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異世界の洗礼

いやもうなんて言うか、凄い遅くなってすみません。

あっちこっち手を出し過ぎて回らなくなりかけてます。汗

「フィルネリアさん。メインの拠点は何処なんですか」

「王都バールズ・ファーンだ」


 ほう。知らない街の名前が出てきた。良く考えたら、この街の名前も知らない気がする。

 入口付近に「ここは〇〇の村だよ」っていう村人が、居ないのがいけないと思うんだ。


「ついでに、此処何て街ですか」

「お前、一体ここに来て何日経ったと思ってるんだ」

「忘れました」

「私もそこまでは覚えてないけどな。ここは『ハスアの街』だ」


 ほへぇ。ハスアの街というらしい。まあ、転移して来たばっかりで、そんなの気にしてる余裕無かったしな。

 俺なら転移や転生しても、冷静に行動出来るぜ!って小説読んでる時は、思ったんだけどね。


「そっちに戻るんですか」

「この街で、後1つ依頼をこなしたら戻ろうと思っている」

「もう、スライムは勘弁して下さいよ」

「すまんな。スライムだ」


 この人どんだけスライム好きなんだよ。スライム好き過ぎだろ。異世界に来てからスライム以外のモンスターに遭遇した記憶が無いんだけど。

 遭遇してたとしても、スライム狩り過ぎて、スライムしか印象に残ってないんだけど。


「それで今度は、どんなスライムなんですか」

「グリーンスライムとブルースライムだ」

「グリーンスライムって、普通のスライムと何が違うんですか」

「グリーンスライムは通常のスライムより、体色が深い緑色で、薬草の系統しか食べないスライムだ。よってその体液は、傷に対して効く」

「それ程強くない薬って感じですかね」

「まあ、そうだな。他のものと調合すれば、病や毒にも効く、薬調合の基本的な材料だな」


 病ってこの世界だと、ただのバッドステータス扱いなんだな。ゲームっぽくて有難い話だ。


 この間「なんでステータスって見れるんですか」ってフィルネリアさんに聞いたら「見れるから」って言われたんだけど、そりゃそうだよな。俺も「1+1=2なのは何でですか」って聞かれたら「そうだから」としか答えられないもんね。

 厳密に"1"ってなんなんだろうね。何を持ってして"1"と定めてるのか良くわかんない。小学生の頃なんでか真剣に考えてたけど、分かんないからそういう事として諦めた。


「じゃあ、ブルースライムも薬系なんですか」

「ブルースライムは、魔素を溜め込みモノは食べないスライムだ。魔素を取り込み続ける影響で、体色が青くなっている。勿論その体液は、魔力の回復に使える。魔力の回復手段は余り多くないので、便利なスライムだ。しかし、個体数は多くないので、単価が高い」

「えっと狩る時の注意事項は有りますか」

「ブルースライムは、魔素の濃い地帯に発生する。魔素の濃さはイコールその地域の魔物の強さに直結する。より深い青というか、濃い紺色のネイビースライムと強烈な赤色のレッドスライムには注意が必要だ」


 スライム種類多いな。フィルネリアさんこと、スライム博士に任せよう。


「一応1体ずつ説明するぞ。ネイビースライムはブルースライムの進化種で、より多くの魔素を溜め込んで強くなったスライムだ。パッと見ブルースライムに良く似ているが、こちらの個体は非常に強い。どれぐらい強いかというと、少なくとも私よりは強い。魔法を使うので、モンスターの中でも、かなり高い知能を有していると思われる。遭遇したら、一も二もなく逃げろ」


 いや、待ってくれ。武道の心得がある俺から見てもフィルネリアさん割と強いぞ。それでも勝てないとか、本当にスライムなのそれ。


「レッドスライムは、その名の通り体色が赤色のスライムだ。非常に強い攻撃性を持ち、自分より強いモンスターにも、積極的に襲いかかるスライムだ。その強い攻撃性が体色に現れたという説と、血を啜る為に体色が赤いとの説もある。少なくとも今のお前よりは強いので、遭遇したら逃げろ。魔法を使ってこない分、ネイビースライムよりは危険度は落ちるが、強力な酸の射出は脅威だ。連射してくるぞ、気をつけろ」

