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その上司、俺様につき!  作者: 皇ハレルヤ
とにかく出会いは最低最悪
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第07話

かつて、こんなに息急き切って走ったことがあるだうか。

今から頑張ったところで、どうあがいても始業時間に間に合いはしない。

でも、こんな大事な日に遅刻するなんて、私の面目が丸潰れになってしまう。

どうにかして、それだけは避けたかった。

ことあるごとに総務部の上司や人事部の権力者達に、さりげなく異動の根回しをしてきた私の草の根活動が、一度の失敗で全部パアになってしまうのだ。

そうなることを予見しておきながら、指を咥えて何もせずにいるなんて、私にはできなかった。

ここから会社まで歩いて15分。車なら5分、走れば8分。

信号待ちの時間も考慮すれば、走ることが唯一私に残された選択肢だ。

(ヒールもげそう……!)

カンカンカンッと高いヒール音を響かせて、髪を振り乱して爆走する28歳女(配偶者なし・恋人なし)。

すれ違う人は私の必死の形相にまず一度ギョッとし、ドロドロに汚れたワンピースにまたギョッとする。

なりふり構っていられないとは正にこのことだ。

(人にはねぇ、譲れないタイミングってのがあるのよ! 私にとって、今がその時なの!)

あからさまに向けられる好奇の視線を、弾き返す勢いで走った。

「はあ、はあ……もしかしたら、万が一……間に合うかも、しれないし!」

点滅していた緑の信号が、あともうちょっとのところでパッと赤に変わる。

(―――ああ、間に合ってほしいけど、でも、これ以上走るのはしんどい!)

急がなければいけない自分にとっては、赤信号が何よりの敵であるはずなのに、日頃の運動不足がたたってか「これで堂々と休憩できる!」なんて内心喜んでしまった。

相反する気持ちを抱えつつ、確認した腕時計の針は午前8時45分を示している。

今日は新年度の社長挨拶が8時50分から始まる予定なので、本来ならもう会社に着いて制服に着替えて、会議室で待機していなければならない時間だった。

(神様……!)

総務部に異動するという話が出た時、私は何度も何度も神様にお祈りした。

「これから生活態度を改めますから、お願いですから異動だけは勘弁してください」

それでも、私の異動の辞令はでかでかと掲示板に張り出された。

そこに追い打ちをかけるように、メールで全社員にも私の辞令は連絡され、各部のお偉い様方から嘲笑の的になった。

あの時、心から、神様なんて名前ばっかりで、祈ったところでどうにもならない。

そう学んだはずなのに―――。

(神様、仏様。どうか、どうか間に合いますように!)

前かがみになり、ゼエゼエと息を整えつつ、かつて散々罵った聖なる存在達に懇願する。

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