戦闘狂とめんどくさがり屋Ⅲ
何でか続けてしまう謎の作品。今回も適当で、蛇足のような話。
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「流石にいねぇだろ」
ヴェルディは何を思ったのか周囲を見回していた。ここ最近はミズキの顔をよく見るような気がする。
「なんだって、休みなのにあいつの顔を見なけりゃならねぇんだよ……」
ヴェルディは前回の砂漠の騎士王の討伐の報酬を使い、アクア帝国のマリネと呼ばれる都市に来ていた。
アクア帝国はバカンスには最適の国だ。北の豪雪国、ニクスとは違い、全く雪の降らない。そのためにか、永遠の不凍港、真夏の光が止まぬ国と言われている。
ヴェルディはきっとミズキはニクスに行くだろうと思い、何の依頼もなかったマリネに来たのだ。
というのもニクスの貴族から討伐の依頼が来ていたのだ。ただ、今回に関しては禁忌武具の存在はないに等しく、自分が出る必要はないと断じた。
「さーてと、飯だ飯!」
そう言って、自分が寝転がっていた砂浜に手を付いて立ち上がろうとするとヴェルディの目の前に黒いローブの男が現れた。
「うおっ」
そして、ヴェルディは立ち上がれずに先ほどと同じ姿勢に戻る。
「少しよいかな、最強」
その声は嗄れている。フードの合間から覗く白髪と長い髭が、老年の魔法使いであると見せる。
「いや、ジイさん。退いてくれるとありがたい」
「依頼だ……。どうかね?」
「いや、受けねぇよ」
「ふむ、焼きそばを奢るが?」
「何でだよ!」
ヴェルディは思わず叫んでしまった。どうしてミズキも今、目の前にいる老爺も人が食べ物で動くと思うのだろうか。
「そうか、しかし、この近くの海に魔王が現れたのだ」
「はあ?魔王?」
魔王などと言われたら、ヴェルディも流石に尋ねざるを得ない。
「レヴィアといえば分かるかね?」
「タンはどうした?」
「レヴィアたん?」
「何かイントネーションが違う気がするが、まあ良いわ。んで、その不死身の怪物を倒せ、と?」
幾ら何でも無理が過ぎる。レヴィアタンは伝承に語られる海の蛇。そして、魔王とも言われる。
ただ、レヴィアタンには最悪な力がある。それが不死身だ。だから、倒せるはずもないのだが。
「無理だ無理。オレは出来ねぇ仕事はしねぇの……」
「お主の力があれば殺せると思うがの」
「そんなにメンドウな力は持ってねぇ。どうせ禁忌武具でもねぇなら、ミズキっつうクソ侍にでも頼れよ。魔王程度なら何とかなるだろ」
「仮にも神に等しい力を振るえる怪物だ」
「オレはバカンスに来たんだ。休ませてくれ」
「……もう良い。では、そのミズキとやらの居場所を教えろ」
「知らん」
「はあ、それでどうしろと」
「多分ニクスにでもいるんじゃねぇか?」
ヴェルディがそう言うと高齢の魔法使いは大きなため息を吐いた。
「ニクスと言っても広大だろう。もう少し範囲を絞っておくれ」
ニクスは北の最大領土を誇る国だ。現在もその領土拡大を南に広げてきている。そして、ニクスは豪雪国ではあるが、それと反面的に太陽神である、ソル・サティスを主神とする宗教を信仰している。
そしてソル・サティスは戦争の神でもある。曰く、我が威光が差す全ての場所は我が領土なり、と。
ソル・サティス信仰はこの世界ではかなり広がっている。
と言うのも、ニクスが侵略し、植民化した国に国教としてその信仰を義務付けたからなのだが。
長々と語ったが、つまりはニクスは現在も領土拡大を続けており、そんなにも広大な場所からたった一人を見つけ出すのは不可能だ、と言う話だ。
「オレに言うなよ。メンドイな、おい」
ただ、面倒だと言って放っておくと、後々にとんでもないことになるのは分かっている。
「あんたが千里眼でも使えば良いだろうが」
ヴェルディが面倒臭そうにそう言うが、ローブの男は何も答えない。
「千里眼使えねぇのかよ?」
「誰でも使えると思うな!」
「お、おお、悪かった。……ま、しゃあねぇな、たった一回、千里眼使えば良いんだし。そういや、紹介料とかもらえんのか?」
「分かったわい。今回の報酬の二割でどうだ。そのミズキとやらが無事に達成できたら、だがな」
「大丈夫だろ。あいつはそれなりに強い。少なくとも、魔王バエルよりは、な」
