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その上司、俺様につき!  作者: 皇ハレルヤ
名前のつけられない感情
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第07話

『私は秘書部での業務に、やりがいを感じております。他部署での経験がいずれ秘書部で役立つのであれば、どんな異動も受け入れる所存です』

『特に今現在、他に気になる部署はないと?』

『はい。ですが経理部や営業部、システム部など社内の根幹に携わる部署の知識は、機会があれば積極的に学びたいと考えております』

大抵の人が目を逸らして考え込む質問にも、堂々と答えていた姿が記憶に蘇る。

(自分がこれからどこで何をしたいのか、明確なビジョンを持っている人……)

私が営業部を志望したのは、人と話すことが好きだからだ。

各々にノルマというわかりやすいゴールが設定されているのも、とてもやりがいがあった。

でも、飯田君が言ったように営業部ではない場所でも、コミュニケーションは取れる。

相手を「社外の人」と限定する必要は無い。

それに、今の人事マネージメント事業推進部も、対人コミュニケーションがメインではないが、業務内容は十分刺激的だった。

(私……本当は、何がやりたいんだろう……?)

ぼんやり思いを馳せながら、手は休まず機械的に動かしていると、ふいに嫌な音を立ててシュレッダーが停止してしまった。

「やだ、紙詰まり……?」

引っかかった紙を掃除しても、点検ランプはチカチカと点灯し続けている。

その場で思いつく限りのエラー対処法を試してみたが、シュレッダーの機嫌は直らず、ヘソを曲げたままだ。

「ん、もう……!」

イラつきを隠せないまま、シュレッダーの使用マニュアルを探す。

(マニュアルだけをまとめたファイルが、どこかにあったはず……)

そうして本棚で目的のファイルを探していると、突然フッと背後から大きな影が忍び寄ってきた。

「ヒッ!」

何事かと慌てて振り返ると、ありえない位置に久喜さんが立っていた。

パーソナルスペースで言うところの「密接距離」だ。

自分から45センチ以内のエリアで、ごく親しい人だけに近づくことが許される場所。

そこに、まさかの人物が存在している。

「ななな、なんです……?」

うっかりオーバーアアクションを取ると、今にも触れ合ってしまいそうなほど近い。

心臓がドッドッと早鐘を打つ。顔面にカーッと血がのぼるのがわかった。

「遠藤、食事はまだか」

「……しょしょしょ、食事って、晩御飯のことですか?」

震える声で答える私を、ほぼ真上から見下ろしつつ、久喜さんはいつもの無表情で簡潔に告げる。

「そうだ。晩御飯はまだ食べていないのかと聞いている」

心臓の高鳴りはまだ治りそうにない。

(男の人とこんなに近い距離になったの、一体何年振りだろう……)

場所は会社。しかも相手は直属の上司だというのに、不謹慎にも胸がときめてしまう。

(こんなに近距離なのにイケメンって、もはや犯罪!!)

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