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その上司、俺様につき!  作者: 皇ハレルヤ
名前のつけられない感情
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第10話

女子社員は営業部以外、制服の着用が義務付けられているため、久喜さんは私の私服を把握していないはずだった。

(ドレスコードに引っかかって入店拒否、なんてことになったら……)

財布にお金がないなんていうレベルとは、次元が違う。

かと言って、今から帰宅して着替えなんて、できるわけがない。

「どこまで上司に恥をかかせたら気がすむんだ。君なんか誘わなければよかった!」

いかにもうんざりといった体で、私を罵る久喜さんのイメージがまざまざとまぶたに浮かぶ。

「いざとなったら、謝って帰っちゃえばいいよね……」

どうせ思いつきで私を誘ったのだろうし、予約が必要なお店に連れて行かれる……なんてあるはずがない。

私はソファの柔らかさにどっぷりと甘えつつ、久喜さんを待った。

目を閉じると、あまりの心地よさにうつらうつらしてしまう。

(あ……やばい……このまま寝ちゃいそう……)

抗いがたい睡魔に意識を手放しかけたその時、ソファの背から当然、ひょいっと見慣れたイケメンが顔を出した。

「……起きろ」

「ヒッ!!」

どうして人は本当に驚くと、「きゃあ!」とか「やだ~!」とか、可愛い悲鳴があげられないものなのか。

まるで怪物に出会ったかのような、微塵も色気がない悲鳴をあげてしまい、たまらなく恥ずかしくなる。

自責の念にかられている私は、さぞかし赤い顔をしていることだろう。

でも久喜さんは、そんな私を意に介した風もなく、ソファの後ろから覗き込んだままの姿勢で、静かに告げた。

「では、行くぞ」

「いいい、行くってどこへですか?」

彼は私の質問には答えず、軽くこちらを一瞥しただけで、スタスタと歩き出してしまった。

(普通、こういう時って女性の歩幅に合わせない!?)

そんなに足が長いことを自慢したいのか!と言いたくなるほど、颯爽と前を行く久喜さん。

私は彼を見失わないように、全力で後を追いかけた。

正面玄関の自動ドアを出ると、黒塗りのタクシーが一台停っている。

後部座席のドアに手を添えて、久喜さんが「乗れ」と言わんばかりに私を待ち構えていた。

黒く光る車体に照明がキラキラと反射していて、とても綺麗な光景だった。

ひと昔前の少女漫画やトレンディードラマなら、背景にバラの花びらが優雅に舞うCGが合成されるに違いない。

思わずポーッと見惚れてしまいそうになったが、そうだこの人は性格に問題があったんだと、自分を現実に引き戻す。

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