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その上司、俺様につき!  作者: 皇ハレルヤ
仕事に生きると決めたのに
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第06話

人をかき分け、パタパタと私に駆け寄ってきたのは、社内規定ギリギリの明るさに髪を染めた若い女の子だ。

「遠藤さんなら、何か知ってるかなって思ってぇ~」

やめなさいよと隣でたしなめている先輩も、好奇心は抑えきれないのかキラキラした瞳で私を見ている。

「こ、こん、やく……しゃ?」

「そうです~。なんか、良いところのお嬢様ってもっぱらの噂なんですけど~」

そろそろとかがんでスマホを拾い上げつつ、頭の中を整理する。

(久喜さんに……婚約者……)

「でも、ウチの社員っていう噂もあるしぃ?」

”社員”というキーワードが彼女の口から出た途端、桜井さんの可憐な姿が脳裏をかすめた。

(まさか……!)

血の気がざあっと全身から引いていく。

拾い上げたはずのスマホを、また床に落としてしまった。

「あ、ああ……すみません、ちょっとびっくりしちゃって!」

二度目の大きな音に、私は却って落ち着きを取り戻すことができた。

「婚約者……の話は、詳しくわからないんですけど、おそらくいらっしゃるんじゃないかと思いますよ!」

愛想笑いを浮かべ、落としてしまったスマホを慌てて拾う。

「素敵な人ですからね、久喜さんは!」

そう言って私はニコッと微笑んだ。

「やっぱり~!」

必要なことさえ聞ければ、もう私個人には興味がないのだろう。

彼女はくるっと先輩社員の方を向くと、大げさに泣き真似を始める。

「先輩聞きました~? 久々の一目惚れだったのに~! もう失恋決定なんて~!」

「ほ、ほら! エレベーター来たよ。乗ろう? え、遠藤さん、失礼しました!」

私の様子が少しおかしいことに気づいたのか、先輩社員は焦った様子で後輩を促すと、定員ギリギリのエレベーターに2人揃って体を押し込んだ。

笑顔で会釈をして彼女達を見送ると、私は別の列に並んでエレベーターを待つ。

(……久喜さんに婚約者、か)

自分でも不思議なくらい、心も頭も冷静だ。

普通に考えて、パートナーがいない方がおかしい。

見た目の好みは個人差があるだろうけど、十中八九”イケメン”と認定される整った顔立ち。

働きぶりは社長のお墨つきだし、住まいもインテリアもハイグレードでセンスがいい。

(性格はちょっとアレだけど……)

でも、好きな女性に対しては紳士なのかもしれない。

誰よりも優しく、誰よりも穏やかに……、相手を慈しむ人なのかもしれない。

私は久喜さんと彼の婚約者が、映画のワンシーンのように仲睦まじく寄り添っている姿をイメージして、クスッと笑ってしまった。

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