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その上司、俺様につき!  作者: 皇ハレルヤ
仕事に生きると決めたのに
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第05話

「何よ。何で謝るの?」

余計なことを言うと、さらに気を使わせてしまうことになる。

できるだけ自然に去ろうと思った。

「今日は朝が遅かったから平気。心配しないで!」

その時、ランチ帰りの社員がぞろぞろと玄関に入ってくるのが見えた。

「エレベーターが混む前に、私行くね」

それじゃあと手を振る。

飯田君はまだ何か言いたげな表情を浮かべていたが、知り合いの社員に声をかけられたようで、やっと私から視線をはずした。

5分前に戻ると約束したのに、急がないと遅刻してしまう。

できる限り小走りでエレベーターホールに向かったが、エレベーター待ちの行列がもうすでにできあがっていた。

(失敗したか……)

はあっと後悔のため息をつく。

何のためにわざわざ1階まで降りてきたのか。

私はがっくりと肩を落とした。

貴重な休み時間を、文字通り浪費してしまった。

ランチを食いっぱぐれた胃が、グーグーと抗議の声を上げる。

(面談中には鳴らないでよね!)

胃のあたりをぎゅっと押さえつつ、満員になったエレベーターを一機見送る。

もしかしたら階段の方が早いかもしれない……と考えた時、新入社員だろうか。

背後から、若い女の子の舌ったらずな声が聞こえてきた。

「え~? でもそれって本当なんですかぁ~?」

別段、聞き耳を立てようと思ったわけではないのだけれど、やけに耳に届く声だった。

そのせいもあって、図らずも会話の内容をひと言残さずすくい上げてしまう。

「らしいわよ。でもしょうがないよね~、あんなにスペック高いんだもん」

(……これはたぶん、さっきの子の先輩だな)

幾分か落ち着いた声だけれど、それでも私よりは若い印象だ。

(どこの部の人だろう? システム部かな?)

比較的、平均年齢が若い部署を思い浮かべたけれど、確証などない。

少し気になったものの、振り向いて顔を確認するまで興味はなかったので、ネットニュースでもチェックしようかと、私はスマホの液晶画面を叩いた。

「でもショックです~! 久喜さんに婚約者がいるなんて~!」

その声を聞いた途端、左手でしっかり持っていたはずのスマホが、するりと手のひらから滑り落ちた。

カツーンと固い音が響き渡り、あたりが一瞬、静寂に包まれる。

(―――え?)

声がしたあたりを振り返ると、予想通り若い女子社員が2名、驚いた顔で私を見ていた。

カラカラと足元で回転していたスマホが、ようやく止まりおとなしくなる。

「あ! 遠藤さん! ……ですよねぇ!?」

よく通る声が嬉しそうに弾んだ。その声をきっかけに、周囲に再びざわめきが戻る。

「あのう、久喜さんに婚約者がいるって噂、本当なんですかぁ?」

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