「分かりました」


 おぉいぃ。スライム超絶怖いやん。めっちゃ危険生物じゃん。もっと可愛い感じのプルプルじゃないのかよ。


「何処に向かうと居るとか有るんですか」

「魔素が濃く瘴気が薄い所だな。瘴気が濃い所のスライムは強過ぎる。堕慧児(おとしご)玉虫色の怪(ショゴス)が一応スライム分類されるんだが、遭遇したら、ほぼ即死であると思っていい」


 クトゥルフじゃねーか!なんで異世界にまで出張ってきてるんだよ。これはもう、無貌の神とか、黄衣の王とか居ないことを祈るしかない。

 もし居るとしたら諦めるしかないし、この世界ごと終わりだ。


 ただ、もし居るとしたら、この世界の手掛かりになる。こちら側は狂気の世界で、正気の世界にいる俺が何らかの拍子で巻き込まれたということ。

 俺を迷い込ませた神話生物が飽きるか、俺が死ぬかすれば、元の世界で目覚められる可能性がある。

 倒してもきっと戻れるだろうが、クトゥルフは見ただけで即死とかも居たような記憶が有るので、絶対に無理だ。

 後俺から仕掛けられるアクションは、俺がぶっ倒れる事だけだ。でも、そこまでしなくちゃいけないなら戻れなくていい。そんな勇気はない。


 まあでも、大丈夫だろう。クトゥルフ世界では無いはずだ。モンスターとして神話生物が確認されてて、そんな中で人が普通に暮らしてるんだ。名前や見た目が類似してるだけで、本物って事は無いだろう。…………多分。


 まあ、まあね。異世界とか希望的観測で生きてくしか無いよね。確定情報全く無いもんな。


「よし、行くぞ。とにかくついて来い」

「う、うっす」


 俺が主人公だと思ったんだけど、これただのパーティメンバーだな。どう考えても、あっちが主人公。

 きっとタイトルは『フィルネリア冒険譚』とかに決まってる。


 街を出る途中で馬車を借り、二日分の荷物を詰め込んだ。

 なんて言うか、フィルネリアさん手慣れててカッコイイ。そして、なんて言うか、俺もっと見せ場が欲しい。


 何事も無く出発し、整備された林道を通っていると、如何にもゲームっぽいアクシデントに遭遇した。いや、発生したか?クエスト的な感じで。それとも、ただのエンカウントだろうか。


「有り金と荷物を置いてきな」


 五人程ワラワラと出てきた。山賊だ。…………この場合は林賊だろうか。こう、こいつ等を的確に表す表現があるはずだ。


「ふん。盗賊風情が私に挑もうとは、命知らずめ」


 そう!それ!!!それが言いたかった。コラ盗賊コラーコラ許しませんよコラ。フィルネリアさんが。


「そうだぞお前ら。命が惜しくば出直してくるんだな。姐さんは強いぜ!へっへっへ」

「マギク」

「なんですかい姐さん」

「お前の方が盗賊っぽいぞ」

「うん、ごめんね。ちょっと言ってみたかったんです」

「おい、マギク。人斬りは得意か」

「んなわけない決まってるでしょ」

「そうか。なら覚悟を決めろ。人を斬る時の得物は、少しばかり重いぞ」


 フィルネリアさん嫌な事いうな。決心が鈍りそう。でも、ここで斬れなきゃこっちがやられる。


 大体、現代日本の男子高校生が人斬りなんかできる訳無くないか。そんなインスタントに人殺める覚悟決められないからね。


「ごちゃごちゃうるせぇぞ!お前らさっさとたたんじまうぞ。所詮女子供だ。女は殺すなよ、価値が無くなる」

「「へい!」」

「いくぞ!」

「あーもー!」


 今のしょうもない会話の中で、ある程度観察できた。

 装備はお世辞にもいいとは言えない、手に持ってる剣は少し欠けたり、汚れたりしている。鎧も戦闘でついたとは思えない細かい傷がある。大方脱いでる時はその辺に転がしているんだろう。

