第05話
「……こちらもそんなに暇ではないんで、さっさと話をまとめたいんですけれども。で、おいくら支払えばよろしいですか?」
ぽかんと突っ立ったままの私に、うんざりといった体でイケメンが告げる。
(違う、違う、そうじゃない! そうじゃないだろ!)
私は再びハッと我に返ると、先ほどからお腹でフツフツと煮え繰り返っている憤りを、今度こそ真正面から失礼なイケメンにぶつけた。
「あ、謝ってくださいよ!」
ビシッと人差し指を彼に突きつけ、不服を申し立てる。
「この場所に、何の重要なご用事がおありになるのかわかりませんがね! いきなり車を急停止させて、あわや交通事故かって状態だったのに、降りてくるなりお金の話ばっかりで、ひと言も謝罪しないとかおかしくないですか!?」
相槌を打つ暇も与えず、一気にまくしたてた。
「今、あなた、人を轢きそうになったんですよ!? わかってます? 私、もしかしたら死んでたんですよ! 今、ここで、私が、あ・な・た・の・せ・い・でっ!」
学生時代、音楽の先生に褒められた自慢の腹式呼吸で、一言一句はっきり区切って意見する。
イケメン野郎のびっくりした表情を見て、わずかではあるが溜飲が下がった。
しかし、周囲の人からの心配そうな視線が、今や好奇の眼差しに変わっていることがはっきりと感じられる。
(それがどうした! 周りの目が怖くて主張ができるか! さあ、早く謝りなさいよ!)
周囲の視線に怯みそうになる自分を奮い立たせる。
「普通、常識的に考えて、一にも二にもまず謝罪じゃありません?」
(よし! 決まった!)
私の渾身の決め台詞に、イケメン野郎が何やら考え込んでいる。
そして今度こそ、今度こそ謝罪の言葉が聞けるかと思ったのに、私の期待は再び砕かれた。
「……ふう」
まさか、まさか、まさか!
男のくせにやたら艶やかな唇から漏れたのは、信じられないくらい大きなため息。
「―――はい?」
思わず間抜けな声が出る。
(何勝手にため息なんか吐いてくれちゃってるのよ! ため息吐きたいのはこっちのほうなんですけど!?)
この人に私の話を理解させるためには、一体どう説明すればいいんだ―――頭を抱えたくなった瞬間、
「ああ、あなたが俺の顔を見るなり、あんまりギャアギャア騒ぐもんだから、謝罪することをすっかり忘れていたんですね。それはそれは、失礼いたしました」
完全にこちらをバカにしたとしか思えない言葉が、イケメン野郎の口から発せられた。
申し訳程度につけられた謝罪が”付け足しです”と、自ら言っているようなものだった。
「はあ!?」
「知っている人かなと思って、車を停める前に何度かクラクションを鳴らしたんですけど。生憎、無反応だったもので」
「く、クラクション……?」
思いもよらない言葉に、頭の整理がついていかない。
「ええ。携帯を見ているわけでもないし音楽を聴いてるわけでもないのに、なぜ聞こえないのか不思議でしかたがなかったんですが」
(やばい、クラクションなんて全然記憶にない!)