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決意と彼女とスライムと

10話目

『二命のチョーカー』


 その名の通り、装着させた相手に、一日に二度命令をする事ができる。「自殺しろ」等、明確に生命を害する命令は受け付けない。相手が装着を認めた際に、魔力を流し込む事で、装備が可能となる。装備された者は、 第三者から従者や下僕に見られる。


「なんで、なんでこんなもの着けたんですか!」

「人は馴れる。例えそれが、同族を殺すという行為でも」

「そんな、そんなの無いですよ……。」


 人が人を殺すなんて、そんな行為に馴れて良いはずが無い。


「それじゃ、モンスターやさっきの盗賊達と、一体何が違うって言うんですか」

「何も違わんよ」

「……取り敢えず、これ外してくださいよ。外れないんです」

「ダメだ。お前が普通に行えるようになるまでは外さない。冒険者を辞めようと、人を殺す事にかわりは無い」

「何でですか?武器を持たなければ、人は殺せないでしょう」

「違うな。金持ちは奴隷を殺して生きている。我々は言葉で人を殺す事もある。英雄は手の届かない者を見捨てている。生きてる以上、人は何かを殺すんだ。弱ければ、自分がやられる。ただそれだけの事だ」

「それは……そうかも知れないです。でも、それでも、直接手にかけるのは無理です」


 異世界がこんなにも厳しいとは思わなかった。俺に異世界は無理かもしれない。足元に広がる血の匂いは、それを理解するのに充分な量だ。辞めてしまおうかな。


「こいつ等を倒す前にも言ったが、お前はただの不審者だ。身元が無い、冒険者として生きるしか無いのだ。それとも、スラムに落ちるか?マギクが一方的に奪われる側に居るならば、他人を害すことは無いぞ」

「それは、卑怯だ!詭弁だ!」

「しかし、事実だ。落ち着くんだな。そして、気付くといい。そのチョーカーは私でないと外せない。私の機嫌を損ねてもいい事は無いぞ?」

「脅すんですか」

「親切心だ。冒険者は、盗賊等の同じ種族にも討伐依頼が出る。求められるのは当然首だ。そして、冒険者は依頼所から、強く言われれば逆らえない。やらないという選択肢は無い」

「方法は無いんですか」


 戦争でも無いのに殺し続けるなんて嫌だ。そんな事はしたくない。命の危機が身近に余り無い、日本人特有の甘ったれた思考かも知れない。殺さなければ、殺される。それでもなるべくなら、同じ人間を殺したくは無い。


「有るぞ。たった一つだけ」

「それは……」

「誰にも咎められない程強くなればいい。冒険者で居続けても、組合に口を出させない程強くなれば、例外として認めらる。力とは絶対的な正義なんだよ。例え王でも、ドラゴンを法で縛れないようにな。だからマギク。お前は例外になれ」


 例外になる。そうだ、それしかない。

 何処の国の誰であっても、名前を聞けば分かる程強くなれば、挑んで来るものは確実に減るだろう。盗賊達も名前を聞いただけで、逃げていくかもしれない。

 それに、そこまで名声が轟けば、俺がいる周りでは、盗賊とかは減るかもしれない。俺が抑止力になるんだ。


「分かりました。俺、強くなります」

「それでいい。やはり、男は強くないとな!私を守れる程強くなれば、惚れてやるかもしれんぞ?」

「遠慮しときます」

「……ッム。何故だ。私は容姿は整ってる方だと自覚しているんだが」

「確かに、容姿は抜群に優れてますけど、あんなに容赦なく人を人に、殺させる人はごめんです」

「じゃあ、冒険者の女は無理だな。エネメロみたいなのが好きなんだろ」


 どうなんだ〜ん〜みたいな感じで、覗き込んで来るのは少し可愛らしいけど、返り血のせいで割と怖い。怖可愛いとか、ニュージャンル過ぎて、フィルネリアさんマジヤバい。


「おっと、返り血が気になるみたいだな『ヒュプシュ』」


 フィルネリアさんが、魔法を唱えると、さっきまでの戦闘が夢だった様に、返り血どころかシミひとつない。

 やっぱり、ここでは人の命は軽いんだな。人を害した証があんなに簡単に消えるなんて。……ちょっとナーバスになってるかな。仕切り直さないとな。生まれて初めて人を殺めたんだ。一週間ぐらいは使ってもいいよな。

