スライム地獄からの解放
閑話を抜いて10話目。やっと二桁ですよ。
森の中を暫く進んでいると、フィルネリアさんから止まれというハンドサインが来た。なので、大人しく従う。
フィルネリアさんの奥の方を見ると、馴染み深いプルプルがプルプルしていた。
フィルネリアさんは周囲を警戒する様子を見せた後、普通に話しかけて来た。近くにこのスライム以外のモンスターはいないようだ。
「マギクこっちに来い。よく見ろ、あれがグリーンスライムだ。草しか食べないから結構綺麗だろ?」
「おっ本当だ!綺麗な緑色ですね。死骸も浮いてないし、通常のスライムより倒しやすそうです」
「通常のスライムよりは、動きが速いし、全てのステータスが一段上だから、舐めてかかると痛い目にあうぞ」
「了解です!」
じゃあ、と言ってフィルネリアさんからビンを2本受け取った。
「なんですかこりゃ?」
「?……何がだ?」
「いや、スライム倒してくるんで、ビン邪魔なんですけど」
「何を言うか。ビンが無ければ、どうやって体液を回収するつもりなんだ」
「えっと、もしかして、倒したスライムから、直接ビンで体液を掬うんですか」
「当たり前だろ。体液が回復薬の基本材料になると、教えたばかりだろ」
「分かりました」
幾ら綺麗なスライムでも、あのベチョベチョしてる奴に手突っ込むの、中々勇気いるだろ。
「倒したらすぐに掬い始めないと、薬液が全部地面に飲まれるからな、勿体ないからちゃんと2本分回収するんだぞ。いいな」
「ま、まじかぁ」
ドロップアイテムで、ポーションとして出てこないのか。変なところでゲームっぽいクセに、変なところでリアルというか、面倒だな。
あれも試してみたいし、一気に行くか。
「真菊流伍の型『蹴流刺』」
真菊流に伝わる呼吸法と歩法の組み合わせで、弓程の距離(50m以上手前)から、一呼吸の間に間合いを一気に詰め、そのままの勢いで相手を貫く大技だ。
俺の技量だと他の臓器を傷つけてしまうが、爺さんの領域になると、指定した臓器の部分のみを、綺麗に穿つ事が出来る。
使用者の技の精度が、一番出やすい技なので、俺が爺さんに使うのは戸惑われる。未だに当てられる気がしない。初動は最速で、あの爺さんですら避ける事能わない技だが、普通に弾かれる。
まあ、爺さんですら制御の難しい技だし、俺が完璧にこなせるようになるのに、後何十年かかるやら。
「……ふう。回収回収っと」
「おぉ、今の技は凄いな!どうやったんだ」
「まあ、色々と」
口で説明できない。飽きる程の訓練の賜物だからな。あの速さは理屈じゃないんだよな。爺さんの『蹴流刺』は立ってる位置から姿がぶれたと思ったら、既に目の前に居るから、最初教えてもらった時は、瞬間移動かと思ったもんだ。
当然、俺には爺さんの最速技なんて、避けも防げもしないから、これだけは見て覚えた。
だって、基本の『流閃華』ですら、連続突の動作が滑らか過ぎて、残像見えるからな。分身するんだぜ?あの爺さん。どうやってあんなのに勝つんだよ。
正直、転移したのが俺じゃなくて爺さんなら、存在がチート扱いされてただろうな。あの爺さんの強さは、現代のスポーツ科学でも、解明できないと思われる。
「油断するなと言った手前、こういうのはなんだが、今の技はタメも、技が終わった後の隙も大き過ぎるな。一体一でしか使えなさそうだ」
「あんな大技、一体一以外で使ったら袋叩きにされますよ」
「いや、分かってるなら良いんだ」
フィルネリアさん本当に世話焼きだな。俺にとっては、些細なことでも教えてくれる親切な人だけど、他の人からしたら、オカンみたいでウザがられるかもな。
「次はブルースライムだな。もう少し奥に行けばいると思う。私から離れるなよ。まあ、あれだけの技が有るなら、この周辺なら大丈夫だとは思うがな」
「いえ、モンスター怖いんで、虫のように引っ付いて行きますよ!」
「それは、普通に気持ち悪いな」
「すんません」
フィルネリアさんに、引かれてしまった。幾ら現代日本より虫が身近な世界でも、女性は虫あんまり好きじゃないみたいだ。そういう俺も虫嫌いだけどね。
「それはいいとして、次は私の番だな!グリーンスライムは君が倒してくれたから、ブルースライムは私が倒そう」
「ブルースライムってネイビースライムみたいに魔法使ってくるんですか?」
「あー。まあ、そうだな」
なんだ?やたらと歯切れが悪いな。
「じゃあ、強いんですね」
「いや、スライムより弱い」
「えっ?魔法が使えるんですよね?」
「そうだ。しかし、所詮スライムから一段階進化しただけだからな。よく魔力制御を失敗して自滅する。その上、発動に成功しても、初級の攻撃魔法を1回しか使って来ないから、戦士職の体力が有るなら誰でも倒せる」
「へぇ〜じゃあ、楽勝ですね!」
「それが、そうでもないんだ」
