなのであろうか。というか、紹介したい人とは。嫌な予感がするが……。
築18年の手狭で雑多な六条家とはもう見た目から違うので、生活様式も欧米風だったらさてどうしようかとおっかなびっくりドアを潜ったが、入ってすぐはちゃんとした玄関になっていた。うちなんかでは脱いだ靴は脱ぎっぱなしだが、相生家ではそうでは無いらしい。靴はそこに入れておいてくれたまえ、と白い棚を指される。棚には先程まで相生が履いていたこぢんまりしたローファーと空色にピンクの靴紐を通したスニーカー、簡素な作りのサンダルと、それからやけに履き古された男性物のスニーカーが入っていた。男性物のスニーカーの横に俺の靴を置いて来客用であろう、青色のスリッパを拝借する。
案内されたのは、どうやらリビングだった。ソファに座らされ、ちょっと待っていてくれと相生がキッチンの方へ向かう。そわそわと落ち着きなく見回した室内は観葉植物なんかが嫌味なく配置されていてこれまたお洒落だ。すっかり感心しきっていると、バタン、とどこかの扉が開く音がした。ついでぺたぺたと裸足でフローリングを歩くような音が近づいてくる。リビングの、先程俺が通されたばかりの扉が開いて、そこには男が立っていた。
「都、おかえり……あ?」
「……お邪魔しています。」
男は一瞬驚いたような顔をした後、すぐに剣呑な目付きになった。……なんというか、どうも修羅場の予感である。