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な、なんだよ、こいつ! 戸村くんの怒りのボルテージは一気にレッドゾーンに突入しました。戸村くんは千可ちゃんのほおを思いっきりひっぱだきました。
「いい加減にしろ!」
千可ちゃんの身体は吹き飛び、床に転がりました。千可ちゃんは上半身起こし、ひっぱだかれたほほを掌で押さえ、戸村くんをにらみました。
「な、何すんのよっ! あなたも呪い殺されたいの?」
「ああ、呪い殺すんなら呪い殺せよ! オレは1回あんたに呪い殺されてるからな、もう何をされても怖くねーよ!
ほんとうに森口を愛してなかったのかよ。ウソだろ? こんなことして、おまえの死んだお母さんが喜ぶのかよ?」
その発言に千可ちゃんが反応しました。
「お、お母さん・・・」
千可ちゃんはお母さんが死んだ日の朝の、お母さんの発言を思い出しました。
「好きな男の子ができたら、その人を一生大事にするのよ」
「ああ・・・
私、殺しちゃった。和ちゃんを呪い殺しちゃった!」
千可ちゃんはわーっと泣き出してしまいました。戸村くんは千可ちゃんの両肩を掴み、全身を揺らしました。
「おい、しっかりしろ!」
「わ、私、どうすればいいの?・・・」
「森口の幽霊をみつけて、身体に戻すんだよ。あんた、オレを殺して9時間後にオレを蘇生させたろ。あれとおんなじことすればいいんだよ!」
「で、でも、和ちゃんの霊、もうここにいないよ・・・ もうあの世に行っちゃったみたい・・・」
戸村くんは間髪入れず言葉を続けました。
「じゃ、時間だ!」
「えっ?」
「時間を巻き戻すんだよ!」
「そ、そんなこと、できるわけないじゃん!」
「いや、できる! あんたならできる! あんた、千の可能性のある女だろ?」
「千の可能性のある女・・・」
そう言うと千可ちゃんは黙ってしまいました。でも、何かを決意したようです。
「わかった。やってみる」
千可ちゃんは目をつぶりました。そしてぐちゅぐちゅと何かを唱え始めました。すると、なんと教室のアナログ時計が停止しました。さらに次の瞬間、時計がものすごい勢いで逆回転を始めたのです。
この世のすべての現象も高速で逆回転を始めました。殺したはずの森口くんは殺される前に。長谷川も殺される前に。その他3人の長谷川の手下も殺される前に。千可ちゃんに紙片を手渡した女の子もそれ以前に。太陽は登り、太陽は沈み、今は昨日の放課後。ここは校舎の屋上です。
千可ちゃんがギターを弾いてます。それを森口くんとよう子ちゃんが聴いてます。ボロロ~ン 今千可ちゃんが愛のロマンスの最後の1音を弾き終わりました。それを聴いてよう子ちゃんは歓喜の声をあげました。
「す、すごい! すごいですよ! 1本のギターで弾いたとは思えないくらいのテクニックですよ!」
千可ちゃんはちょっと赤くなり、
「そ、そう? これもガットギターの練習曲の1つなんだけど・・・」
よう子ちゃんはふと森口くんを見ました。
「先輩てあの人といつも一緒にいますねぇ。仲がいいんですか?」
「ま、そんなところね」
「もうエッチしてるんですかぁ?」
それはあまりにもストレートな質問でした。千可ちゃんの顔はあっという間に真っ赤になってしまいました。
「な、なんでそんなこと訊くのよ!」
森口くんの顔も真っ赤になってます。よう子ちゃんはこの2人の反応を見て、
「あ~ この反応、もうやってますねぇ」
ここまでは昨日とまったく同じです。でも、ここからが違ってました。
「やってるわけないじゃん! 私たち、まだ16歳よ。何考えてんのよ?」
千可ちゃんは前回とは違う返答をしたのです。でも、よう子ちゃんは懐疑的な反応を示しました。
「あは、そうすかぁ?・・・」
と、千可ちゃんはふと何かを思い出しました。
「あ、あれ?」
「どうしたの、千可ちゃん?」
「私、和ちゃんを呪い殺しちゃった・・・」
「ええ~ 何言ってんの? ぼく、ここにいるじゃん」
「おかしいなあ・・・ 悪い夢でも見たかなあ?・・・」
千可ちゃんは未来の記憶をほとんど忘れてしまったようです。でも、深層心理でははっきりと覚えてます。それが証拠に、千可ちゃんは前回とは180度違う返答をしました。これで未来は変わりました。この経験が千可ちゃんを大きくしてくれたはずです。
これで千可ちゃんは終了です。本当は私のオツムの中ではこの話は続いてます。千可ちゃんはこのあと森口くんの子どもを4人も産みます。けど、千可ちゃんと森口くんのセックスシーンばかりなので、ここらへんでやめておくことにします。
最後まで読んでくれた人、ありがとう。




