槍使いの恩返し
スグに投稿すると言ったな。アレは嘘だ。何故か全然文字が浮かばなかった。ごめんなさい。
「ここが、エネメロの宿だ。私が拠点としている」
「えっ騎士じゃ無かったんですか?」
「……うるさい」
「すんません」
騎士じゃ無いのかよ!あぁそうですね、なんか冒険者達のアイドルでしたね。騎士な訳ねーじゃん!って言うか自称騎士カッコ悪い。
エネメロの宿。流線型の特徴的な青い屋根に、落ち着いた雰囲気の不自然なのに何故か調和の取れた、前の世界の何処を探しても見たことの無い、建築様式。俺が知ってる中世の建築様式の特徴をごちゃ混ぜにして、無理矢理建てた感じだ。入口の扉には宿の看板と思わしきものが、掛かっている。某有名RPGで言う、【INN】の看板の代わりだろう。
あ、ダメだな。前の世界って言っちゃうと、戻るの完全に諦めてんな。でもだぜ、チートも何にもない槍振り回すだけの男子高校生が、世界に太刀打ち出来ると思えないんだけど。
しかも、この場合の世界は、因果律とか、時空とか、十二次元とか、そういうものの類いだ。俺単一でどうこうできる話じゃない。召喚した奴とか、魔法陣とかが有れば、聞いたり解析したりして、戻る手段を探すことも出来そうだけど、なんせ気付いたら森の中だったからな。戻ることがクリア条件だったら、完全に詰みゲーだ。
人生はクソゲーだと思っていた時期が、僕にもありました。が、お父さんお母さん、異世界も割とクソゲーです。
建築様式とか言ってみたけど、マジでこれどうなってんだ。外装からわかる歪さ、歪み。宿は一階で食事、二階で宿泊だとフィルネリアさんに聞いたんだが、明らかに二階のがデカイ。素人計算でも、二階の重さで、一階が潰れてもおかしくないデカさだ。そして、宿は関係ないんだが、隣の建物が完全な球体なのだ。建物に詳しくない俺でも良く分かる。魔法スゲェ。
大通りは、比較的中世ヨーロッパの街並み。って感じだったんだが、塀を二つ超えただけで、何とかランドと、研究所を一緒に建てて、取り敢えず適当に融合させて見ました。と言われたら、納得するレベルの意味不明さだ。
異世界怖すぎる。人が生活してるんだから、この形でも問題無いはずだ。しかし、地震大国日本からの使者で有る俺は、地震が起きたら、一秒と持たなそうな設計の建物に入る勇気が湧いてこない。日本からの使者じゃなくて、日本からの死者かも知れないけど。
そんな現実逃避をしていると、フィルネリアさんは普通に宿に入って行く。当然だ。ここではこれが普通なんだから。異世界で日本の常識に囚われてる俺がどう考えても間抜けだ。慌ててフィルネリアさんの後ろを付いて行く。
「戻ったぞエネメロ」
「なんだ、フィルネリアか」
「なんだとは、なんだ。折角客を連れてきてやったのに」
「きゃ~さっすがフィルネリアちゃん!」
棒読み無表情からの熱い手のひら返しだった。今異世界では、手のひら返しが熱い!うむ。いい雑誌の記事が書けそうだ。書いても俺しか読まんけど。
「よく回る手首だ。剣士に向いてるかもな」
「そんなに褒められたら困っちゃう!」
「いや、褒めてないけどな」
嫌味にも動じない精神力。流石宿屋の看板娘だ。フィルネリアさん程ではないが、美人さんだ。美しいと言うよりは、可愛いという感じだけど。
「貴方がお客さんね!エネメロよ!ご贔屓にね♪」
そう言って俺の手をとり、胸元に引き寄せた所で、両手でギュッっとした。自分の容姿が優れていることを、十分に理解している動作だ。女性に免疫の無い俺は、多分今世界で一番挙動不審な自信が有る。そんな自信要らないんだけど。って言うか手ぇ柔らかい、いい匂いする、可愛い。
「おい、いつまで手を握ってるつもりだ」
フィルネリアさんの機嫌がめちゃくちゃ悪い。そう言えば、雑誌に書いてあった。『めちゃモテイケてる俺特集』だったかな。友人の様な間柄の男女でも、隣の男が自分以外の女にデレデレしてると気に食わないって書いてあった。別に男のことが、好きでもなんでもなくても、兎に角気に食わないそうだ。女心と秋の空って奴ですかね。まるで俺の事が好きで、嫉妬してる様に見える。勘違いするんでマジ止めてください。因みにそう言う勘違いが、一番モテないらしい。
酷過ぎて雑誌を読んだ後、枕が雫に溺れ、ひんやりしたのはいい思い出だ……どこがいい思い出なんだよ!全然いい思い出じゃねーよ!黒歴史じゃん!
