第12話
「私は、あなたと……キス、したいです」
でも、恥ずかしいことは恥ずかしい。
だから、聞こえるか聞こえないかの声でぼそぼそと呟いたのだけど、彼はしっかり私の意志をキャッチしてくれた。
さすがに”キスしたい”と、宣言してからされることになるとは思わなかったけれど、久喜さんらしいといえば久喜さんらしい気もする。
私は瞳を閉じて、彼の吐息が近づいてくるのをじっと待った。
少しカサついた唇が、まず目元におりてくる。
そのまま頬をたどり唇を通り過ぎると、制服のブラウスの襟元に軽く押し当てられた。
突然のくすぐったさに思わず首をすくめる。
そして、ほんのわずか唇が開いた隙を狙って、おおよそ紳士的とは言えない荒々しさで、噛み付くようなキスが襲い掛かってきた。
「んん……」
微塵の躊躇いも戸惑いもなく、久喜さんの熱い舌が、私の口腔を我が物顔で蹂躙する。
これが2人のファーストキスで大丈夫なのかと疑いたくなるほど、濃厚な口づけだった。
息苦しさに思わず彼のワイシャツの胸元を握りしめると、その手のひらごと、久喜さんの大きな手に包まれてしまった。
(これが人生初のキスってわけでもないのに……!)
こうも夢中に求められると、体の芯が熱くなる。
頭がぼうっとなって、他に何も考えられなくなってしまう。
そうしてただただ久喜さんの手腕に翻弄されていると、彼は空いている方の手で、私の胸や腰をさわさわとまさぐり始めた。
(ちょちょ、ちょっと! ちょっと、ちょっと! ここは会社なんですけどー!?)
「ん……んん!」
抗議の声をあげようにも、みっちり唇をふさがれていては叶わない。
バタバタと手足を暴れさせるよりほかに、彼を動きを止める手立てはなかった。
けれど、ぐいぐいのし掛かってくる体はビクともせず、私は押し倒されるまま、テーブルの上にゴロンと寝かされてしまった。
疲れ切った顔をしていたくせに、一体どこにそんな体力が隠されていたのか。
手慣れた手つきで、制服のリボンがしゅるんと抜かれる。
(―――何!?)
咄嗟に私は脳内で、本日の下着の状況を思い出す。
でもどれだけ今朝の記憶をさかのぼろうとしても、二日酔いの頭で選んだ下着は色さえも曖昧だった。
(まさか最後まで、ここで致そうってんじゃないわよね!?)
それはないと思うが、久喜さんの手はすでにベストのボタンを外しにかかってきている。
もう一方の手は器用にも、スカートのすそをまくりあげようとしていた。
(貴様は千手観音か!)