 装備の整備の重要性をしっかり認識してない時点で、戦いを生業としてる人間じゃないな。傭兵崩れとかではなく、農村の次男三男が村から出てきて、食うに困って戦場跡で拾った武器で、盗賊紛いの事をしてるって感じだな。


 真菊さん歴史は得意なんだよね。英語と数学はいつも15点ぐらいだけど、歴史だけ毎回90点超えるからね。

 後、休み無しの爺さんの毎日の訓練が、滅茶苦茶役に立ってる。爺さんが放ってくる本気の殺気に対してこちらは驚く程脆弱だ。

 構え方も隙だらけだし、爺さんなら足さばきだけで槍使わずに倒せるな。立ち上がることすら許さないだろう。


 現代では全く役に立たなかった、槍の達人との訓練凄い役に立ってるじゃん。昔やった爺さんの本気の殺気を堪える修行、凄い役に立ってるじゃん。

 達人級の殺気って、本当に冷や汗ダラダラで、足ガクガクで、金縛りみたいになるんだよなぁ……。

 特に真菊流は相手の無意識に畳み掛ける、光速の技を得意とする流派。一瞬の呼吸の乱れが生命取りに繋がる。その師範が刃の潰してない槍で、本気で斬りかかって来るんだぜ。怖いとか、そんな生易しいもんじゃないかんね。


 それに比べたら盗賊如き大したことじゃないと思ってたけど、実際遭遇してみて大したことなかったわ。これっぽっちも怖くない。


「私が3人持つ」

「お願いします」


 どう考えても俺の方がレベル的に下だし、言うこと聞いとこう。

 とは、言ったもののそう簡単にしていい覚悟じゃない。ぶっちゃけ無理だ。


「死んどけやオラァ!!!」


 大柄な左頬に傷のある方が正面から突っ込んできた。

 上段からの大振りは受けるのは容易い。でも、こちとら武器が槍なんでね、後に大きく飛ばせてもらうよ。

 間合いが大事ってね。槍だから懐に入られるとやりづらいし。


 後ろの小さい方は突っ込んでこない。高みの見物というよりは、どのタイミングで加わろうか悩んでるって感じだ。取り敢えずは、目の前の大男に専念しよう。


 正面の男は雄叫びを上げ真っ直ぐ突っ込んでくる。動きは眠くなる程単調。反撃の隙はいくらでもある。

 しかし、中々踏ん切りがつかない。

 マジでそっちさっさと倒して、フィルネリアさん何とかしてくれんかな。後でウィンクしてあげるから!