ヴェルディは過去に戦った魔王の名前を挙げる。ただ、ヴェルディにとって魔王とは有象無象に過ぎず、それよりも禁忌武具を手にした人間の方が厄介だと言う認識が強い。
「だが、今回の魔王は格が違うのだ」
レヴィアタンはそのバエルよりは数段も格が上。ランクで言うのならB2ランクとA5ランク。それ程までにレヴィアタンは強い。
ヴェルディは魔王を過小評価している。今まで戦ったことのあるものが、全く強くなかったからだ。その癖に報酬は破格だったのでヴェルディはよく魔王討伐の依頼を受けていた。
別に魔王が弱いと言うわけではない。単純にヴェルディが強すぎたと言う話だ。
「いや、オレからしたら変わらんさ」
「それは旧き魔王サタンもか?」
「どうだか……」
取り敢えず、と千里眼を発動させる。そしてミズキを見つけて、その様子を見ていると、笑いながら何かと切り結んでいた。
それは異形。その異形は、見覚えのあるような、それでいて一度も見たことのない異形だ。
「うわ。魔王と戦ってるわ」
思わずヴェルディはそう漏らした。ただ、千里眼で見ていても分かる。圧倒的にミズキが優勢だ。だとしても、現在、ミズキの戦っている相手は切られた所から修復していく。
「これは、無理そうだな……」
ミズキを頼れとは言ったものの、ミズキも現在奮闘中のために呼び出すのは不可能なようだ。
ただ、ヴェルディの知り合いで魔王を倒せそうなものはいなかった。
「勇者の資質ある奴なら楽だろうに」
思わずそう溢した。
勇者の資質を持つものは魔王に対する特攻を持つ。ヴェルディはそれを持たないし、ミズキも持っていないのだろう。
勇者の資質は世界に四人。死んで仕舞えば次の人間に移動する。ただ、見分ける方法は狂言を信じると言うことになる。
何でも勇者は天啓を聞くようだ。
「で、どうする?」
少しだけ嬉しそうな顔で魔法使いが尋ねると、嫌そうな顔をしながらもヴェルディは了承する。
「別に金に困ってるってことはねえし、休みたかったんだが、仕方ねぇ……。しっかり報酬は貰うからな?」
そう確認すると、魔法使いは口元を歪めて、勿論だ、と答えた。
「んじゃ、メンドイからテキトーにやりますかね……」
ヴェルディは海の上を高速で駆け出す。先ほどの千里眼で、魔王レヴィアタンの位置は特定した。
それと、前回のアーサーとの戦いで硬いと切ることができなかったと言う面倒臭さから新たに、ごり押しの技を生み出した。
「発見。そんじゃ、その首貰うぞ」
エンチャント、エンチャント、エンチャント。多重に強化をかけていく。
海の上を音を置き去りにして、駆け、飛躍する。高さは巨大な海蛇の目の高さ。
『調子に乗るなあ!人間風情が!』
海蛇は吠えながらも水弾を飛ばす。それを空中浮遊の魔法を使い、全て避け、その首に刃を当てる。
『たかだか、貴様の刃で儂は死なぬ!』
不死身ゆえの慢心か。
ジワリとヴェルディの刃が魔王レヴィアタンの首に食い込む。
その瞬間にレヴィアタンは焦った。
知らないはずの感覚を持った。
死ぬーー。
そう感じたのだ。レヴィアタンはヴェルディをはたき落とそうとしたが全てが遅い。
シュンーー。
断ち切れる音だった。レヴィアタンは自分の背後に通り過ぎた男を睨む。
『あ、が。貴様、何、者だ……』
ぐらりと巨大な首が揺れて、海に落下する。そしてその衝撃が水しぶきを上げて、波を発生させる。
「やっぱり、弱ぇな」
抜身の剣を仕舞う。
別に弱ければそれで良いのだが、こんな中途半端なところに移動するのが嫌だったのだ。
ヴェルディは気がついていないが、彼は全ての意思あるものを殺す力がある。それがたとえ不死身であってもだ。
それ故に彼は最強であり、そして魔王の討伐を簡単だなどと吐かす。
ただ、禁忌武具に意思は無いためにそちらの方が手間取るのだ。
「さて、あちらは終わってるかね」
ヴェルディは気紛れにミズキの戦闘の様子を見る。倒れ伏す魔王の上にミズキは立っていた。
どうにもミズキの戦った魔王には超高速再生は備わっていても、流石に不死身ではなかったようだ。
「ま、流石と言っておこうか」
ヴェルディはやはりミズキは強いと褒め称える。ただーー。
「……やっぱりいけすかねぇな。クソ侍」
魔王の骸の上で口を三日月のように歪めるその剣鬼を見て、彼はそう呟いた。
読んでくださり有り難うございます。気が向けば、と言うよりは息抜きみたいに書くと思います。短編なのは続けようと言う気があまり無いからです。