第07話
「俺に何ができるかは、行ってみないとわかんないけどな」
そう言うと、思い出したようにパッとお箸を手にして、おでんのお皿を物色し出した。
「おい、玉子食っちゃってもいいか?」
「……あ、うん。いいよ」
アルコールのせいで、ほんのり顔が赤く染まった飯田君を見つめる。
(お酒もそんなに強くないのに、接待の時は誰よりも飲まされてたな……)
営業部に戻りたいと切望する私が、人事マネージメント事業推進部なんて、奇妙な部署に配属されて。
営業部の期待の星が、人材の墓場扱いされている総務部に異動したいだなんて。
「これからどうなるかわかんないけど、希望が通るといいね」
最初は目が飛び出るかと思うほど驚いたけれど、今は純粋に彼の夢を応援したいと思う。
「うん、ありがと。実は久喜さんなら何とかしてくれるんじゃないかって、ちょっと期待してる」
「そうだね。あの人ちょっと変わってるけど、仕事はできるみたいだしね」
飯田君にとって久喜さんは、ずっと誰にも言えなかった悩みを初めて打ち明けられた存在だ。
頼りに思って当然だろう。
(泥水バッシャー事件のことは、黙っておかなきゃ……)
幸い、あのことはまだ誰にも話していない。
本来ならすぐさま、飯田君や同期の女の子達に事の顛末を聞いてもらいたかったけど、みんなあの見た目と雰囲気に、完全にやられてしまっていた。
むしろ打ち明けたところで、誰も信じてくれやしないだろう。
「珍しいな。遠藤が男性社員のこと褒めるのって」
「……久喜さんは、今まで会ったことのないタイプだし」
目を見開く飯田君の顔を見て、そこまで驚くことなのかと逆にびっくりしてしまった。
「性格とか考え方とかまだ全然わかんないけど、不思議な安心感があるんだよね。”この人に任せておけば大丈夫!”みたいな」
「……そっか」
飯田君が期待している久喜さんを手放しで褒めたというのに、なぜか彼は浮かない顔をしていた。
「……?」
同じ男性同士、久喜さんに対して何か思うところがあるのだろうか?
(そもそも彼の話を切り出したのは、飯田君の方なのに……)
急に難しそうな、なんだか機嫌が悪そうな顔をされたって困ってしまう。
「―――なあ、ちょっと冷めちゃったけど、残すのはもったいないし。そろそろ食わない?」
少しモヤっとしたものの、空気を悪くしてまで無理に聞き出すことでもない。
気を取り直してお箸を持ち直すと、私も食事を再開した。




