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 でも、このシーンには大きな問題がありました。チカちゃんは千可ちゃんの霊体、別の言い方をすれば生霊、幽霊です。本来霊感がなければ見ることはできません。けど、今のチカちゃんはなぜか半透明でした。遠巻きに見守っていたクラスメイトたち全員の眼に映ってしまったのです。ケケケケという声まで聞こえてました。

 数人の生徒がざわつきました。

「な、何、今の?」

「今の羽月さん・・・ だよね?・・・」

「で、でも、羽月さんはあっちにいるよ?」

「じゃ、今のはいったい?」

 森口くんが千可ちゃんに駆け寄りました。

「千可ちゃん!

 千可ちゃん、今のはいったい?」

「あれは私の霊体・・・」

「えっ?・・・」

 千可ちゃんはパニックになってるのか、まともに応えることができません。

「気にしないで・・・」

「気にしちゃうよ! 霊体っていったいなんなんだよ?」

「霊体と言ったら霊体よ! 霊体は私の身体の一部よ!」

「どういう意味だよ?」

「和ちゃんもオカルト研究部の一員でしょ? それくらいわかってよ!」

「わかんないよ。もっとわかりやすく言ってよ!」

 千可ちゃんは森口くんの度重なる質問にイライラしてきました。そしてついに、あらぬ固有名詞を口走ってしまいました。

「もう! 私は山上静可の孫よ。生きた怨霊なの! その気になればこの世界にいる人全員呪い殺すことができんのよ!」

「ええっ?・・・」

 森口くんは驚きました。毎日ベッドで愛し合ってる女の子が、怨霊山上静可の孫だったなんて・・・ しかも、この世のすべての人を呪い殺すことができると宣言しました。これは誰が聞いてもパニックに陥るはず。森口くんもパニックになってしまいました。

「うわーっ!」

 森口くんはザリガニのように急激に後ずさりしました。千可ちゃんはそれを見て唖然としました。

「ど、どうしたの、和ちゃん?」

「来るな、バケモノ!」

 千可ちゃんに衝撃が走りました。毎晩ベッドで愛し合ってた男が、自分をバケモノとののしったのです。大きく落胆しました。そしてカーっ!となって、

「なんだよ! この裏切り者! 死ねーっ!」

 と、思いっきり叫びました。すると今度は、森口くんの身体に衝撃が走りました。

「うぐぁーっ!」

 森口くんの身体が信じられないくらい大きくのけ反りました。

「や、やめろーっ! やめれ・・・」

 森口くんは倒れました。その眼には生気がありません。口から泡を吹いてます。全身ありえないくらいピクピク痙攣しています。今度は千可ちゃんと森口くんの会話を見ていたクラスメイトたちが、パニックになりました。

「うわーっ!」

「バケモノだ! 逃げろーっ!」

 一度教室に戻ってきた生徒たちが、再び逃げ出しました。今教室に残ってる人物は、千可ちゃんと気を失ってる先生だけ。あとは死体です。

 と、今ここに戸村くんが現れました。戸村くんは一変してしまった教室を見回して、

「な、何があったんだよ、いったい?」

 と、森口くんの真新しい死体を発見してしまいました。

「ええ、森口?・・・ お、おい、死んじまってるのか?」

「うん」

 千可ちゃんはぽつりと返事しました。戸村くんはその千可ちゃんを見て、

「な、何があった?・・・」

「私が呪い殺した」

「ええ?・・・」

「こいつ、私をバケモノってののしったのよ! 死んで当然よ!」

「それだけで殺しちまったのかよ? 毎日愛し合ってたんだろ?」

「いいのよ。こんなやつ・・・ 男ならだれでもいいの。私が欲しいのは男の身体だから・・・」

 千可ちゃんは艶っぽい眼で戸村くんを見ました。今度は戸村くんをセックスフレンドにする気です。

「ねぇ、戸村くん・・・」

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