「あはは!よろしく!」
「は、はひぃ…よろしくお願いしまっしゅ!」
へい!へいマッシュ!誰だよマッシュ!噛んだし、声裏返ったよ!免疫無いって怖ぇな!穴があったら入りたいとは、まさにこのことだぜ!誰かもう一思いに殺してくれ。
「フィルネリア説明よろしくね~」
「おい!お前の仕事だろ!なんで私が!あっちょっと待てぇぇ!!」
エネメロさんは扉の向こう側に行ってしまった。スタッフルームだろうな。
「…………あーさっきも言ったが、一階で食事で、二階が宿泊する部屋だ。見ての通り店員が適当なので、空いてる部屋を使ってくれ。水浴びがしたければ、近くの井戸を探して浴びて来い。いいぞ今の時期水浴びは下手すると死ぬからな!」
えぇ、まあ。異世界とは言えど、中世的な感じですもんね。冷暖房、温水完備とか無いですよね。って言うか死んじゃうのかよ。なんでそんなに嬉しそうなの。俺の事こんなに世話焼いといて、殺したいとか特殊性癖過ぎるぜ、フィルネリアの姐御。
「そんな目で見るな冗談だ。お湯が欲しければ、エネメロに言うといい。桶一杯で幾らだったか忘れたが、エネメロに聞いてくれ。私は魔法で身体を綺麗にするから、お湯は使わんからな」
そう言えば、ドイツ語の『綺麗』とか言う魔法が有るってフィルネリアさん言ってたっけ。確か『ヒュプシュ』だったかな。記憶喪失の体で色々聞いといて良かった。記憶戻った状態で、こっちの常識を聞いたら、完全に頭が変な奴だからな。異世界に来て一番最初に覚えることは、一般常識だな。なんで、呪文とか、剣技とかじゃ無いんだよ。あんまり楽しくないぞ!訴えてやる!誰にだよ!ちくしょう!
俺ってばぁ、日ノ本一の槍だからぁ?剣技とかぁ?習っても困るけどぉ?うん。止めよう。自分でやってて、この喋り方ウザいな。
折角異世界なんだから、呪文無双がしたいで御座る!したいで御座る!ふて寝じゃ!起きたらお湯貰いに行こう。
翌日!!!
はい。皆さんおはようございます。寝て起きたけど、全然異世界転移夢じゃ無かった、どうも、真菊一文字です。フィルネリアさんとニーネさんとエネメロさんが、俺のことを奪い合うハーレムの夢を見ました。チートが無い。故にハーレムも無い。この異世界転移はドラゴニックアナザーディメンションです。意味分からん。何が言いたいかっていうと、控え目に言ってチート寄越せ。
取り敢えず、お湯貰いに行くか。
「エネメロさんおはようございます!」
「朝からうっさい!」
え~俺客なのに……挨拶したらキレられたよ。挨拶したら友達減ったんだけど。そもそも最初から友達じゃねーな。
「んで、なによ?」
「すみません。お湯ください」
「え~面倒」
仕事してくださいエネメロさん!
「私の残り湯でいい?」
「一瞬ドッキとしましたけど、それ昨日のですよね?今絶対ただの冷水ですよね」
「……ッチ。じゃあ飲む?」
おい、舌打ちしたぞ。しかも露骨過ぎ。せめてするにしても、もう少しバレないようにお願いできませんかね。
「いや、飲みませんけど。俺の事なんだと思ってるんですか!」
「初対面の女性を上から下まで、舐め回すように見る人かな」
「ホントマジすいませんでしたでございます」
しょうがないじゃん!エネメロさん美人だったんだもん!
