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その上司、俺様につき!  作者: 皇ハレルヤ
名前のつけられない感情
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第14話

「行ってもいいかどうかではなく、君が来たいか来たくないかだ」

久喜さんは不思議そうに首を傾げると、静かな声でそう言った。

何を考えているのかいまいち掴めないし、私に対する風当たりだけはやたら強いし、ただそこに立っているだけで、どんな時もうんざりするくらいイケメンな久喜さん。

(あの時は、この野郎!としか思わなかったのに……)

彼の言葉を、今までとはまるで違う思いで受け止めている自分に気づく。

「私、私は……」

自覚してしまうほど熱くなった頬。

うなじまで熱を持っているのが自分でもわかる。

この感情が何なのか、はっきりとした名前が今はまだ言えなくても、体は正直に動き出していた。

「―――行きます!」

湧き上がる思いを口にした途端、全身が鎖から解き放たれたかのような、すがすがしい解放感と清涼感が私を包み込む。

「行き、たいです……」

バッグのベルトを握りしめ、素直な気持ちを告白した。

(そうか……私、この人のそばにいたいんだ。この人のことが、もっと知りたいんだ―――)

この思いを単純に”憧れ”や”恋”という言葉に収めていいのか、正直まだわからない。

でも、彼が私がそばにいることを認めてくれるなら、どこまでもついていきたい気持ちでいっぱいになる。

私は久喜さんの隣に並ぶと改めて尋ねる。

「で、どこに連れて行ってくれるんですか?」

同行する意思を告げた私に、彼は安心したように頷いた。

そして、顎をくいっとマンションの方向に向ける。

「このマンションだ」

「……お店が中に入ってるんですか?」

「店? 店など何も入っていない」

お互いにハテナの浮かんだ顔で、相手の反応を窺っている。

「お、お店じゃないんですか?」

先に沈黙に耐え兼ねたのは私の方だった。

どこに連行されるのかとおそるおそる聞いてみると、とんでもない答えが返ってきた。

「ああ。これから君を招待するのは俺の家だ」

「い、え……?」

久喜善人。彼は私を驚かせる天才なのかもしれない。

「安心しろ、下ごしらえは済ませてある。すぐに食事ができる状態だぞ」

そう言って、鼻歌でも口ずさみそうな軽い足取りで、マンションに私を案内したのだった。

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