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その上司、俺様につき!  作者: 皇ハレルヤ
天国から地獄
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第01話

「はあ……」

久喜さんの自宅に招待されてからというもの、ため息ばかりついている気がする。

面談後の大事な事務処理中だというのに、考えるのは彼のことばかりだ。

ここでの作業が遅れれば遅れるほど、私の帰宅時間も遅くなる。

頭ではわかっているはずが、さっきからずっと何も手につかない状況が続いている。

PCの画面に表示されている時間は、午後8時過ぎ。

(3日前のこの時間、久喜さんと一緒にタクシーに乗っていただなんて、まだ信じられない……)

通されたマンションの中は外観を裏切らないゴージャスさで、久喜さんの部屋は高層の名にふさわしく、最上階の一室だった。

エレベーターも会社のものとは比べものにならないくらい立派で、内装もスピードも雲泥の差だった。

(破格の待遇で会社に迎えられているっていう噂は、本当なのかも……)

あながち、他に流れている噂にも真実が紛れているかもしれない。

あの広い部屋の月額家賃だけで、私のひと月分の給料は軽く吹っ飛ぶはずだ。

玄関の時点で生活レベルの違いを見せつけられてしまった。

ワンルーム住まいの私のお風呂場を、ゆうに超える面積の玄関だった。

続いて案内されたダイニングキッチンも、さながら5つ星ホテルのレストランのような雰囲気で……。

(料理もすごくおいしかったな……)

おそらく前日から仕込んでいてくれたのだろうローストビーフに、旬野菜の温サラダ。

私の健康を気遣ってくれていることを証明するような、具沢山のミネストローネ。

グルメ雑誌や情報番組で何度も取り上げられているベーカリーのフランスパンには、クリームチーズとアボカドのディップが添えられていた。

アルコールは断固飲まないと早々に宣言されたので、炭酸水での乾杯になったけど、十分に気持ちが満たされる晩餐だった。

料理もさることながら、器もカトラリーもひと目で高級だと知れる見事な逸品で、普段から彼がよく料理をすることが窺えた。

(部屋の掃除も隅々まで行き届いていたし、イケメンな上に仕事もできて家事も完璧だなんて!)

男性らしく、室内はモノトーンが基調のインテリアに統一されていた。

殺風景にならないよう、ところどころに観葉植物や間接照明が置かれていて、そんなさりげなさが余計にセンスを感じさせた。

リビングとキッチン、そしてトイレの他にも2つ部屋があった。

おそらく寝室と書斎だろう。

(どうしよう……! 久喜さんの嫁になりたいというよりも、嫁に来てほしいなんて思っちゃう!)

食事の時間自体は、やれアレも食べろだのコレも食べろだの、口うるさく言われ続けてしまった。

当然甘いムードとはいえない状況で、まるで実家に帰った時のような居心地だったが、それでも私は幸せだった。 

あの日から、幸福な思い出の脳内再生が止まらない。

そんなこんなで私は今、注意力・集中力がともに絶賛低下中だったりする。

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