「冗談よ、冗談。そんなに落ち込まないで!お詫びにお湯タダであげるから。あ、でも、私が顔洗い終わった後のお湯でいい?」
「それぐらいなら構いませんよ」
「本当は嬉しいくせに~」
うわ~ウザイな~この人。俺の頬をうりうりする時に、腕におっぱいがポヨポヨして無かったらキレてたかも。こんなにウザいおねーさんでも、おっぱいが当たれば許せちゃうので、おっぱいは世界を救うと思いました。まる。
「ほれほれ、どうなの?どうなの?」
近いです。マジ止めてください。俺のこと好きなんですか。あ、スゲェ睫毛長い。
「う、嬉しいです」
「うわ~流石のエネメロさんもそれはドン引きですよ~」
ちょっと、あからさまに引くの辛いです。そもそもアンタが聞いてきたんだろ!
「エネメロさん可愛いからね~でも、そのアピールは無いはぁ~」
本当にウザイなこの人。絶対になんか仕返ししてやろう。
「え、えぇ。エネメロさんはとても綺麗な方なので、つい、変な事を口走ってしまいました」
「も~分かってるじゃん!マギクだっけ?後でお湯届けたげるから、部屋で待っててね。それとも私の着替え見てく?高いよ?」
あっぶねー!異世界に来た不安とかごちゃ混ぜになってたせいで、後少しで、えっ!いいんですか!幾らですか!払います払います!見せてください!めっちゃみたいです!って叫び出すとこだったはー危なかったはーもう、エネメロさんドラゴニック危険。
「じょ、冗談はよしてくださいよ」
「あはは!じゃあまた後でね!」
結局ちゃんとお湯を持ってきてくれたんだけど、去り際に「ちゃんと私のお湯だよ!」って可愛く言われたせいで、躊躇してしまって、かなりぬるいお湯で拭いたので、ドラゴニック寒いです。
「さて、今日はスライム狩りに行く。付いて来い」
「はい。フラメアさん!」
「私はフィルネリアさんだ」
自分でさん付けちゃう辺りが、可愛いなこの人。つか、誰だよフラメアさん。どっから出てきた……あ、槍だはフラメアさん。白兵戦にも、投擲にも、使えるフラメア便利。ドラゴニック便利。左右対称の柳葉型で、約2メートルぐらいの槍だ。騎兵にも、歩兵にも人気の一品だ。
流石槍の名家真菊家の次期当主俺。槍にちょっとだけ詳しい。ちょっとだけかよ。
道中、フィルネリアさんが、スライムについて教えてくれた。
「スライムは、マギクが迷っていた森の入口付近に、湧くザコ敵だ。最下級の魔物で、何故発生するかは不明だ。産まれ方も、産まれた意味も、存在理由も不明な、生物と呼んで良いかも良く分からんモノだ」
「スライムって、哲学とか、概念なんですね」
「そうだな。学者でも、良く分からんらしい。アイツら何も喰うもの無い時、地面喰ってるからな」
「じゃあスライムって、餓死しないんですね」
「餓死するか、どうかも分からないがな。そもそもどうやって、あの粘性の身体を保ってるかが分からん。魔力で保ってるにしては、弱過ぎるし、魔法も撃ってこない。調べれば調べる程、分からなくなる生物だ」
スライムってもしかして、神に一番近い生物なんじゃないか?ゴッドスライムとか、多分居る。若しくは、スライムゴッド。どっちでもいいな。
「おっ!いたぞ」
それは、不定形のドロドロとした不快な泥の人形。透明の緑色にして、ありとあらゆるものの死骸をぶちまけた、世界の理から離反したモノ。粘性の生物と呼称するのも悍ましい、蠢き、這いずり回り、自壊する。目に見える死の匂いを纏いし、惨憺たる悪意と嫌悪のゼリーのような生物。日常から乖離し、空想の産物。人の世界に無く、あってはいけない存在。不快にして不和たる、狂気と理性の狭間をのたうち回った様な、気が触れたとしか思えない、胃のムカつく緑色。こちらを嘲笑うかの様な、粘性の彼のモノは、確実に、ゆっくりとこちらに這い摺って来ていた。
スライムだ。
