第06話
今までにも、営業先の会社や企業で美しい人にはたくさん出会ってきた。
それを考慮したとしても、桜井さんの可愛らしさは群を抜いている。
(比較したところで、私の目が大きくなるわけでもないし、色が白くなるわけでもないけど)
外出の際、UVケアを怠ったせいで目元にはポツポツとシミが出来始めた。
手入れの行き届いていない指先はささくれだらけだし、爪もボロボロ。
毛先がパサパサの髪は、バレないようにいつも結んで誤魔化している。
仕事が忙しいことを理由に、エステもネイルサロンも美容院もめっきりご無沙汰だった。
でも、忙しくても身なりをきちんと整えている人が、今まさに隣に立っている。
(こんな人と一緒に歩いたら、きっと自信をなくしてしまう……)
おざなりに手櫛で前髪を2、3度とかすと、そそくさと退散することに決めた。
「じゃあ、私、そろそろ行きますんで」
無言で立ち去るのは失礼だと思い、最低限の挨拶をする。
「はい。また後ほど」
……私が男性だったら思わず抱きしめかねない、大いに庇護欲を掻き立てられる微笑みだった。
(久喜さんも、桜井さんみたいなタイプには優しいのかな?)
ふと、今も部屋で仕事を続けているであろう、上司の顔が頭に浮かぶ。
(こういう女の子らしい、優しい子をサポート役に選んだほうが良かったのに)
いつまでも存在するわけではない不確かな部署なので、いつまで彼と一緒に仕事できるのかもわからない。
(部署がなくなるまでの間に、いつか聞けたらいいな……)
どうして私を補佐役に任命したのか―――。
これだけは絶対に確認しようと決意して、私は部屋に戻った。
その後の面談もつつがなく終え、私はここのところたまってきている雑務の整理に取り掛かった。
こまごました経費の請求や消耗品の発注、不要な書類のシュレッダーなど、普段後回しにしてしまいがちなものを片づけていく。
2人しかいない部署だが、大きなシュレッダーが部屋に設置されているのはありがたかった。
部署として扱う情報が個人情報ばかりなので、どんな書類もそのまま廃棄することはできない。
私はガリガリと用紙を機械に食べさせては、また新たなエサとなる紙を手にし……という動作をしばらく続けていた。
(人様の面談について考えるの、よくないことって頭ではわかっているのに)
内容を他言しないのは当たり前だか、特定の人とのやりとりばかり思い出すのも、よろしくないはずだ。
それなのに、お手洗いで会った桜井さんの面談シーンを、何度も何度も頭の中で再生してしまう。
久喜さんの矢継ぎ早な質問にも物怖じせず、彼女は自分の意見をきちんと主張していた。
(外見はほんわかした感じの人なのに、芯はしっかりしているんだな……)




