第05話
「君は本当に、自分の才能と魅力を全く理解していないんだな」
どうしてなんですかと問いかけると、半ば呆れたようにたしなめられてしまう。
「俺は君ほど強情で、自分の信念を曲げない女性を我が社で見たことがない。確かにまだまだ発展途上……、荒削りな点も多いが、それはつまり伸び代があるということだろう?」
「で、でも……桜井さんとか……」
「は?」
「秘書部の桜井奈津子さんです! 彼女だって意思がはっきりしてて、すごく芯が強いじゃないですか」
……この期に及んでまで、彼女を引き合いにだす自分が恨めしい。
でも、この場ではっきりと、久喜さんの彼女に対する感情もきちんと聞いておきたかった。
「ああ……彼女か……」
彼はしばらく空を見つめた後、ようやく桜井さんのパーソナルデータに思い当たったようだった。
「確かに、彼女も意思が強い女性だ。だが君と違って、彼女には可能性がない。良くも悪くも自分の道を、すでに見つけてしまっている」
「……よくわかりません」
「俺は、柔軟でしなやかな女が好きなんだよ」
そう言って久喜さんは含みのある笑顔を見せたが、まだいまいち理解できない。
眉間にしわを寄せて、どういう意味なのか必死に考えていると、急に前髪を上げられ、額にふわっとキスされてしまった。
「……久喜さん?」
「俺は君のそういうところが、好きってことだ」
まだ理由をきちんと飲み込めていないものの、目の前でにこやかに告げられた以上、追加で質問することはできなかった。
(これだけ私のことを好きって言ってくれているのに……他に望むことなんてないわ)
私は「はい」とだけ簡潔に返事をしてから、再び久喜さんの胸に顔を埋めた。
「……2年経っても、営業部時代と変わらない輝きを持っていたら、俺はその社員を自分の補佐に決めようと思った」
「ってことは……この部署の計画は2年も前から立てられていたんですか……?」
「ああ、買収の話自体も、3年以上前から水面下で動いていたよ」
今になって知らされる真実は、すべて私の想像力の許容範囲を超えていて、うっかりするとすぐさま知恵熱が出てしまいそうになる。




