第05話
『ほんっとに、辞めたい! 心の中では、常に辞めてやりたいと思ってるの! でも、まだ辞めてやらないんだから! 営業部を見返してやるんだから!!』
『そうだ! まだまだお前はやれる、頑張れるぞ! 俺が見込んだ女だ! あいつらを見返してやれ!』
ぐでんぐでんに酔っ払ってクダを巻く私を、同じくぐずぐずに酔っ払いながらも、飯田君はしっかり慰めてくれた。
店員にビールと軽いおつまみをオーダーし、注文がくるまでの間、以前来店した時のエピソードでしばし盛り上がる。
でも、こうして他愛もないやりとりをしている最中も、思考だけは冷静だ。
今日飲みに誘ってくれたのはきっと、面談の件に違いないことはわかっている。
(私が気まずい思いをしていないか、彼なりに気遣ってくれてるんだろうな……)
あとは彼がその話をどう切り出してくるか。私がどう受け答えするかだった。
そうこうしている間に、よく冷えたビールと枝豆。
おでんやサラダといった一品料理がテーブルに到着する。
「じゃ、まず乾杯すっか!」
朗らかに笑う飯田君は、いつもの調子とまるで変わりがない。
私も彼の明るさに合わせるように、ジョッキを掲げ「乾杯!」と笑顔を作った。
お互い、並んだ料理にあれこれとコメントしつつ、ビールを喉に流し込んでいく。
疲れた体に程よくアルコールが回る。
そうして双方のジョッキの中身が半分になったタイミングで、おずおずと飯田君が話を始めた。
「なんか……ごめんな、今日は」
ギクッと身体が強張ったが、私だって彼ときちんと話したいと思っていた。
「……ううん」
(―――って言うか、謝らなきゃいけないのは、私の方なのに)
会えば、自分の希望する部署の悪口ばかり言う女。
それをほとんど強制的に聞かされていた飯田君の心情を察すると、胸が痛んだ。
謝罪の気持ちをしっかり伝えようと、私も意を決する。
「なんで飯田君が謝るの? 私の方こそ、ごめん。飯田君が総務部を希望してるなんて、全然知らなくって。聞いてくれることにつけこんで、文句ばっかり聞かせちゃって……」
私達以外にも店内にはまだ客が残っていたが、少し席が離れているせいか、ざわめきは届かない。
落ち着いた声で、ぽつりぽつりと飯田君が思いを口にする。
「いや、俺もずっと黙ってたし……」
やはり気まずいのか、言い終えるや否や、彼はすいっと私から目を逸らした。
「うん……確かに、相談してくれてもいいのにって最初は思ったけど、でも後になって、むしろ私には言えないよなって思い直した」
「なんつーか、うん。ごめん」