この世界に於ける、最弱にして明確な意思を持たない、魔法生物。ここが日本だったら、阿鼻叫喚間違え無しだ。異名は"スウィーパー"スライムの癖にカッコイイんだけど。マジなんなの?俺の必殺技"いっぱい突く"だぞ。ふざけんなよスライム。
言っておくが、スライムは悪くない。強いていえば、厨二病の時の俺のネーミングセンスが、致命的に悪い。ドラゴニックナンセンスだ。
「スライムには、非常に判別し辛いが、核が有る。そこを潰せば一撃で仕留められる。それに、仕留め損なってもこの大きさなら、大丈夫だ。呼吸器を完全に塞がれない限り、こちらが死ぬ事は無い。纏わり付かれても、ドロドロが気持ち悪いだけで、指1本溶かすのに何日もかかる。スライムが死骸や植物ばかり食べる理由はそこだな」
「つまり、死ぬ危険は無いんですね?」
「そうだな。しかし、生物とは思えない速度で、増殖するし、子供は背が低いので、口や鼻を塞がれ易い。なので、常時駆除依頼が出ている」
それなら俺でも何とかなりそうだな。見た目がめちゃくちゃ気持ち悪いのを除けば楽勝だ。
「因みに、産まれたばかりの、何も体内に入ってない綺麗なスライムは、とんでもない高値で売れる。指1本溶かすのに何日もかかる程の弱さ故に、スッと肌に触れるだけなら、汚れが綺麗に取れて肌がツルツルになる。貴族のお嬢さんや夫人がこぞって買っていくのだ。それに、産まれたばかりの個体は、透き通った綺麗な緑色で観賞用にも人気なんだ!」
フィルネリアさんめっちゃスライムに詳しんだけど、スライム好き過ぎない?あぁ、フィルネリアさん綺麗なスライム欲しいんだな。女の子が、興奮気味にモノを話す時は、大体欲しがってるものらしい。雑誌に書いてあった。
「核の位置を把握出来るまで、少し手伝ってやろう!行くぞ!『我を導け、示すは点、穿つは穴!ウィークネス!』」
ん?なんかスライムの一部分が赤く点滅してるな。
「あの赤いのが核の部分だ。慌てずにいけ、動きは鈍い」
「ありがとうございます!」
よっしゃ行くぜ。心を落ち着け、相手の呼吸を掴み、じっくりと間合いを詰め、刹那に叩き込む!
…………スライムの呼吸ってなんだよぉぉぉ!!!わっかんねー!ちくしょう!あ~もう!気楽にぷるぷる、ぷるぷるしやがって。なんなんだよ!
「どうした、何を躊躇している?魔法が消えるぞ」
こうなったらやけくそじゃぁ!真っ直ぐ行って突く!
「おんどりゃぁぁ!!!」
スライムは、儚く夢の如く星に還った。俺の勝利だ。
「相手がスライムとは思えぬ程の気迫だが、スライムなんぞに毎回あんなに気を張っては死ぬぞ」
力み過ぎましたねごめんなさい。呼吸を必要とせず、予備動作も殆ど見られない、魔法生物相手には、真菊家の対人を想定とした槍術は、全く役に立たないことが分かった。何百年前かの御先祖に異形のものと、戦う術も作っておいて欲しかったぜ。異世界転移まで考慮して創造された武術ってなんだよ。そんなのねーよ。理不尽過ぎて自分で言ってて可笑しい。
「兎も角初勝利おめでとう。今のスライムは何も落とさなかったが、魔物は倒すと稀にアイテムをドロップする。スライムから紅い玉のようなものが出たら私にくれないか?」
「えぇ。まあ、お世話になってますし、それぐらい構わないですけど」
「恩に着るよ」
「いえいえ!」
結局、夕暮れまで、スライムを狩って狩って、狩り尽くしても、一つたりとてドロップしなかった。ドロップ率ドラゴニック渋いんだけど。
「じゃあ、今日はそろそろ帰るか!明日もスライム狩り頼むぞ!」
この時俺は美人で、恩人でも、安請け合いはするもんじゃ無いんだなと学んだ。
結局スライムから紅い玉が、ドロップしたのは三日後の事だった。
人助け、それも異世界で、なんの見返りもないなんて有り得るわけ無いじゃない!
ざまあみろ一文字!フィルネリアさんとイチャイチャしやがって!うがー!




