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その上司、俺様につき!  作者: 皇ハレルヤ
天国から地獄
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第02話

「あー、やばい。マジで恋しちゃうかも」

―――こんな風に、突然ボソッと独り言をつぶやいてしまうほどの重症。

「遠藤」

ハッと口を押さえるも、時すでに遅し。

「……な、なんでしょうか?」

「集中しろ」

ヒヤヒヤしながら返事をすると、ものすごく機嫌の悪い声でシンプルに注意された。

「は、はい……申し訳ありません……」

震える声で謝罪し、慌ててデスクに意識を戻した。

資料を広げたまま、広げてから1ミリも進行していない作業を再開する。

(こんなにも仕事以外の物事に、心を奪われるなんて……)

業務に集中しすぎて時間を忘れることはあっても、誰かのことを考えて我を失うことなど、今までになかった。

深い呼吸を数回繰り返して、気持ちを入れ替える。

―――だが何度気持ちを入れ替えたところで、私の心を乱す元凶はまさに今、私の目の前にいるのだ。

総務部時代、夢中になって課金していたスマホの恋愛ゲームも、今朝データをすべて消去してしまった。

アップデートの通知が来たことで、自分がそのゲームに登録していたことを思い出したくらい、記憶のかなたに消えていた。

どうしてあんなものにあれほどハマっていたのか、自分でも不思議でしかたがない。

(だって、液晶画面の中よりも、現実の方がよっぽど―――!)

出会った頃より少しだけ伸びた髪が、形のいい額に落ちている。

最近気づいたのだけれど、久喜さんは考え事をする時、決まって右肘を机について手の甲に顎を乗せる。

そうして少しうつむくアングルになると、長い睫毛が瞬く様が私の席からつぶさに見てとれるのだ。

(もしロダンが生きてたら、ぜひ彫刻を作らせてくれって彼に懇願するに違いないわ……)

フランスの街角でポーズをとる久喜さんと、それをスケッチする彫刻家。

(むしろ、その2人の図を私が絵に描きたいくらい!)

想像するだけで、うっとりとため息が漏れる。

脳内に愛を歌うシャンソンが、ねっとりと流れた。

「……はあ」

「遠藤!」

狙い澄ましたかのようなタイミングで、久喜さんの怒号が飛ぶ。ひやっと肝が冷えた。

「す、すみません!」

そうして私は冷や汗をかきながら、本日十数回目になる謝罪の言葉を口にするのだった。

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