 えっいらない。あ、はい。ごめんなさい。


「何をしているマギク。前に私に見せた十分の一も動ければ、勝てる相手だぞ」

「そんな事言ったって、はい、そうですか。って斬れるわけ無いでしょ!」

「では、盗賊の代わりにお前が死ね!」

「嫌に決まってるでしょうが!」

「チッ。もういい、私が相手をする。引け!」


 いやいや、ここで完全に引いたら五対一。流石のフィルネリアさんでもキツいでしょ。


「フィルネリアさんがサクッと2人程倒すまで引き受けますよ」

「……。」

「フィルネリアさん?」

「槍を逆さに持て、それなら殺さない」


 その手があったか!人を殺す覚悟を、どう決めるかばっかりに頭が行ってて、全然気付かなかった。


「はい!」

「いけ、マギク」


 なら、更に距離をとって二人纏めてやってやる。

 よくも散々ぶった切ってくれようとしたな。いくら殺意が弱いからって、ずっと向け続けられれば焦るに決まってんだろ。


 二人の呼吸に呼吸を重ね、重なったその刹那に踏み込む知覚不可能の槍撃。


「真菊流(よん)の型『紫流閃』」


 声をあげる間もなく、二人が地に臥せる。刃の方であれば、もっととんでもない威力だったに違いない。


 真菊流の一対多における、正面に対して最強の突破力を誇る紫電の一撃。

 かの軍神、越後の虎と名高い上杉謙信の包囲を突破し、唸らせたと言い伝えられている。


 爺さんが言ってただけだし、正直嘘っぽいけどね。


 真菊流開祖真菊幽衒は、この技がお気に入りだったらしい。しっかし「まぎくゆうげん」って凄い名前だよな。現代じゃ考えられん。


 …………良く考えたら俺の名前一文字だし、幽衒のが格好良いかもしれん。


 いや、どう考えても幽衒のがいい。子供の名前一文字とか、ギャグにしても寒いし、親が子に付ける名前じゃねーよ。圧倒的に悪ふざけの領域だよ。

 どうせなら、幸村とか、政宗とかのが良かった。


「なんだ、思いの外強いではないか」

「そっち3人も居たのに、もう終わったんですか?」

「あぁ、まあな。敵のリーダー格はそこそこやり手だったぞ」

「そいで、こいつ等どうするんですか」

「三択だな」


 1.装備を剥ぎ、切り落とした首を提出し金を貰う。


 2.縄で縛って街に連れ帰り、兵士に引渡し金を貰う。


 3.見逃す。


 と、いうことらしい。


「残念ながら2番はないな。5人分の縄が無い。まあ、3は有り得ん。働く所がなくて盗賊やってるんだろうから、見逃しても盗賊を続けざるを得ない。無意味に被害が増えるだけだ。よって一択だな。よし、マギク。お前が殺せ」

「え、いや、ちょっと待ってくださいよ!なんで俺が!?」


 無理無理無理無理無理。無理だって。折角気絶させたのに、どうして俺が。


「人型のモンスターも、人に擬態するモンスターも、山賊だの海賊だのも、うじゃうじゃ居る。そんな中で、一々人の姿だからといって躊躇していたら、生命が幾つあっても足りない。お前の巻き添えで息絶えるのは御免こうむる」

「無理、無理ですって!」

「そんな事では、擬態したモンスター頭から食われるだけだぞ。お前はモンスターのエサになる為に冒険者をやってるのか」

「違いますよ。でも、そのなんというか、今回だけは見逃してください」

「がっかりだよ。『今回だけ』その言葉は未来永劫お前を縛り付ける。お前は次もこう言うだろう『今回は見逃してください。次こそは』と」

「そんな事は……」


 無いなんて絶対に言えない。寧ろ、ほぼ確実に言うことだろう。今回も、今回だけと、永遠に言い続ける気がする。それはきっと正しい。


「そうか、なら冒険者は辞めろ。辞めてもお前みたいな身元不明の奴を使ってくれるのなんて、冒険者ぐらいしか無いけどな」

「確かに野垂れ死には嫌です。でも、それでも、出来っこないですよ。無理ですって」

「冒険者はこういうのの討伐依頼も普通に出る。生きたいなら慣れろ。それとも、何もせず朽ち果てるのが望みか」

「違います。でも、僕はモンスターしか倒せないと思います」

「甘い、甘いんだよマギク。冒険者を辞め、街にずっと居たとしても、襲われたり、国同士の戦争に駆り出されたりする」

「で、でも、だって!無理です。怖い……から」


 人を殺すのは怖い。だって、一歩違えば、ここで斬り殺されるのは自分だったはずだ。今回はたまたま、自分が斬る側に居るだけ。唯それだけの話し。


 自分が見逃したら、自分の番が来た時に見逃して貰えるんじゃないかっていう、甘い考えから来てるんだろう。


「モンスターだって人を喰うのと、突出した能力以外は、そう人と変わらん。知性のあるモンスターなら、親も兄弟も友人も恋人もいるだろう。奪わないとは、生きないと同義だ」

「フィルネリアさんはきっと正しい。でも、僕に出来るかは別ですよ」

「私は思いの外お前を気に入っている。これを渡そう。これはお前の為だ。着けろ」


 フィルネリアさんにチョーカーの様な物を渡された。


「やめてください!!!」


 その日、初めて槍が、同じ人間を貫いた。

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