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千可ちゃんが通ってる高校で事件が起きました。千可ちゃんの隣のクラスで授業中悲鳴が響いたのです。戸村雄一という男子生徒が隣に座ってた女の子をいきなりぶん殴ったようです。女の子は倒れた拍子に机の角に頭をぶつけてしまい、失神。あたりは騒然となり、その影響で千可ちゃんのクラスまで授業は中断となりました。
実は千可ちゃんは、この戸村て男が気になってました。別に男として気になってたわけではありません。実は戸村にはたくさんの悪霊が憑りついていたのです。千可ちゃんの霊視によると、戸村の家は母子家庭で、おまけに母親とうまく行ってないようです。それが負のオーラを作り、悪霊を呼び寄せてたようです。
千可ちゃんも母子家庭の時代がありました。だから助けてあげたい、悪霊を取り除いてあげたいと思った時期もありました。けど、そんなことしたら、またお母さんからビンタです。だから見て見ぬふりをしてました。
そんな戸村ですが、ついに事件を起こしてしまいました。千可ちゃんはちょっと残念に思いました。
ある雨の日の下校時のこと。千可ちゃんは下駄箱から靴を取り出し、履き替え、そして傘立てに向かいました。けど、千可ちゃんの傘は見当たらないようです。
「あれ?」
と、千可ちゃんが視線をずらすと、そこには千可ちゃんの傘を持った男の子がいました。森口くんです。
「あ、それ、私の傘!」
「え?」
森口くんが振り向くと、千可ちゃんが早足で来ました。
「それ、私の傘だよ!」
「ご、ごめん」
森口くんは千可ちゃんに傘を渡しました。そして傘立てから別の傘を取り出しました。
「ぼくの傘、こっちだった」
それは朱色の傘でした。千可ちゃんの傘は紺色です。どう間違えたんでしょうか?
「もう、しっかりしてね!」
森口くんは再び謝りました。
「ご、ごめんなさい」
次の日も雨でした。千可ちゃんはいつものように下校しようとしましたが、今日も傘立てに傘がありません。千可ちゃんは一瞬呆れたって顔をしましたが、次の瞬間、ふーっと目をつぶりました。リモートビューイングです。
小雨の中、千可ちゃんの傘をさして歩く人影が見えます。顔を見たら・・・ 森口くんでした。
千可ちゃんは目を開けました。
「またかよ・・・」
千可ちゃんは傘立てに残る森口くんの傘を持って、駆け出しました。
「も~っ!」
森口くんが傘をさして下校してると、後ろから声が。
「待ってーっ!」
「え?」
森口くんが振り返ると、千可ちゃんが小雨に濡れながら駆けて来ました。
「もう、なんで私の傘、持ってっちゃうの?」
千可ちゃんは森口くんに傘を差し出しました。
「あなたの傘はこっちでしょ!」
「あ~ ごめんごめん・・・」
「傘の色がぜんぜん違うじゃん。どうして間違えるのよ!」
千可ちゃんは森口くんと傘を交換すると、
「もう、間違えないでよ!」
と、きつく言いました。千可ちゃんが振り向こうとしたら、急に森口くんが語りかけてきました。
「あ、あの~ 羽月さん、カラオケに行かない?」
突然の誘いに千可ちゃんはびっくり。
「えっ?」
「お詫びのしるしだよ。ぼくがお金を出すからさぁ」
千可ちゃんは処女をあげた男の子以外の男の子とカラオケに行ったことはありません。でも、せっかくのお誘いです。おまけにお金は森口くんが出してくれます。千可ちゃんはタダて言葉に弱いふつーの女でした。2人はカラオケに行くことにしました。
カラオケボックスに着くと、森口くんと千可ちゃんは気持ちよく歌いました。千可ちゃんは1人で歌いたいようですが、なぜか森口くんはデュエットの曲ばかり選択してきます。仕方がないから、千可ちゃんはその時は一緒に歌ってあげました。でも、千可ちゃんはとってもうれしそうです。
1時間が過ぎました。森口くんはもう1時間歌いたいみたいです。でも、千可ちゃんは遠慮することにしました。
2人はカラオケボックスを出ました。千可ちゃんは森口くんに優しく語りかけました。
「ありがとうね、森口くん」
「うん。ねぇ、羽月さん、またカラオケに行こうよ」
「う~ん・・・ 気が向いたら、ね」
千可ちゃんはニコっと笑いました。