自滅するのに楽勝じゃないとか、どういうことなんだよ。言ってること無茶苦茶だぜ。
「ブルースライムに遭遇するだろ?そして、戦闘に入る。ブルースライムは、通常のスライムより頭が良いので、索敵範囲が広いから、こちらが近付ききる前に魔法を発動し出す。それで、普通に発動されればいいが、大抵は自爆する。そして何より、魔素は拡散が速い」
「あ〜成程。手前で自爆されると、拡散の速い魔素は回収出来ないと」
「そういう事だ。だから、強さの割にブルースライム討伐は、難易度高いんだ」
め、面倒臭い。なんてスライムだ。よりによって弱いから依頼達成しづらいとか、あんまり過ぎる。
「よって、ブルースライム討伐依頼は、あんまり数が出ないんだ。誰も受けないからな。受けても依頼失敗して罰金とか払う羽目になるし、ブルースライムを知ってる奴なら、先ず受けない」
「なんで受けたんですか」
「私の移動速度と剣速なら、魔法が発動しきる前に、ブルースライムまで辿り着けるからな。私にとっては、弱いモンスターな上に報酬が高い。更に競争率は殆どゼロに近い。という超優良依頼だ」
「ん?競争率はゼロに近いんですか?聞いてる限りだと、フィルネリアさんと同じランクの、盗賊とかの素早い職業の人なら誰でもこなせるのでは?」
「私と同ランクの冒険者が、ブルースライム討伐なんてしょぼいクエスト受ける訳ないだろ。報酬が高いと言っても、最底辺の中で頭一つ抜けて高い程度だ。高位の冒険者なら、小遣いにもならんよ」
「じゃあ、俺の為にですか?なんかすみません」
「正解だ。パーティメンバーの馬車代ぐらいには、なるだろうと思ってな」
馬車代って事は、拠点にしてる所に帰るのか。そりゃそうか。ここに来たのは遠征みたいなもんだろう。遠征先で、俺という面白い玩具を拾ったので、鍛えてやろう。ぐらいの感じだったのかもな。
もしかしたら、自分の代わりに、普通のスライムを延々倒し続ける下僕が欲しかっただけかもしれんが。
ブルースライム戦は、フィルネリアさんが、発見から一瞬で倒したので、特筆すべき事は無かった。ブルースライムさん弱過ぎやんけ。
街に戻ってすぐ、クエスト完了の報告をし、明日『王都バールズ・ファーン』へ行く話になった。
「王都ってどんな所なんですか?」
「人が多くて依頼も多い。お前みたいな駆け出しが、毎日のように何組も登録に来るぞ」
「何人でなく?」
「何組だな。同じ村の者同士や、隣村の者同士で、既にパーティを揃えてたり、後一人でパーティが完成するなんてのが多いな。命を互いに預けるだ。気心が知れていた方がいいだろ」
「そりゃ見ず知らずのオッサンよりは、そっちのがいいですね」
「私は臨時パーティしか組んだ事が無いから、マギクが初めてのパーティメンバーだな」
「俺なんかで良かったんですか?」
「冒険者は男ばかりでな。女性冒険者は多くない。それに、冒険者になるような男は顔が怖いんだよ」
「それって酷く無いですか」
思わず笑いながら返してしまった。顔が怖いってあんまりでしょ。
「何を言う。顔は大事だろ。毎朝オーガみたいな顔を見て起きるのと、普通の平凡な顔を見て起きるのでは、やる気が多少は変わってくる。そりゃあ私も女だから、どうせなら整ってる顔立ちの方が好きだが、顔が良くても、モンスターを倒せないのでは話にならん。冒険者だからな」
「厳つい顔の大男よりは、俺みたいな普通のがマシ。って事ですね」
なにそれ超嬉しくない。
「それに、前にも言ったが、お前なら襲われても一撃で斬り伏せられるからな。女の私が冒険する上でそれは大事だろ?後、私をパーティに誘う男共は、いくら何でも、下心が顔に出過ぎだ。そんなのと冒険したい女が、いるわけないだろ。マギクみたいに、せめて伸びた鼻の下ぐらいは、隠す努力をするべきだな」
「なんでバレてるんですか!」
「鼻の下は隠せたようだが、目線が露骨過ぎる。お前は女に対して、そういう度胸は無さそうだから、パーティにしたのもあるな」
「女の人とパーティ組んだりしないんですか」
「いや、私はあの良くわらん雰囲気は苦手だ。臨時で組むことも有るが、あいつらは、なんであんなに話す事が有るんだ。もっと警戒に集中しろよな!」
思い出しギレとか、やめてください。顔が怖いですよ。美人が台無し過ぎる。
「では、また明日だ」
「はい!また明日!」
明日の集合時間までに、回復薬買ったり、武器を軽く手入れしてもらったりしなきゃな。折角フィルネリアさんから武器屋も教えてもらったし、早速行ってみよう。
予備の槍とかもあった方がいいよな。転移の時に持ってた槍は少し傷んできたような感じもするし。一応自分でも手入れできるように、砥石でも買うか?いや、まずは、荷物を入れるバッグだな。
槍を2本携帯する事を考えたら、形も気にしないといけないし。結構街から街への移動って面倒だな。
それでも、王都楽しみだな。
次は王都だ!