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その上司、俺様につき!  作者: 皇ハレルヤ
名前のつけられない感情
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第02話

机の書類を読んでいる振りをして、視線だけをちらりと久喜さんの方に向ける。

肘をデスクについて、手の甲に顎を乗せ考え込んでいる姿は、まるで一幅の絵画のようだ。

(……私が芸能関係者なら、絶対久喜さんをスカウトするわ)

でも彼の経歴は謎に満ちていて、誰に聞いても「詳しくは知らないけど」と枕詞をつけるから、噂の域を超えない。

海外でMBAの資格を取ったとか、英語以外にも数カ国語が話せるとか。

はたまた社の上層部に親族がいるとか、実家は代々続く華族の家系だとか。

社員は全員―――特に妙齢の女性は彼の一挙手一投足に興味津々の様子だった。

(左手の薬指に指輪はないけど……未婚か既婚かすらわかんないんだもんね)

容姿もさることながら、仕事はできるわ社長からの信頼も厚いわで、久喜さんに対する社内の好奇心は高まる一方。

そのおかげと言っていいのかどうかわからないが、私に対する風当たりもだいぶ改善された。

総務部で働いていた時は「営業部の問題児」呼ばわりだったし、久喜さんの補佐に任命された当初も「また何かやらかしたな」と冷ややかな意見が多かった。

でも今は、件の女性社員達に囲まれることもしばしばだ。

「久喜さんについて、何でもいいから教えて!」

聞かれたところで、開示できる情報は何もないのだが……。

(プライベートなことは一切話さないから、私もそんなに詳しく知らないの……って誤魔化すだけで、毎日精一杯)

ただ人格的には絶対に問題がある人だと思う、と言ったところで、きっと誰も信じてくれないだろう。

(これだけは確信を持って言えるのにな……)

次の面談の資料を一通り整え、専用のボックスに置いた。

私はホッと一息吐くと、食べかけのサンドウィッチに再び手を伸ばす。

食べられる時に食べておかないと、下手をすれば深夜まで空腹のまま仕事漬けになってしまう。

自分で作るよりもコンビニで買ったほうがよっぽど美味しい、なんて思いながら咀嚼していると、つい先ほどまで眺めていた方向から、ジトッとした視線を感じた。

「……ん?」

恐る恐る確認すると、久喜さんが無表情で私を凝視している。

気のせいでは誤魔化せないぐらい、バチっと目が合った。

(また~? もう本当に勘弁してよ……!)

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