表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その上司、俺様につき!  作者: 皇ハレルヤ
午前9時の社長室
78/98

第03話

コポコポと水が湧く、癒しの音色が聞こえる。

(願わくば、帰りの時には席をはずされていますように……!)

私は心の中で神様に祈りつつ、現在置かれている自分の状況を改めて振り返った。

(まさか会社で、こんな時間に、こんな場所で、こんな経験をするだなんて……)

社内の一室だとは思えないほど、この部屋にはゆっくりと時間が流れている。

私はうっかりすると閉じそうになる瞼を、必死に気力で堪えた。

(……しかも社長公認だなんて)

二日酔いの上に寝不足も祟って、気を抜くと寝てしまいそうになる。

「お待たせしたね」

いよいようつらうつらと船を漕ぎそうになった時、社長がこちらを振り返った。

そして大きめの白いマグカップを手にして、漆黒の液体をなみなみと注ぐ。

芳しい香りが部屋いっぱいに広がった。

「お代わり自由だ。好きなだけ飲みなさい」

そう言って、座ったまま何の手伝いもしなかった私にカップを手渡してくれる。

「も、申し訳ありません。な、何もせずに見ていただけで……」

「いや。これは私の数少ない楽しみなんだ。誘ったのもこちらなんだし、君は気にしないでコーヒーを味わってくれればいい」

ふと、その時、なぜか久喜さんの顔が脳裏に浮かぶ。

(……どうしてこんな時に彼のことを)

はっきりとした理由はわからないが、不思議と社長の口調に久喜さんの面影を重ねてしまったのだ。

(社長と話し方が似ている……?)

心に妙なひっかかりを覚えたけれど、それ以上深く考えることは、状況が許してくれない。

今は取るに足らない勝手な妄想より、手の中にある美味しそうなコーヒーに集中したかった。

こだわりがある喫茶店などに行かなければ、これほど手間隙かかったコーヒーを飲む機会はないだろう。

香りだけで十分満足してしまいそうになる。

私はありがたい気持ちでいっぱいになりながら、マグカップに口をつけた。

「……美味しい」

ふわっと鼻腔に広がる芳醇な香ばしさ。

追って、しっかりとした苦味と酸味が舌の上に広がった。

「美味しいです……」

なんだか泣きそうになる。

こんなにも満たされる飲み物がこの世にあったのかと、心から感動してしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