第03話
というか、はっきり言って全然嬉しくなんかない。
何が悲しくて、好きな男性に『男顔負けのガッツがあって』なんて言葉を、面と向かって言われないといけないのか。
そんな私の複雑な乙女心は伝わらなかったのか、久喜さんは「まあまあ」と穏やかに笑った。
「会社のために、生き生きと働いているって意味だよ。君から上がってくる報告書や営業成績を見て、俺はいつもそう思っていた」
「私の報告書を確認されてたんですか!? 全然知りませんでした……」
定期的に報告書は上司に提出していたけれど、まさかそれが彼のところにまで渡っているなんて、まったく思いもよらなかった。
久喜さんのことだから、この調子で全支社全社員の書類をチェックしていたのかもしれない。
そしておそらく久喜さんはその頃から、再配置プロジェクトの構想を練っていたのだろう。
(本当に、バイタリティーのある人だわ……)
この人はどこまで、未来の計画を見据えているのだろうか。
私は思わず、感嘆の息を漏らした。
「君の顔こそ知らなかったけどね。でも東京本社にいる”遠藤遙”という社員のことは、ずっと気になっていた。いつか会って、直接話をしてみたいと思っていたよ」
出会う前から私のこと気にかけてくれていたなんて、何だか嬉しくなってしまう。
我慢できずに、へへへ……とニヤける私を見て、久喜さんは何を思ったのか、突然ガタッと席を立った。
「ど、どうかしましたか?」
こちらに向かってくる長身に驚いて尋ねると、彼は2人の間にあったデスクの上に腰を下ろした。
そして、椅子に座ったままの私に、「おいで」と手を差し伸べる。
お馴染みの無表情はどこへいったのか。
彼は穏やかな笑みをその整った顔立ちに浮かべていた。
会社なのに、とか。まだ就業中なのに、とか。
自分を引き止める言い訳が幾つも出てきたけれど、彼からのお誘いはあまりにも魅力的で抗えなかった。
目の前に伸ばされた手をそっと受け取ると、グイッと机の上まで引き上げられる。
久喜さんに肩を抱かれるかたちで、私は彼の隣に寄り添って座った。
(ドキドキするのに……安心する……)
相反する気持ちを心に抱きながら、彼の広い胸に存分に甘えた。




