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その上司、俺様につき!  作者: 皇ハレルヤ
名前のつけられない感情
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第11話

(危ない、危ない……)

エスコートされるままタクシーに乗り込むと、続いて久喜さんが車内に身を滑らせた。

自然な動作でシートベルトを締める彼を見て、慌てて私も肩上からベルトを引き伸ばす。

「電話でお伺いした住所までで、よろしいですか?」

運転手の声に彼は頷き、

「なるべく急いでいただけると助かります」

と丁寧に答えた。その声を合図に、静かにタクシーが走り出す。

(……他の人には礼儀正しいのに)

面談の際にも、目上の人に対してはきちんとした敬語を使い、相手を敬う姿勢も忘れない。

同じ年代や年下、新入社員には友達口調だが、それでも私に接する時とは大違いだ。

「……どこに向かうんですか?」

「着けばわかる」

こちらとしては、至って普通に質問しただけなのに、久喜さんはにべもない。

今と同じ質問を、例えば桜井さんがしたとして、それでも彼は同じように答えるだろうか?

なぜここで彼女の顔が浮かんだのか。

自分でもどうしてなのかよくわからなかったが、おそらく相手が桜井さんなら、もっと親切な態度で答えたはずだと思ってしまった。

(……無愛想を通り越して、もはや失礼の域だっつーの!)

私がそのままムッと黙りこくると、久喜さんも何も話さなくなった。

タクシーのような密室空間で、長く沈黙が続くのはつらい。

けれども、日常会話がスムーズに交わせる相手ではないし、かと言って彼を無視して運転手とだけ話すのも気が引ける。

(上司と一緒にいるのにスマホをいじるのも失礼だし。ここはおとなしく、外の景色でも眺めていよう……)

窓の外を流れる、色とりどりのネオンライト。

営業部の頃はよく移動にタクシーを利用したが、最近めっきり乗車することもなくなった。

なんだか懐かしい気持ちになって、ぼうっと夜景に見入ってしまう。 

(一体、どこまで連れて行かれるんだろう―――)

未だに久喜さんと2人でタクシーに乗っているだなんて、信じられなかった。

現実と夢の間にいるような、ぼんやりとした気持ちになる。

乗り込んだまま、ずっと無言でいる私達を気遣ったのか、初老の運転手がおずおずと話しかけてきた。

「会社帰りですか?」

「ええ、そうなんです」

軽い調子で久喜さんが答える。

「ここのところ残業が続いていたんでね。ちょっと英気を養おうと思って」

これなら話しかけても大丈夫そうだと安心した様子で、引き続き運転手は久喜さんに話題を振る。

「今は年度始めで、会社勤めの方はお忙しい時期ですもんね」

「そうなんですよ。きちんとした食事も摂れない有様でして」

「いいですね。じゃあ今日は、おもてなしなんですね」

彼の返答を受け、的を得たりと運転手が笑顔になった。

久喜さんも唇に笑みを浮かべ、「ええ」と頷いている。

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