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殺風景な密室。ここは死体解剖室のようです。中央の台には戸村が寝かされてます。その傍らにはもう1人の戸村が立ってます。立ってる方の戸村は半透明です。どうやら寝かされてる戸村は死体で、立ってる方の戸村は幽霊のようです。幽霊の戸村は唖然としてました。
「オ、オレ、死んじまったのかよ・・・」
突然ドアが開きました。幽霊の戸村がはっとして振り返ると、ドアから3人の人物が入ってきました。1人は40代の女性。あとの2人はさきほど千可ちゃんを尋問した少年課の刑事さんです。もちろん、3人とも戸村の幽霊には気づいてません。
戸村は女性の顔を見て、ちょっとびっくり。
「母ちゃん・・・」
そうです。この女性は戸村の母親です。母親は戸村の死体を見て、愕然としてます。
「な、なんでこんなことに?」
ベテランの刑事さんが応えました。
「あなたのお子さんが自転車に乗ってた2人の高校生を襲ったんですよ」
戸村の母親はかなり厳しい目でベテランの刑事さんの顔を睨みました。
「だから、なんでうちの息子は死んだのよ!」
ベテランの刑事さんはしどろもどろで応えました。
「それが皆目見当がつかないところでして・・・ 司法解剖するにも、今解剖医が出払ってまして、明日まで解剖できないんですよ。それまで待って欲しいんですが・・・」
戸村の母親は視線をきっと逸らしました。
「ふっ!
なんか、ちっちゃい娘がいたそうね。そいつが殺したんでしょ! たくさん賠償金を獲ってやるから!」
そのお門違いな発言を聞いて、若い刑事さんがプッツンしたようです。
「奥さん、それはいくらなんでも違うんじゃないですか?」
ベテランの刑事さんは若い刑事さんを片手で押さえ、耳元で小声で発言。
「おい、やめとけ!」
その一部始終を戸村の幽霊が見てます。
「なんだよ。またこれかよ・・・ こいつのせいでオレの人生はむちゃくちゃになっちまったんだ! くっそーっ、なんでオレはこいつの息子として生まれちまったんだ?・・・」
次の瞬間、戸村は母親の背後に何か得体の知れない人影を見つけ、はっとしました。
「え?」
それは少女の霊でした。白目の部分が異様に光っており、黒目がまったく見えてません。けど、その顔は戸村の記憶にある顔でした。そうです、これはさっき襲った女の子、千可ちゃんです。
「あ、あのときの女?」
けど、千可ちゃんとはちょっと違うような。これは千可ちゃんの生霊でしょうか? ともかく不気味な心霊です。
と、いきなり戸村の母親が胸を押さえ、へたり込みました。
「うぅ、心臓が・・・」
それを見て2人の刑事さんは慌てました。
「お、おい? どうなってるんだ?
「親子ともども心臓麻痺か?」
戸村は不気味な心霊に殴りかかりました。
「くっそーっ、オレのお袋になんてことしやがるんだーっ!」
不気味な心霊は戸村の霊を見ると、不敵に笑いました。
「ケーケケケケケ!」
不気味な心霊は全身から白い光を放ちました。その光を浴びると、戸村の身体は軽く弾き飛ばされ、壁に激突。
「うぐぁーっ!
くそーっ!」
戸村が立ち上がると、彼の母親は床に大の字になっており、不気味な心霊が馬乗りになって首を絞めてました。心霊はあらぬ言葉を口にしてました。
「死ね! 死ね! 死ねーっ!」
母親は悲鳴を上げ、泡を吹いてます。
「うぎゃ~!」
慌てふためく2人の刑事さん。
「おい、救急車だ! 早くしろ! 早く!」
「は、はい!」
戸村は再び心霊に殴りかかろうとします。
「このやろーっ!」
と、ここで不気味な心霊はぱっと消えました。
「き、消えた?・・・
くっそーっ、恨むのはオレだけで十分だろ! なんで母ちゃんまで恨むんだよ!」
戸村は決意しました。あの世に呼ばれるまで、母親の命を守ることにしたのです。