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4-14

 何かいかがわしい雰囲気がある部屋です。中央にはダブルベッドがあります。そこに千可ちゃんが寝かされていて、その傍らにお母さんがいます。千可ちゃんは意識不明のままです。お母さんは両の掌を千可ちゃんの胸にかざしてます。その掌からは淡い光が発生してます。治癒の光のようです。

 お母さんは何か囁いてます。

「神様、お願い、この子を助けてください。必要なら私の命を捧げます。どうか、どうか、この子を・・・」

 それは祈りの声でした。するとその発言に反応したのか、千可ちゃんの左目のあたりがピクンと動きました。

「うう・・・」

 それを見たお母さんの顔がぱっと明るくなりました。

「千可・・・」

 千可ちゃんは目を覚ましました。そしてお母さんを見ました。

「お、お母さん・・・」

「よ、よかった・・・」

 お母さんは思わず千可ちゃんを抱きしめました。

「ありがとう、神様!・・・」

「あはは、お母さん、苦しいよ・・・」

 お母さんは無宗教なはずなのに、今日だけは神に祈ってました。

 千可ちゃんはあたりを見回しました。

「ここは?」

「ラブホテル」

「え?」

「郊外のラブホテルは専用の駐車場から直接部屋に入れるから、こういう時は便利なのよ」

 さすが中学卒業のときから10年以上も援助交際だけで生きてきたお母さんです。千可ちゃんもちょっと苦笑いしてます。

「あはは・・・

 お母さんはなんでここまで来てくれたの? なんにも連絡しなかったのに・・・」

「なんかものすごく嫌な予感がしてね」

「虫の知らせ?」

「うん、まあ、そんなようなものね。あともう3分早く着いていたら・・・」

「ううん、そんなことないよ。あのときお母さんが来てくれて、とっても感謝してるよ」

 ここで千可ちゃんは、消え消えの意識の中で聞いたお母さんと山上静可の会話を思い出しました。

「ねぇ、お母さん、山上静可は私のおばあちゃんなの? お母さんの旧姓は山上じゃなかったよね?」

「私はね、私のお母さん・・・ 山上静可が自殺したあと、お父さんの妹夫婦に預けられることになったの。そのとき養子になったから、その人の苗字をもらったのよ。それ以前は山上美可だったの」

「あはは、知らなかった。教えてくれないんだもん」

「ごめんなさい。私にも触れたくない過去はあるのよ」

 お母さんはちょっと視線をはずしました。

「やっぱり教えないといけないのかなぁ。私の過去を・・・」

 お母さんは再び千可ちゃんの眼を見て、話し始めました。

「あなたのおばあさん、山上静可は超能力者として地元では有名だったのよ。おばあさんの評判を聞きつけたテレビ局の人が何回も何回も出演依頼しに来たんだけど、ずーっと断っていた。でも、おばあさんの友人のだんなさんがテレビ局に勤めていて、その人の依頼だけは断り切れず、ついにテレビに出演することになったの。

 けど、舞い上がってしまったおばあさんは、テレビカメラの前で何もできなかった。悪いことにそれは生放送だった。翌日私は学校で笑い者だよ。特にひどかったのが、野中雄一てやつ。私はブチ切れてそいつに殴りかかったんだけど、あいつの取り巻きに集団で殴られて、蹴られて、最後は野中雄一に思いっきり飛ばされた。プロレスラー気分になってドロップキックを喰らわしてきたんだ。それを喰らって私の首の骨が外れた。病院の先生は2度と歩けないだろうと言ってた・・・

 おばあさんは学校に抗議に行ったんだけど、学校は私が悪い、おばあさんが悪いの一点張りだった。野中雄一のおじいさんは市長だったから、学校は保身に走ったんだよ。

 ラチが開かないと思ったおばあさんは、今度は野中家に抗議に行った。でも、学校から連絡があったらしく、あいつの家は裏社会の人たちが集まってガードしてたんだ。おばあさんはそれでもあいつの家に入ろうとしたんだけど、やつらに阻まれ、言い争いになって、最後は袋叩きになった。話だと、おばあさんは身体中血だらけになった挙句、やつらに集団で小便をかけられたんだってさ。さすがのおばあさんも絶望的になって、そのままトラックに身を投げてしまったんだよ。

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