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5-9

 な、なんだよ、こいつ! 戸村くんの怒りのボルテージは一気にレッドゾーンに突入しました。戸村くんは千可ちゃんのほおを思いっきりひっぱだきました。

「いい加減にしろ!」

 千可ちゃんの身体は吹き飛び、床に転がりました。千可ちゃんは上半身起こし、ひっぱだかれたほほを掌で押さえ、戸村くんをにらみました。

「な、何すんのよっ! あなたも呪い殺されたいの?」

「ああ、呪い殺すんなら呪い殺せよ! オレは1回あんたに呪い殺されてるからな、もう何をされても怖くねーよ!

 ほんとうに森口を愛してなかったのかよ。ウソだろ? こんなことして、おまえの死んだお母さんが喜ぶのかよ?」

 その発言に千可ちゃんが反応しました。

「お、お母さん・・・」

 千可ちゃんはお母さんが死んだ日の朝の、お母さんの発言を思い出しました。

「好きな男の子ができたら、その人を一生大事にするのよ」

「ああ・・・

 私、殺しちゃった。和ちゃんを呪い殺しちゃった!」

 千可ちゃんはわーっと泣き出してしまいました。戸村くんは千可ちゃんの両肩を掴み、全身を揺らしました。

「おい、しっかりしろ!」

「わ、私、どうすればいいの?・・・」

「森口の幽霊をみつけて、身体に戻すんだよ。あんた、オレを殺して9時間後にオレを蘇生させたろ。あれとおんなじことすればいいんだよ!」

「で、でも、和ちゃんの霊、もうここにいないよ・・・ もうあの世に行っちゃったみたい・・・」

 戸村くんは間髪入れず言葉を続けました。

「じゃ、時間だ!」

「えっ?」

「時間を巻き戻すんだよ!」

「そ、そんなこと、できるわけないじゃん!」

「いや、できる! あんたならできる! あんた、千の可能性のある女だろ?」

「千の可能性のある女・・・」

 そう言うと千可ちゃんは黙ってしまいました。でも、何かを決意したようです。

「わかった。やってみる」

 千可ちゃんは目をつぶりました。そしてぐちゅぐちゅと何かを唱え始めました。すると、なんと教室のアナログ時計が停止しました。さらに次の瞬間、時計がものすごい勢いで逆回転を始めたのです。

 この世のすべての現象も高速で逆回転を始めました。殺したはずの森口くんは殺される前に。長谷川も殺される前に。その他3人の長谷川の手下も殺される前に。千可ちゃんに紙片を手渡した女の子もそれ以前に。太陽は登り、太陽は沈み、今は昨日の放課後。ここは校舎の屋上です。


 千可ちゃんがギターを弾いてます。それを森口くんとよう子ちゃんが聴いてます。ボロロ~ン 今千可ちゃんが愛のロマンスの最後の1音を弾き終わりました。それを聴いてよう子ちゃんは歓喜の声をあげました。

「す、すごい! すごいですよ! 1本のギターで弾いたとは思えないくらいのテクニックですよ!」

 千可ちゃんはちょっと赤くなり、

「そ、そう? これもガットギターの練習曲の1つなんだけど・・・」

 よう子ちゃんはふと森口くんを見ました。

「先輩てあの人といつも一緒にいますねぇ。仲がいいんですか?」

「ま、そんなところね」

「もうエッチしてるんですかぁ?」

 それはあまりにもストレートな質問でした。千可ちゃんの顔はあっという間に真っ赤になってしまいました。

「な、なんでそんなこと訊くのよ!」

 森口くんの顔も真っ赤になってます。よう子ちゃんはこの2人の反応を見て、

「あ~ この反応、もうやってますねぇ」

 ここまでは昨日とまったく同じです。でも、ここからが違ってました。

「やってるわけないじゃん! 私たち、まだ16歳よ。何考えてんのよ?」

 千可ちゃんは前回とは違う返答をしたのです。でも、よう子ちゃんは懐疑的な反応を示しました。

「あは、そうすかぁ?・・・」

 と、千可ちゃんはふと何かを思い出しました。

「あ、あれ?」

「どうしたの、千可ちゃん?」

「私、和ちゃんを呪い殺しちゃった・・・」

「ええ~ 何言ってんの? ぼく、ここにいるじゃん」

「おかしいなあ・・・ 悪い夢でも見たかなあ?・・・」

 千可ちゃんは未来の記憶をほとんど忘れてしまったようです。でも、深層心理でははっきりと覚えてます。それが証拠に、千可ちゃんは前回とは180度違う返答をしました。これで未来は変わりました。この経験が千可ちゃんを大きくしてくれたはずです。

これで千可ちゃんは終了です。本当は私のオツムの中ではこの話は続いてます。千可ちゃんはこのあと森口くんの子どもを4人も産みます。けど、千可ちゃんと森口くんのセックスシーンばかりなので、ここらへんでやめておくことにします。

最後まで読んでくれた人、ありがとう。

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