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その上司、俺様につき!  作者: 皇ハレルヤ
午前9時の社長室
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第02話

「も、申し訳ありません……」

他にエレベーターに乗っている人がいなくてよかった。

もしこの場に他の誰かがいたら、しばらく社内は私の噂で持ちきりだっただろう。

情けなさと痛みのダブルパンチでじわじわ涙目になる。

「いやいや、泣かんでもいい。そうだな……」

社長は白髪まじりのあご髭を撫でながら、ふむ……と考え込んだ。

一体何を言われるのかと、ヒヤヒヤした気持ちで見守る。

(自宅に強制送還させられて、始末書ってこともありうる……!?)

しかし、社長の口から飛び出した言葉は予想をはるかに超えるものだった。

「良かったら、これからコーヒーでも飲まんかね」

「……は? コーヒー、ですか?」

この状況が上手く飲み込めない。

「あ、いえ、お誘いは大変光栄なのですが、始業時間が迫っていまして……」

返事をしている間に、エレベーターが私の目的の階に到着する。

ここで降りなければいけませんので……と控えめに主張したものの、社長は思わぬ強硬手段に出た。

「いやいやいや、久喜君には私から言っておくから」

こちらの命令通り静かに開いた扉を、「閉」ボタン連打でなかったことにしてしまったのだ。

「な?」

駄目押しと言わんばかりに微笑みかけられると、頷く以外選択肢は残されていない。

「は、はい。喜んで……」

そうして私は入社以来、二度目となる社長室滞在を経験することになったのだった。

「ブラックは平気かね?」

私が「はい」と返事をすると、社長は手際よく古めかしいコーヒーサイフォンに、ミネラルウォーターをセットした。

社長室の片隅にこんなに本格的なコーヒーサイフォンが一式揃っているなんて、前回訪れた時は気がつかなかった。

私は勧められるまま黒い革張りのソファに座り、先ほどから社長が滑らかな動作で作業を進めていくところを、ただただぼうっと眺めている。

「眉唾かもしらんが、二日酔いにはカフェインが効くと言うしな。きっと、気休めくらいにはなるだろう」

そう言いながら、フィルターを準備したりコーヒー豆の袋を用意したり、終始ウキウキした様子でコーヒーを淹れてくれた。

(……ここにたどり着くまで、内心では修羅場を迎えちゃったわけだけど)

私は上機嫌の社長に気づかれないように、ホッと小さなため息を吐く。

社長室には、隣接している秘書室を通らなければ入室することができない。

今日ほど桜井さんに見つかりたくなかった日はないというのに、私の願いもむなしくあっさり出会ってしまったのだった。

「おはようございます!」

いつもと変わらない華やかな笑みを向けられてしまっては、挨拶をせざるを得なかったけれど……。

何が悲しくて、恋敵にすっぴんを晒さなければならないのか。

桜井さんが今何を考えているのか、想像するだけで胃が痛くなってしまった。

(……でも、久喜さんに会う前に冷静になる時間ができてよかったのかも)

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