 この依頼が終わったら、少し宿に引きこもろう。まあその前に、金が足りなくなるかもしれないけど。


「どうだ吹っ切れたか」

「いえ、全く。落ち込みが酷いんで、スライム討伐終わったら、金なくなるまで、宿で引きこもってようと思います。外に出れそうな精神状態で無ければ、チョーカーの命令で無理矢理連れ出してください。流石に金が無いと生きれないんで」

「いいだろう。お前はパーティメンバーだからな。時間はかかるが、立ち直ると言うなら信じよう」

「ありがとうございます!じゃあ、ちゃっちゃとスライム倒しに行きましょうか」

「ふむ。空元気でも、元気を演じていれば、そのうち本当に元気になるぞ」

「善処します」


 男としては少し情けないが、さっきの五人の処理は全部フィルネリアさんにしてもらった。


 気を紛らわせる為に、異世界の情報を雑談しながら収集して目的地の森まで過ごした。


 その中で一番気になったのは地形だ。俺から言わせてもらえば、特殊地形とでもいうべきもの。勿論この世界ではごく普通の現象で、誰も注意はしてくれない。聞いておいて正解だった。

 確かに元の世界で「火は触ると熱いぞ!火傷に注意するんだ!」って言って回る人は居なかった。それはそうだ。だって、当たり前だから。

 こちらの世界では、砂地は定期的に砂や炎、強アルカリの水を吹き上げるのはごく普通の現象らしい。砂地で砂が吹き上がるのは、まだ納得しなくもないけど、炎や、強アルカリの水が吹き上がるのは納得いかねぇ。

 まあ「火が熱いなんておかしい!納得がいかない!」って騒いでも、頭のおかしい人間を見る目で見られるだけなので、決して騒いだりはしないけどね。


 建物を見た時も、ヤバい食べ物を聞いた時も、同じような感想を抱いた気がするけど、結局驚きは絶えない。自分が順応するしか無いのだ。


「マギク。気を引き締めなおせ。奥に行くぞ」

「はい。えっと、グリーンスライムとブルースライムの討伐部位って何処ですか」

「通常のスライムと同じだ」

「あーだからスライムのなんかベラベラした気持ち悪いの、フィルネリアさん集めてたんですね」

「逆に何だと思ったんだ」

「いや、スライム好きなんだなーと」

「そんな訳ないだろ!あのベラベラしたのは『スライムの皮膜』という立派な討伐証明部位だ」

「因みにどんな感じ何ですか」

「ベチャベチャヌルヌルしてるな。しかし、スライムの消化液のせいか、死骸を食べてる割に、臭いは全くないぞ」


 うへぇやだなぁ。臭いを幻視しそう。いや、幻臭……か?


「そういえば、言い忘れてたが、この森にはスライム以外のモンスターも、普通に居るから気を付けろよ」

「マジですか」

「うむ」

「そういう大事な事は先に言ってくださいよ!怒りますよ!」

「怒ってるじゃないか」

「怒ってないです!」

「あれだな。私が言うのもなんだが、お前面倒くさい女みたいだな。エネメロみたいだ」


 面倒くさい代表にされちゃうエネメロさん可哀想。アーメン。そういえばラーメン食べたいなぁ……。


 そんな現実逃避をしていると、フィルネリアさんに現実に引き戻された。


「安心するといい。私に着いてきて、サポートしてくれるだけで、良いのだからな。それに、お前の強さなら、レベルが低くとも、戦えると思うぞ。ここのはそんなに強くない。勿論レッドスライムやネイビースライム等の例外がいる場合も有るけどな」

「頑張ります。あ、そうだ。後で武器屋紹介してください。元から持ってるこの槍のメンテナンスが、1人じゃどうにもなんなくって」

「分かった。腕のいい鍛冶屋を紹介しよう。では、行くぞ」

「はい!」


 しっかりと踏みしめた青草は、仄かに戦いの緊張感を助長させた。

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