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さて、幽体の千可ちゃんはこのまま自分の肉体に戻ったかと言えば、実は別のところに飛んでました。みみずく神社の絵馬掛け。そうです。あの呪いの絵馬です。千可ちゃんはほんの一瞬ですが、あの絵馬に精神を乗っ取られ、戸村を呪い殺しました。そのことが気になっていたようです。
千可ちゃんはたくさん並んだ絵馬からいとも簡単に呪いの絵馬を発見しました。その絵馬を右手で持つと、その手を水平に伸ばしました。次の瞬間、絵馬はぱっと発火しました。千可ちゃんはその燃えている絵馬を地面に落としました。
「あとはこれを書いた人か・・・」
それから数日後、病室のドアがノックされました。この病室の患者は森口くんです。森口くんはベッドのリクライニング機能を使って上半身を起こし、読書をしてました。森口くんはノックに返事しました。
「はーい!」
ドアが開き、千可ちゃんが入ってきました。
「森口くん、お見舞いに来ちゃった」
「は、羽月さん?」
千可ちゃんは普段着で、手には花束がありました。左ほほの腫れはかなり引いてますが、それでもまだ腫れぼったい感じがあります。
「入ってもいいかな?」
「も、もちろん」
森口くんは顔を赤らめてます。
千可ちゃんは花束をテーブルの上に置くと、ベッドの脇にあった椅子に座りました。
「どんな感じなの?」
「まだ胸の骨折がよくなくって・・・ 退院はもうちょっと先なんだって」
「へ~ 私は2日で退院したけどなあ・・・ 骨折すると大変なんだ。
ねぇ、森口くんは戸村が憎い?」
「も、もちろん憎いよ!」
「殺したいほど憎い?」
「う~ん、殺すまではなあ・・・ でも、ぼくに直接謝んなきゃ、絶対許さないよ!」
千可ちゃんはそれを聞いて微笑みを浮かべました。
「あは、そっか」
千可ちゃんはドアを見ました。
「戸村くーん!」
するとドアが開きました。そこから人影が。その人影は戸村でした。森口くんは戸村を見て思わず緊張しちゃいました。
「え、ええ・・・」
戸村は森口くんの側にきました。けど、もじもじして後頭部を右手で掻いてるだけです。千可ちゃんがその戸村を促しました。
「戸村くん、約束は?」
「は、はい・・・」
戸村は森口くんをばしっと見ました。そして背筋をピーンと伸ばし、90度おじぎしました。
「ご、ごめんなさい!」
それはとても大きな声でした。森口くんはその謝罪をぽかーんと見てました。が、戸村がずーっと頭を下げてるもんで、あるところで突然慌てました。
「わ、わかった。もういいよ。いいって!」
戸村はようやく顔を上げました。その顔は晴れ晴れとしてました。ここで千可ちゃんが微笑みながら発言しました。
「はい、これで仲直り、仲直り。もう恨みっこなしだよ」




