第04話
ぽつんと残ったサンドウィッチをチェックすると、すべて同じ種類、卵サンドのみだった。
(卵サンドの気分じゃないけど、ランチにドーナッツっていうのも変だよね)
だとすると残された選択は、カップケーキしかない。
(カップケーキがランチ……それも虚しいな……)
決め切れず、1人でうんうん唸っていると、急に耳元で男性の声がした。
「―――今からお昼なん?」
「ぎゃっ!」
左肩に生暖かい温度を感じ、思わず飛び上がってしまった。
「いいい、飯田君かぁ……びっくりさせないでよ!」
振り返ると飯田君が、顎を押さえて床にうずくまっている。
どうやら背後からそーっと忍び寄り、私の肩に顎を乗せたらしい。
「じ、自業自得だからね?」
……と口では言いつつも、舌を噛んでいたら一大事だ。
私は心配になってしまい、いまだに立ち上がれない彼の顔を覗き込む。
「大丈夫……?」
「……たぶん」
ようやく顔を上げた飯田君の瞳は、今にも涙があふれそうになっている。
「ご、ごめんね?」
「いや、俺も……悪かったから、気にすんな。いや、それにしてもまともに顎に入ったわ……」
そう言いながら何とか立ち上がったが、足元がフラついていた。
「医務室行かなくて大丈夫……?」
「そこまで酷くないからいいよ」
「な、ならいいんだけど……」
飯田君が撒いた種とはいえ、私にも非がある。
「ごめん。自分でもあんなに驚くとは思わなくて」
心からお詫びの気持ちを伝えると、彼は何を思ったのか、グッと右手の親指を立てて見せた。
「……いいジャンプだった」
一瞬ポカンと呆気に取られたが、これも飯田君なりの気遣いだろう。
「もう! 何言ってるのよ、バカ!」
彼の仕向けてくれた通りに軽くツッコミながら、久々にほっこりした気持ちを味わう。
(他愛もないことで、こんなに笑えたのは久しぶりかも……)
そもそも飯田君と話すこと自体が面談の日の夜に、一緒に飲みに行った以来だった。
最近どうしていたのかと、喉元まで言葉が出かかったが、部屋に戻る時間にセットしておいたスマホのタイマーがポケットで震えだす。
タムリミットのアラームだった。
「あ、もう戻らなきゃ……」
「あれ? これから昼なんじゃなかったの?」
「うん……そのつもりだったけど、もうすぐ午後の面談始まっちゃうから」
結局何も食べられなかったと内心がっかりしたが、悟られないように笑顔で答える。
「……なんか、ごめん」
飯田君はいろいろと敏感に空気を読んだり察するタイプなので、誤魔化すにも気を揉むのだ。




