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その上司、俺様につき!  作者: 皇ハレルヤ
名前のつけられない感情
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第03話

普通、人の調子が気になる時は、直接質問するのが筋だと思う。

声をかけるまでもない、もしくは、相手に気づかれないように様子を窺うなら、チラチラ盗み見るとか、バレないように影からこっそり見守るとか、やり方はいくらでもあるはずだ。

これだけ私を見ているのだから、きっと何かあるのだろう。

そう信じて、

「何か……?」

と聞いても、

「いや、別に」

としか答えない。

そして、そのまましばらく視線を私に注ぎ続けるのだ。

(ほんっと、意味わかんない!)

空気を読まないにも程がある。

イケメンからの視線を全身に浴びて、緊張しないで平常心を保っていられる方法があるなら、ぜひ教えていただきたい。

そして、ただただ見つめるだけでも、圧倒的な威圧感と緊張を他人に与えているのだと、彼本人にも自覚してほしい。

全ての意識が、久喜さんの方向にばかり集中してしまう。

(これ以上見られたら、体の右側だけ筋肉痛になりそう……!)

腕時計を確認すると次の面談まで、あと10分ちょっとあった。

お手洗いにでも逃げて、気分転換しようと席を立つ。

私がガタッと立ち上がるとともに、久喜さんの目線もグッとあがる。

「―――っ!」

(いい加減、息が詰まっちゃう!)

「な、何か!?」

私は覚悟を決めて、久喜さんに直接尋ねた。

「……何か?とは、どういう意味だ」

しかし彼は、そんな言葉は初めて聞いた、とでも言いたげな表情。

「いや、さっきからずっと私のこと見ていませんでした!?」

「そうだな、しばらく君を見ていた。でもそれが一体、どうしたんだ?」

そしてまさかの開き直り!

脳裏に最悪の出会いだった、初対面のシーンがよぎる。

(ああ言えば、こう言う……)

見た目はイケメンだし仕事もできるのに、一体どうしてコミュニケーションだけが壊滅的にできないのだろう?

私は、今日も爽やかにネイビーのスーツを着こなしている久喜さんに、部下という立場ながらはっきりと物申した。

「用もないのにジロジロ見ないでください! 気が散りますので!」

「……仕事に支障が出ると?」

「そうです! 見られているって考えると、落ち着いて仕事ができないんですよ!」 

久喜さんは顎に手を当てて、何やら真剣に考え込んでいる。

「……そうか、それは済まなかった」

泥水バッシャー事件の時は、あれ程頑なに謝らなかったというのに、この件とあの事件との差は何なのか。

彼の中に「謝罪する」「謝罪しない」の明確なボーダーラインが、おそらくあるのだろう。

久喜さんの思考回路を読み解ける人がいたら、ぜひお会いしたいと思った。

努力や訓練だけでは乗り越えられない”壁”をひしひしと感じて、ガクッと気が抜けてしまう。

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