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2台のタクシーが片側2車線の道路を快適に走ってます。あたりはふつーの住宅街です。前を走るタクシーの車中では、浜崎さんは厳しい眼でずーっと前を見ています。浜崎さんはふいに口を開きました。
「あの~ 運転手さん。山上静可て女性、知ってますか?」
「山上静可ですか? さあ、初耳ですねぇ・・・」
「ほんと?」
「ほんとですよ」
けど、浜崎さんは直感的にその発言がウソだと感じました。この運転士は山上静可を知ってる。でも、なんらかの理由で話すことができない。その理由はやっぱ呪い? 万一山上静可のことを口にすると、自分の身に火の粉が降りかかる?・・・
タクシーが左に曲がりました。そこからは緩い上り坂。両側はやはりふつーの住宅街です。
しばらくすると鈍い銀色の壁が見えてきました。その壁の前でタクシーは停まりました。運転士の発言です。
「はい、ここですよ」
その銀色の壁を見て、車内の浜崎さん、福永さん、城島さんは呆気にとられました。銀色の壁が道路を完全にふさいでいるのです。
「な、何、これ?」
3人はタクシーを降りました。その後ろではもう1台のタクシーが停車し、千可ちゃんたち3人も降りてます。
浜崎さんが乗ってきたタクシーの運転士が窓を開け、浜崎さんに話しかけました。
「一つ忠告しておきます。早く帰った方がいいですよ」
タクシーがUターンを始めました。もう1台のタクシーもUターンしてます。そして2台のタクシーは逃げるようにこの場を立ち去りました。
浜崎さんは銀色の壁の前に立ちました。それは工事現場を囲ってる仮囲いでした。
「なんなの、これ? まるで工事現場みたい・・・」
城島さんも仮囲いを見ました。
「出入り口もありませんねぇ。これじゃ、中で工事できませんよ」
浜崎さんは左手側を見ました。仮囲いはずーっと並んでいて、終わりが見えません。次に右手側を見ました。やはり仮囲いはずーっと続いていて、終点は見えません。浜崎さんはただただ唖然とするばかりです。
「な、何、これ? いったいどこまで続いてるの?」
浜崎さんは昨日ネットで見た空白域を思い出しました。
「このフェンスの向こうが、昨日地図で見た空白域? このフェンスが空白域をずーっと取り囲んでいるというの?」
そう言い終えると、浜崎さんはちょっと考え込みました。と、ふと目の前にある空き地に眼をやりました。その空き地の真ん中には「売地」という看板がありました。けど、古いのか、かなり朽ち果ててます。
「この土地はかなり前に売りに出されたけど、いまだに買い手がついてない?・・・」
福永さんはその隣りの家の門を見ました。
「こっちの家の門は、表札が取り外されているわね。この家は空き家ね」
森口くんが別の家の前に立ちました。この家のカーポートは屋根が朽ち落ちています。
「この家もかなり前から人が住んでないようです」
千可ちゃんが路上に設置してある庇を見上げました。
「ここは昔バス停だったんじゃ?」
浜崎さんはあたりを見ました。
「もしかしてここは、ゴーストタウンなの?」
城島さんが思ったことをそのまま口にしました。
「う~ん、こういうことかなあ?・・・
皆川西部小学校は丸ごと呪われた。その呪いは強烈で、近隣の住宅にも伝播した。人々はその伝播が怖くって、一定のところでフェンスを作って囲った。けど、呪いは容赦なくフェンスを突き抜けてきた。そのせいでここら一帯がゴーストタウンと化した・・・」
福永さんが浜崎さんに質問しました。
「やっぱ山上静可の呪いですかねぇ?」
「う~ん・・・」
浜崎さんは黙ってしまいました。
戸村くんが千可ちゃんの眼を見ました。テレパシーを送るようです。
「何か感じますか?」
「ううん、悪霊は今ここにはいないよ。でも、昔はいたみたい」
「やっぱ山上静可?」
「わかんない。でも、何か恐ろしい悪霊がいたってことは確かなようね」
さらに戸村くんは、その悪霊に勝てる自信はありますか? と質問しようと思いましたが、それはやめときました。千可ちゃんより恐ろしい悪霊がこの世にいるはずがないと思ってるからです。




