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その上司、俺様につき!  作者: 皇ハレルヤ
とにかく出会いは最低最悪
9/98

第09話

「凄腕の役員……って誰?」

あまりにも抽象的な表現に、信じていいのかどうか戸惑ってしまった。

けれど、やっと先月末に正式に役員着任の情報が公開されたのだ。

“凄腕役員”は全国8カ所にあるアスタルテの支社を転々とし、時には海外の支社からもお声がかかる、まさに凄腕らしい。

吸収合併で過渡期を迎える今、敏腕っぷりを発揮して人事を根底から見直す……との案内だった。

でも公開されたのはたったそれだけで、氏名や年齢、経歴などは未だ明かされていない。

(社内でも限られた人しか知らなかったのに、そんな極秘情報をいち早く聞きつけるなんて。飯田くんの人徳の賜物だよね)

彼の面倒見が良く、困っている人を放っておけない性分なのは、誰よりも知っている。

そんな飯田君が、一体どうしてここにいるのだろうか。

「遠藤! やっと見つけた!」

「え? 何? 聞こえないよ!」

お互いに大声を張り上げながら歩みを進め、やっと横断歩道の中ほどで会話らしい会話を交わす。

「探したんだぜ、遠藤! どうしたんだよ、昨日あんなに『明日が楽しみ!』って張り切ってたのに。新年度早々遅刻なんて、らしくないな」

飯田君が私を探しにやってきたということに、驚きを隠せない。

「探したって……、だって会社は!?」

「あー、いや。ここで立ち止まってるのは危ないし、とりあえずここは渡りきろう?」

方向転換した飯田君に背中をぐっと押され、会社の方向に促される。

(もしかして、私、悪い意味で呼び出しされたりしてんのかな……?)

私の背中に左手を当てて、ぐんぐん歩く飯田君の表情は快活だ。

とても悪いニュースを運んできているとは思えない。

そして広い道路を渡り終え、歩道に入ったところでようやく飯田君が口を開く。

「今日ってほら、例の役員の配属日じゃん。人事を一任するっていう」

「うん……今月から面談が始まるんでしょ?」

何を言いたいのか測りかねて、疑うような口調になってしまった。

(ここまで飯田君が私を迎えにきたってことは、もう急がなくていいのかな……)

よくよく見れば、飯田君は鞄を手にしていない。

しかも、社員証を首から下げている。

これは一度出勤して、それから私を探しに外に出たと判断して間違いないだろう。

ひとまず、遅刻の件はどうにかなりそうだ。

ホッと胸を撫で下ろし、彼の歩調に合わせて歩く。

「ってか、なんか服汚れてない? 大丈夫?」

(……やっぱり、誰が見てもこれが汚れというのは一目瞭然なんだ)

模様です、なんて誤魔化すことは無理そうだった。

ならば今日はいっそ、制服で家まで帰ろうかと真剣に悩んでしまった。

「……朝からちょっとトラブルに巻き込まれたの。これはその事故みたいなもので」

「事故? 怪我とかしなかったか?」

「うん、それは大丈夫」

こういう小さな気遣いができるところが、飯田君のいいところだ。

(なんで彼女ができないのか、本当に不思議だわ……)

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