2-8
「ふんぎゃーっ!」
霊体の千可ちゃんは幽体の千可ちゃんに刀を振り上げ、襲いかかってきました。けど、幽体の千可ちゃんは余裕がありそうです。
「遅い!」
刀で斬られる寸前、幽体の千可ちゃんはすーっと左手側に避けました。そして霊体の千可ちゃんの顔面にストレートパンチ。それを見て戸村はびっくり。
「す、すげ~・・・」
千可ちゃんの霊体は大きく弾き飛ばされ、壁に激突。すると幽体の千可ちゃんは瞬間移動し、霊体の千可ちゃんの胸元を思いっきり掴み上げました。
「あなたは私! 私なら私に従って!」
次の瞬間、霊体の千可ちゃんの身体は微粒子のようになり、霧散してしまいました。幽体の千可ちゃんの勝利です。
千可ちゃんは戸村を見ました。戸村は壁から生えた2本の腕でまだ壁に縛り付けられたままです。
「お、おい、これ取ってくれよ!」
「あなた、私に何か言うことあるでしょ?」
「えっ?」
千可ちゃんは自分の左ほほのガーゼを指さしました。
「これ、だれがやったの?」
戸村は小声で謝りました。
「あ・・・ ご、ごめん」
「あ~ 聞こえない」
戸村は今度は大きな声で謝りました。
「ご、ごめんなさい!」
千可ちゃんはニヤッと笑いました。しかし、まだ許さないようです。
「ねぇ、私って、ブス?」
「ブ、ブスじゃないです」
「ほんと?」
「美人です! かわいいです! とってもかわいいです!」
千可ちゃんは下向きになってクスクスと笑いました。そして右手の人差指と親指をパッチンと鳴らしました。すると戸村を縛りつけていた手が消滅。戸村の身体はフロアにごろんと転がりました。
「うわっ!」
千可ちゃんはしゃがんでその戸村を見ました。
「今度は私が謝る番ね。ねぇ、生き返ろうと思わない?」
「ええっ?」
千可ちゃんは戸村の右手を握りました。
「飛ぶよ!」
「えっ?」
千可ちゃんがいきなり飛びました。彼女に手を握られていた戸村も当然空へ。
「ちょ、ちょっと?」
2人はものすごいスピードで飛んでます。このスピードは戸村にはそうとうきつかったようで、悲鳴をあげてます。
「うぎゃーっ!」
が、2人はすぐに目的地に到着しました。千可ちゃんは平然とした顔ですが、戸村は眼がグルグル廻ってます。
「あははは・・・」
ここは解剖室でした。真ん中に戸村の死体が乗った台があります。戸村はそれを見て、
「オ、オレの死体・・・」
千可ちゃんも戸村の死体を見ています。
「よかった。まだ解剖されてなくって。
さあ、中に入って!」
「な、中に入って何すんの?」
「蘇るんだよ」
「ええっ? だって、心臓が止まってもう9時間以上経ってるんだよ」
「24時間までならなんとかなるって。さあ、早く!」
「で、でも」
「大丈夫、大丈夫。私は千の可能性がある女だから」
そのセリフに戸村は唖然としてしまいました。けど、戸村は意を決したようです。
「わ,わかった。やってみるよ」
戸村の死体は仰向けになってますが、幽霊になった戸村もその状態で死体に入りました。次に千可ちゃんは戸村の死体に両手をかざしました。すると両の掌から淡い光りが発生しました。しばらくその光りを浴びてると、戸村のまぶたがピクっと動きました。
「う、うう・・・」
ついに戸村のまぶたが開きました。千可ちゃんはそれを見て安心しました。
「あは、よかった」
戸村は千可ちゃんを見ました。
「オ、オレ、蘇ったのか?」
「うん」
「ほ、ほんと?」
「ほんとだよ。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして」
と、千可ちゃんはここである異変に気づきました。
「あれ、私が見えるの?」
「あ、はい・・・」
どうやら蘇った戸村は、幽霊が見える体質になってしまったようです。ちなみに、戸村は一度死んだせいか、彼に憑りついてた悪霊はすべて消えてました。